合流・鼓動
「きゃあああぁぁっ!」
力と力のぶつかり合いに負けたのはイルザだった。魔力で強化した“真空斬”だったが、“音翼の極光ソニック・オブ・アルテミス”とぶつかったのは衝撃波の部分だけだった。
万全の態勢で矢を放つことのできたホルグの方が一枚上手で、爆風に巻き込まれたイルザは湖に向かって吹き飛んだ。
「・・・姉さん!」
「待て、ここから出るな」
落ちていくイルザを助けに、隠れていた場所から飛び出そうとしたエルザを男の声が止めた。
「・・・グレン! 無事だったのね」
フードで顔が隠れていたが、声でグレンだとすぐに分かった。走ってきたのか息を切らしている。
「ああ、足止めをくらったが何とか追いついた」
「・・・でも無事でよかった。・・・姉さんが湖に、助けに行こう」
グレンの手を強く握り懇願こんがんするエルザ。だが、グレンは真剣な表情でそれを拒否した。
「いや、イルザはまだ無事だ。さっきの戦いを見ていたからな。エルザにはやってほしいことがある」
「・・・だけど」
今すぐにでも助けに行きたいのだろう。声が弱々しく、震えている。さっきまで強く握っていた手は力が抜けていた。
「大丈夫だ、今からいう作戦は結果的にイルザを助けることになる」
グレンは強く手を握り直し、エルザを勇気づける。どこか納得していないようだったが、しばらく考えて口を開く。
「・・・・・・。わかったわ。グレンを信じる」
「ありがとう、それでエルザにやってもらいたいのは陽動だ」
「・・・陽動?」
陽動の意味は分かっているが、なぜこのタイミングで陽動する必要があるのか理解できなかった。
「いいか、あいつはまだ俺に気づいていない。恐らくあいつは目が凄くいいか、透視が出来るか、あるいはその両方の能力を持っている可能性がある」
確かに、見えない場所からの狙撃は目がよくないと出来ない。グレンの言っていることが正しいと感じ頷く。
「だから、気づかれる前に俺があいつを仕留める。そのための陽動だ。エルザは目をくらませる強い光を放つ魔法を使えるか?」
「・・・うん。雷魔法でそういうのはある」
「なら合図と同時にあいつの目の前でぶっ放してくれ」
「・・・わかった」
グレンは腰の麻袋の中に手を入れる、エルザはいつでも魔法を使えるように杖を構える。そして二人はその時が来るまで煙を見つめて様子をみる。
爆風によって吹き飛ばされたイルザ。体は湖へ墜とされる。
水面が体を勢いよく叩きつけ、全身に激痛が走った。意識はまだ保っていたが、激しい魔力の消費と身体へのダメージで体を動かすことが出来ない。
(ああ・・・体動かないや)
底が深い湖、体はどんどん闇に沈んでいく。
(あの攻撃が今できる私の全力だったのに・・・。やっぱり戦い慣れていないから辛いな・・・)
自分の戦闘経験の無さを痛感する。戦ったことがあるのは知性の無い魔獣程度。知性をもって理知的に戦う相手は初めてだった。
(だけど・・・このままだと、あの子たちを守れない。守りたい。強くなりたい)
自分を悔やみながらもなお、守ること、戦うこと、強くなること願う。
(力を・・・力を貸して“妖精の輝剣アロンダイト”)
イルザの呼びかけに答えるように手の中に“妖精の輝剣アロンダイト”は現れ、蒼白に強く、神々しく輝きだす。
(守る力を貸して・・・! あいつを、倒す力を!)
深い闇に染まった水中に、一点の光が闇を打ち消した。
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