男性恐怖症王女の奮闘 ~男子わたくしに近寄らず!~
仕黒 頓(緋目 稔)
第1話 序章
「絶対、今度は絶対負けない……!」
頬や手の甲に擦り傷を作りながら、少年が言う。今にも噛みつきそうに強い言葉に反し、その声は今にも溢れてしまいそうな涙を堪えるように震えていた。
その目の前で途方に暮れながら、少女は申し訳ないような罪悪感を抱えていた。
(泣かせちゃった……)
訓練用の木剣を腰に戻しながら、どうしよう、と少女は考える。目の前の少年とは、今までにも何度か練習で打ち合ったことはあった。そして負ける度に、はち切れんばかりに悔しがっては負け惜しみを叫んで去っていくから、少年のことはよく覚えていた。
しかし今まで、どんな言葉をかけても火に油を注ぐだけで、少女が望むような穏やかな会話はまだ成功したことがなかった。
(普通に、話してみたかったんだけど……)
他の子供たちと違い、唯一自分と対等に近く打ち合える子だったから、ずっと興味があったのだけど。
(嫌われちゃった、かなぁ)
とても残念だと、少女は思う。他の男の子たちのように手合わせを嫌がったり、陰でこそこそと噂し合うようなこともしないから、怒鳴り声は怖いけど、仲良くできたらと思っていたのに。
結局返す言葉を見付けられないまま、二人して互いの爪先を見つめ合う。そうして、少年の、ずびっ、と鼻を啜るような音がして。
「次こそは絶対! 絶対おれが勝つから! だから!」
キッ、と音がしそうな勢いで、少年が顔を上げた。涙できらきらした瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「約束しろ! 今度、おれが勝ったら――」
純粋な涙を飛ばしながら少年が続けたのは、子供同士の小さな約束だった。けれどその数日後、ある事件が起きたために、その約束が遂げられることはなかった。
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