主人公はアイドルに向いていないのにアイドルになれてしまった女の子。
特にダメなのが、コミュニケーション。
人見知りしちゃう性格の彼女には、ファンを始めとする色んな人たちとの交流なんてうまくできるはずもありません。
だから人気も出なかったのですが、
そんな彼女を救うヒーローが現れます。
ただし、彼女の中に。
つまり主人公はある日突然、二重人格のような状態に陥ってしまうのです。
突然姿を見せた人格を主人公は「アイツ」と呼びます。
そして「アイツ」はアイドルとして完璧な振る舞いをしてみせ、
主人公を人気アイドルへと押し上げます。
この小説が面白いのは、
完璧なアイドルの「アイツ」を、主人公が観察しているところです。
記憶も共有しているタイプの二重人格であり、
「アイツ」が前面に出ていても主人公の意識は保たれています。
そのため「アイツ」の活躍を主人公は、共有している体という特等席で体感することになるのです。
その体験を主人公の一人称で語っていくところが、この小説の大きな魅力です。
主人公は動揺している最中でもどこか理性的であり、落ち着きのある文章で不思議な体験が語られていきます。
「アイツ」という異常を冷静に描写して、素敵なアイドルに変貌した我が身を観察する。
その場にいるのに、それも自分自身のことだというのに、主人公は蚊帳の外。
だからなのか、主人公の語りにはどこか熱がこもっていない感じすらあります。
この奇妙な温度差が読者を物語の世界に引き込んでくれます。
はたして「アイツ」はなんなのか?
当人でありながら蚊帳の外にいる主人公がどのような立ち位置へと移っていくのか?
どのように物語が進んでいくのか、ドキドキする小説です。
あと「レビューの最後に書くことなのか?」とは思いますが、
タイトルの素晴らしさが真っ先に心をつかんできますよね。
非常に美しいタイトルだと感じました。