出番だと言われて来たら竜退治
<出撃体制は整っているな?>の声が轟音と共に聞こえたかと思った次の瞬間、自分の身体が宙を舞っていた。
正しくは自分を縮尺がバラバラな、しかし航空機の模型なのは共通しているパーツで組み上げられた三つ首の竜が両脚で掴んで飛んでいる。
出力とバランスが正しく釣り合ってるのか怪しい大小様々のエンジンが轟音の元だ。
まさしく「航空機の模型のパーツでドラゴンを作った」ような姿をしているそれが、自分と尻尾に巻き付かれながら後ろにいる四脚の機械獣を定期的に痛めつけてきた存在だ。
名前を蒼天、あるいはミハイル・パステルナークという。
「蒼天覆う巨影の竜王」と仰々しい称号を持っている、ウェステッドと呼ばれる怪物(あるいは怪獣)の中でも特に力を持っていると言われている「王」の一人でもある。
そんなものに持ち上げられている二脚の人型兵器もまたウェステッドの一人で、尻尾に巻き付かれた機械獣もウェステッドの一体である。
人型兵器、サイクロプスことマリオ・ビビッドが分かるのはこれぐらいである。
あとは、自分が生前乗っていた人型兵器と今の身体が同じ。ということだ。
辿り着いた、というより下ろされたのは生前の故郷を思い出させる港町のような、海沿いの市街の中心だった。近くには人間サイズのロボットと金髪の少女、そして黒いドレスを着た女。金髪の少女については、蒼天同様王の一人にしてその王のリーダー格と聞いているカーネイジだ。
<サイクロプス、お前にはこれから竜を退治してもらう。七竜の一体…水竜リヴァイアサン。それを撃破し、海域を掌握する>
「いきなり呼ばれて竜退治とか、王様ってのは扱いが荒いのか?」
<ウェステッドの上位者。そうおれ達を定義したのはお前たちだ。上位者、上位種ということはお前たち下位種をどう使っても問題はないはずだ>
「こっちはそんな事は言ってないんだけどな。それで、その竜はどこに?」
<探し方は分かっている。これから見つけ出しに行く>
わざとひっくり返った状態で置かれた機械獣、ライノガンナーが呻くように電子音声を流す。
<冗談だろ?今から探しに行くのか?このだだっ広い海のど真ん中で?>
<いや、リヴァイアサンはここにいる。探す必要はない。呼び出せばいい>
見れば、海は途方もなく荒れ狂っている。これでは船を出すのも一苦労だろう。
だからなのだろう、人気がない通り越してそもそも人間がいないのは。
それともこの世界では何もかもを滅ぼす怪物として恐れられているのが何体もいるからなのか。
「呼び出すってどうやって?ここで大声で呼びかけるのか?」
<いいや、すでにリヴァイアサンはいるんだ。正確には、この海面そのものが奴だ>
<この雨が降ってもいないのに荒れ狂ってるこれが?>
<これは奴が餌を獲る時の形態だ。蛇が獲物を絞め殺すように奴は獲物…生贄や魔物を溺れ殺して捕食しているようだ。あるいは、ヒトデのようにむき出しの胃袋かもしれんが>
「じゃあこの海にありったけの毒でも撒けばいいんじゃないか?あそこのカーネイジはそうするって聞いたぞ」
カーネイジと叢雲と呼ばれる王の一体は、自分達をクラスター爆弾の雨で痛めつけてきて今まさに無茶苦茶を言っている機械竜よりもでたらめだという。
会話したことがないため、真相は分からない。
<すでに試してみたが効果がない。この世界の海を汚染し尽せるほどの毒素が必要か、そもそも効果がないと判断した。そこでヤクモに相談したところ>
頭の中に映像が流れる。表示されているのは爆弾のようにも見える金属製の容器だ。
<ヤクモ曰く、対異能・妖怪用結界爆弾というものらしい。平たく言うと異能版EMPパルスとのことだが…要はこいつでこの海全体に流れている魔力の流れに干渉し、リヴァイアサン本体を引きずり出す>
続いて、豪華な装飾品を身にまとったワニとトカゲを足したような生物が表示される。
<こいつがリヴァイアサン本体だ。この姿もどうやら仮の姿らしいが…情報が不足している。前回遭遇した際に仕留めたと思ったんだが、生きていたようだ>
この世界において、神に等しい存在といわれている七体のドラゴン。
その内二体を倒して、竜を信仰する神殿を真っ赤に染めたのが今話している機械竜だ。
<この状態にできたら攻撃が通じる方法が分かる。まずは奴を引きずり出す>
言うが早いか蒼天が轟音を立てて飛び去っていく。いつのまにか自分とライノに牽引ワイヤーをくくりつけて。
「待て!俺たちはどうやって海に浮かべば―――」
<その場で何とかしろ>
<貴様ふざけるな――――>
電子の罵声を浴びせるうちに、二機は海に突っ込んだ。
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