第2話(1-1) 桜18歳。訳あって高校2年生!
さてさて、今日のお昼はなにかなぁ??
お、お肉!様々なお肉がこの弁当箱に詰められているのに、一つ一つが互いの主張を殺さず、されどきちんとおいしさを伝えてきている!この盛り付け方、まさにプロ!!
「桜ちゃん、すっごい声漏れちゃってるから。私の耳にしっかりと届いちゃってるから。」
「おやおや、そんなにこの弁当を作ってきたことを自慢したいのですかな?」
「はぁ、海道先生の気持ち、私はすっごくわかります。」
「そんなことはどうでもいいんだが、なんでお前たち職員室で飯食べてんだ。」
「「ま、気にすんなって。」」
「俺に力があればっっ!!」
現在、私と隣の少女―――
何故かと問われれば、それはもちろん昼時は教室が戦場と化すからだ。
いやー、あんな騒がしいところでご飯なんて食べられるかよって感じじゃん?よそ見してたら頭に穴が開いてましたとか平気であるところだからね。
「いつものことじゃんか。それより先生、明日の課題だけどね、ちょっと両親が他界しそうで・・・」
「突っ込みづらいからそれはやめろ。あと、課題は減らさん。」
「くっ、鬼か。貴様は鬼なのか!」
「桜ちゃん、先生に鬼はダメだよ。」
「平沢、鬼の前にもっとダメなワードがあっただろ。お前も俺のこと馬鹿にしてくるの、ちょっと辛いんだが。」
「あー、贔屓だぁ。先生って最低の教師なんだねぇ。」
「よし、桜。お前は明日から俺がみっちりと課題を教えてやる。安心しろ、量は二倍だから下心を出してる暇もないぞ、よかったな。」
「先生、この肉三枚で手を打ちませんか。」
「桜、課題しっかり家でやってくるんだぞ。」
「先生!!!!?」
楽しいひと時を、私たち以外いない職員室で過ごした後、先生が授業の資料を取りにここを出るというので私達も教室に帰ることにした。
あ、一年生の教室の扉が飛んできた。
ひょいっと扉を躱し、後ろにいた茜ちゃんがそれにぶち当たる。
『ぐちょ!』
「ぐひょ!」
血をまき散らし、不快な音と変な声を同時に上げる曲芸を披露して倒れる茜ちゃんを置いて一人教室に向かおうと・・・
「ねぇ、さくらちゃーーーん、どうして今避けたのかなー?私後ろにいたよねぇ???声かけてくれないとわからないんだぁ、それにどうして放っておこうとしたのかなぁ、茜わかんなーい。」
「ひい!!」
突如として後方に肩を引っ張られ、強制的に振り向かされると、眼前に血みどろになって鼻が曲がった痛々しい少女の顔が広がった。
情けない声を出して必死に逃げようとするも、顔と同じく血みどろの手が肩を掴んで離さない。
「成仏!さっさと天に召されろこの悪霊め!」
「悪霊みたいに害悪なのはお前じゃ!」
『スカッ』
「どうして躱すのぉ、私だけやられ損じゃない!」
「ふふ、そう簡単にやらせると思ったか?貴様はそれだから万年二位なのだよ。」
「くっ、事実だから何も言い返せない!」
他愛ない掛け合いを披露していると、一年生の教室からはっちゃけた男子数人が飛び出してきた。
その内の一人が、おそらく新人教師だろう真新しいスーツを着た大人の男の襟首をつかんで引きずっているのを見て、私達二人は上がっていたテンションが急激に下がる。
「あん?上級生かよ、ちっ、少し能力が高いからって調子乗りやがって、おい!自分たちが生意気だってこと教えてやろうぜ。」
そう言って集団のリーダーらしき男の子が男性の教師をポイっと廊下の端に投げ、私達を囲むよう指示を出す。
「はぁ、私傷治ってないからお願いしていい?」
「ええ、だる。先生が来るまで待とうよー。」
「おい!無視してんじゃねーよ!」
自分達が威圧しているのにも関わらずマイペースに話す私達にキレて声を張り上げる男の子。周囲の子達も、苛立っているのか顔を歪めて私達を睨んでいる。
「あのさ、君たちこんなことしても無駄だって解ってるでしょ?ほんと、だるすぎるからやめよう。こんなことするより一緒に青春を謳歌しようよ。」
「桜がそれ言う?寝るか人をおちょくるしか趣味が無いのに?」
「茜ちゃん、大事な交渉に口を挟まないでくれる?学年トップの学力だからって、勉強ができるだけのお子様はお呼びじゃないのよ?」
「わかりました。もう放課後にノートを見せるのやめるね。」
「私ではあなたの頭脳にはかないませぬ、どうぞ、その賢い頭脳でこの場を収めてください。」
「いや、それ単に厄介ごと押し付けただけじゃ。」
「ごちゃごちゃうるせーんだよ!ぶっ殺すぞ!」
業を煮やした男の子が、拳を握りしめて殴りかかってくる。その手は瞬く間に岩石に覆われ、当たれば骨の一、二本簡単に砕けてしまうほどの威力を秘めている。
他の男の子たちもその行動に続くように火を噴きださせたり、腕を伸ばして拳をロケットパンチのように放ったりし始めた。
そしてその光景を、いまだに鼻から流れる血をティッシュで止めながら平然とした顔をしてみている茜ちゃん。
それらが、ゆっくりとした動きとして視界に映っている私。
三者三様の動きを見せているこの状況で、私は今さっき課された
真っ先に茜ちゃんを後方に移動させる。だって余波を受けてこれ以上傷が増えるとさすがに課題どころではなくなってしまうだろうからね!
