覚悟の少女
「こっちの攻撃も忘れてもらっちゃあ困るなぁ?」
ブランは魔力を込めた右手で素早く十回弦を引いて弾いた。ブランの周囲には十本分の光の短剣が宙を浮く。
「展開、包囲」
エルザに指を向けそう呟くと、十本の短剣は光線を必死に避けているエルザの周囲を円で囲うように包囲した。
(・・・飛んで来たら避けられない。だけど、撃ち落とす余裕もない。ここは・・・。)
エルザは覚悟を決めた。
その刹那、ブランは指を鳴らし光の短剣を円の中心に向かって交差するように貫く。
「エルザ・・・ッ!」
妹の危機に声を張り上げるイルザ。
「はははははっ! いいね! 愉快だね!」
生物を壊す瞬間がこの上ない心地いい。壊すことも一種の愛だと、そう理解しているブランは高笑いをする。
覚悟を決めたエルザは光の短剣を最低限の威力に抑え、この身で受け止めようとしていた。
短剣が僅かに動き出した瞬間、素早く足で地面に魔法陣を刻んだ。地面の塗装は雷撃によって剥され、柔らかい土がむき出しになっていた。
「“守護方陣・界”!」
刻まれた魔法陣から魔力で出来た壁の柱が作られる。そして、羽織っていたマントを体の正面へ厚めに重ねる。
短剣が中央へ動き、魔力の壁を貫こうとしたほんの僅かなタイミングで、マントを正面にかざしたエルザが飛び出してきた。腕には一本、浅めに短剣が刺さっている。
そのまま地面へと転がり込むと、先程までエルザが立っていた場所には“月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン”による“ムーンサイド・レイ”が放たれていた。
エルザの覚悟とは、その場で朽ち果てることではなく、体が傷つこうとも必ず生きる。という覚悟であり、その為には“極光の月弓アルテミス”によって作られた光の短剣の威力を抑えつつも、ダメージ覚悟で攻撃を避ける必要があった。
「ふっ、小癪な。だが、そんな攻撃の凌ぎ方であと何回耐えられるかな? ああ!
殺せそうで殺せない焦らしプレイは楽しくて達しそうになってしまうだろ?」
(・・・あの男の言う通り、悔しいけど何回も出来るほど体は強くない・・・。あの巨大な月を何とかしないと)
「ほらほら! 黙ってないでダンスの続きをはじめたまえ!」
またも“極光の月弓アルテミス”の弦を十回爪弾き光の短剣を出現させる。
しかし、そんな防戦一方のエルザの瞳には、不規則でいて規則正しく剥がれている地面が映っており、一つの打開策、月を墜とす方法を思いついていた。
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