雷鳴


グレンと別れた後、エルザは北西に走りつつ索敵魔法をかけてガルムの痕跡をたどる。 いくら北西に走ろうと森を抜ける気配はない。




(・・・スミレの話だと、町があるはずなのに。・・・いや、スミレは裏切った)




走っても、走っても、森。




ガルムの足跡は大地にくっきりと残っている。足幅が徐々に狭くなっていた、イルザが連れ去られた場所まであと少しなのだろう。




(・・・! これは!?)




目の前には木々が隠すように煉瓦造りの館がそびえ立っていた。心なしか、昼間だというのに暗く感じる。




(・・・あのガルムと同じ、不気味な雰囲気を館全体から感じる)




金属でできた門をゆっくりと開ける。




気配を殺して、館の主に見つからないように侵入する。




正面玄関から中に入るには見つかるリスクが高いと考え、館の裏側へ回り込もうと左側へ向かう。


そこには薔薇などで綺麗に整えられた、植物園の様な庭があった。




エルザはそれを純粋に美しいと感じた。だが、同時におぞましい気配を複数察知する。




(・・・ガルム)




イルザを連れ去り、グレンが足止めをしている異様なガルム。そのガルムが三体、薔薇の庭園から殺意を持って現れる。




(・・・物理も魔法も効かない。だけど、最上位魔法なら・・・!)




手の中にある杖を振りかざし、体全体に巡るマナを杖へと集中させ詠唱を始める。




「・・・轟く雷鳴、龍の時雨、祖の鉄槌、貫き注げ!“ボルティック・メテオ”!」




最上位雷魔法である“ボルティック・メテオ”。館の上空には紫の魔界文字が刻まれた魔法陣が、星空の様に所狭しとひしめき合う。




詠唱から発動まで約一秒、改造されたガルムたちはエルザに飛び掛かっていた。しかし、爪が届くよりも先に、館全体に雷撃が降り注ぎ、貫き通す。




青黒いオーラで下位から上位の魔法攻撃を防ぐことが出来ていたガルムであったが、膨大な魔力を有するエルザの最上位魔法は、羽ペンで羊皮紙を貫くようにいとも容易くオーラごとガルムを貫いた。




次々と雷撃に用って焼き焦げるガルム。もう隠れて行動する理由はないので、“ボルティック・メテオ”の矛先は殲滅したガルムから、館へと切り替える。




索敵魔法を同時発動し、イルザの位置を確認する。




(・・・同じ部屋に三人。そこまでの道を作る!)




「・・・“ボルティック・メテオ“!」




ランダム性のある落雷攻撃に見えるが、雷撃を落とす場所は自由に思うまま決められる。




それを相手に悟られないよう、無意味な場所に雷撃を落としつつ、三人集まっている部屋まで一直線に破壊して通り道を作る。




破壊してできた道を急いで進むと、焦げ茶色のスーツを着た男と、青髪の少女・・・スミレが並んで立っていた。




その後ろに腰ぐらいの高さの小さな檻に囚われている姉の姿を確認した。




「・・・姉さん!」




「エルザ! 無事だったのね!」




「この雷は君のかね? まったく、姉妹揃ってお転婆なのも困りものだ。興が冷めてしまうだろ?」




スーツの男は怒りと狂気が入り混じった魔力を体全体から溢れさせていた。


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