そして次に、主犯格の男の子の拳を掴んでクイっと捻り、体もついでに浮かせて前宙の途中のような格好にする。
後は火を噴く男の子を180度方向転換させたり、伸びた腕を折り返して他の男の子の顔に当てたり、とにかくこちらに向いた脅威をすべて排除する。
そして茜ちゃんの元まで戻ってから、集中状態を解く。
途端に巻き起こる、自爆の数々。
思いっきり振るった腕の勢いのまま前宙を繰り出し廊下に背中を強打したり、壁に向かって噴いて火が跳ね返って自身の顔にかかったり、伸びた腕が他の男の子の顔に直撃して気絶させたりと、思い思いの行動をして全員が廊下に転がる。あ、腕伸びた子だけ唖然とした表情で立っていた。
「ふう、疲れた、おなか減った。」
「それ以上食べたら太るよ?」
「それ、本気で言ってる?」
「まさか、冗談ですよーだ。あ、やっと治った、顔洗いに行ってくるね。」
一人駆けだす茜ちゃん。ただ一人状況を理解できていない、背が高くてひょろっとした身体作用系の能力者である男の子の傍を通った瞬間、一般人には視認できない速度で腹パンを繰り出し、蹲ったのを確認しながら再び走ってトイレに向かう。
ああ、茜ちゃんそうとうキレてんな。でも負傷した先生の介護を押し付けてくるあたり、あの子も入学当初からしたら変わったなぁ。
そんなことを思いつつ、私は手厚い歓迎を受けたこの男性を背負って、海道先生の待つ教室に向かうのだった。
いや、見たらわかる、勘違いされて怒られるやつやん、これ。
巷で一時期流行った芸人のセリフをまねて、一人廊下をトボトボと歩くのだった。
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この学校の正式名称は、異能研究学院東京支部。
研究をするのではなく、研究対象を隔離する為のものであり、世界各地に支部がある。
ちなみに本部はアメリカに属する小さな島にある。世界で初めて異能に目覚めた人間が、異能関連史上初めてにして最大の事件、海抜0メートル以上全消失事件により平らな土地となった場所に作られた収容所らしい。
ともかく、私の通う学校は普通の学校とは大きく異なる。
最大の相違点は、なんといっても学園と居住地域を囲むようにして作られた大きな壁にあるだろう。
そう、私達はここに幽閉されている。親、友達、知り合い、そのすべてから隔離され通常の教育と異能の制御訓練を並行して行う。
そんな環境の為学生以外の、つまり大人たちの存在はほぼないと言っていい。居ないというよりは、施設の整備や配給などを行う職員達が私達と接触しないように行動の時間帯などが管理されているため、ほとんど会うことがないということだ。
そもそも異能とは何なのか。
実際の所、それを解明するための研究は一切進んでいない。分かっていることは、1999年に胎児として母親のお腹にいた子供のみ異能を発現するということ。そしてその異能は個人差があり、種類も豊富、そして精神的に不安定になる能力も確認されているということ。
あまりにも不確定。
あまりにも危険すぎる。
そんな異能を持った私達への対処法として設立された場所が、ここなわけで。
外界との接触は固く禁じられており、徹底した隔離、管理が成されている。100人以上の特殊部隊や、壁のてっぺんの自動小銃群が乗り越えようとする者を迎撃するシステムまである徹底ぶりだ。
大体これくらいのことを知っていれば、私達の置かれている環境がどういったものか理解できるだろう。
話を変えよう。
私達の学校が普通の学校と違う点がもう一つある。
それは学年という制度が、年齢の順に上がるわけではない、ということだ。
高校とは私達が勝手に呼称しているだけであり、実際は、1999年生まれの人間は、現在2018年4月をもって、ほとんどの人間が大学一年生ということになる。
しかし、2015年に初めて異能が公に確認されて以降、続々と私たちの世代から異能を持つ人間が発見され、様々な事件や政府の介入などが世界中で起こり、結果、世間が私たちの高校進学を拒否した。
時を同じくして、増加する異能事件の対策として、私達の年代の多くはここと同じような収容所に連行され、隔離された。思えば高校進学が止められたのは収容所に入れるための口実だったのではないかという気もしてきた。
そして収容から二年が経った2017年。
これまで水面下で実行されてきた、異能の制御訓練を学院が大々的に発表し、それに合わせて教育も施していくという政策が打ち出され、私達は二年越しに高校へ通うことができた。
しかし、ここで大きな問題が起こる。
それは、異能を制御しある程度思慮を身に着けた子供と、異能をむやみやたらに行使したり制御しきれていない子供がいるということだ。
その二つを一緒に学校生活を送らせる。
それがどんなに苦難な道なのか。
それがわかったのは、私達が入学してすぐのことだった。
そもそも、私達二年生はきちんと選ばれて入学の許可が下りたのだ。
それでも問題は起こってしまった。ただ選んだ基準が甘かった、それだけの理由で、先生として教育を受けた軍人一人と、その人を怒りで殺してしまい射殺された学生一人という大切な命を二つも失ってしまったのだ。
世間は身勝手だ。
勝手に収容を支持しながら、今度は子供の命を無駄にするなと騒ぎ出した。
それを受けた政府は、基準を大幅に引き上げ、もう何度受けたかもわからない精神分析テスト等を経て、全体の3分の1を再教育と称して『小学校』と『中学校』に降格させた。
『小学校』と『中学校』は一般教育を受ける前に異能の訓練を行う、または歪んでしまった性格を直すという名目で設置されている施設で、前者が中学校、後者が小学校と私達は呼んでいる。
ともかく、これで私達の学年というのがどんなものか分かったと思う。
そして私は今二年生を迎えた。
今年は始めて後輩(同い年)が入ってくるということもあって、教室はお祭り騒ぎだった。
そこから逃げ出したというのに、なんでこう厄介ごとに巻き込まれなきゃいけないのか。
「ねぇ、君は誰に話しているのかな?」
気絶から回復した新人教師の方が、私の独り言を一通り聞き終わって質問してくる。
「いやー、生徒目線の解釈も頭に入れとかないと、この先辛いこともあるかもよって新人教師に教えておこうと思って。」
「そう、だね。私は間違った指導をしたようだ。今後は反省を生かし・・・」
「あ、いや、そうじゃなくて。」
「え?」
「生徒に同情するんじゃなくて、しっかりと自分の役割を全うしてくださいって意味です。今日起こったことはあなたの失態じゃなく、ただの八つ当たりですから。考えてもみてください、この先就職したり結婚したり、とにかく普通の人生を歩めるわけでもなく、娯楽もなく、日がな一日異能の訓練をやらされてきた人間が、急に大人が勉強しなさいって言ってきたら、むしゃくしゃすると思いません?」
「へ?」
突然の八つ当たり宣言を受けて、新人教師は阿保面を晒す。
「役割をこなすコツは海道先生に聞くといいですよ。あの人生徒の中で一番人気ありますから。」
「あ、ああ。ありが、とう?」
そう言って放心状態となってしまった新人教師さん。
それを置いて私は医務室を退出する。
明日から正式に始まる私の高校生活二年目。
期待と不安が入り混じった気持ちを抑え、今日の私に残された最大の試練が幕を開ける。
「ほい、じゃあ、ことの始まりを詳しく聞かせてもらおうか。」
「海道先生、私おなか減ったので何か食べ物ありませんか。」
学校に併設された取調室で、私は銃を向けられながら食事を注文する。
ほんと、明日がすっごく楽しみに思えるわぁ。
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