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夜の森を、十数人の男女が悲鳴や怒声を上げながら走っている。

誰も彼も若者、もとい青年ほどであり、ほぼ全員がこの世界における一般的な衣服を身に付けている。

暫く走り続けて、少し開けた場所に着いたところで一行は止まる。

少ししてから、始まったのは言い争いであった。

誰のせいだとか、こんなことになったのはなぜなのかという責任の押し付け合い。

答えのない争いは盛り上がっていき、一人が声を上げようとした次の瞬間。

彼が綺麗に両断されたことで中断された。

左右に分かれた人体の向こうに現れたのは、夜闇のごとき黒、正確には藍色と黒だが。とにかく夜のような色のドレスを着た、両目を隠した女性。

藤森椎奈。またの名をシーナ・フリューテッド。最近ディートリンデという通称が与えられた、この世界に彼ら同様やってきた異世界の住人である。

彼らが森の中を走っていたのは彼女に追われていたからであり、彼女は彼らを殲滅することが目的だ。

時を数時間ほど巻き戻す。


「愚連隊の排除?暴走族でもいるのこの世界」

「愚連隊と書いて虐殺専門の汚れ仕事部隊…と言うにはちょっと違うな。使い捨ての部隊、か?」

「ちょっと普通の部隊には、かといっていざという時に頼る部隊に任せるにはちょっと面倒な仕事をするための…マジで村焼くための部隊ッスねこれ」

椎奈の前に一つ目に見えなくはない頭部を持った巨漢のサイボーグと、それよりは小柄だが完全にロボット兵士が目標に関する書類を見て言う。

数時間後、森の中で身長190cmほどの長身の女性こと椎奈に襲われている彼らに関する書類で、そこには異世界転移した彼らがいかにをしてきたのか事細かく書き込まれていた。

簡単にあげるだけでも、敵対意思のない異種族への虐殺や弾圧、民間人の虐殺だけで数行が埋まるほどである。

リーダー格とされる人物、そして他38名の顔と名前、どのような武器を使いどのような魔法が使えるのか、異世界からの来訪者が持つ特異な能力の有無なども、正確に全て記されている。

「対抗する国の勢力内にある町村への破壊、虐殺行為、異種族への弾圧もしくは虐殺、必要以上の魔物の殺害、所属している国内部でも問題行動多数、でとうとう自分達を召喚した国から暗殺命令が下ったわけか。可哀想だが、こいつらはアメリカの敵になるかもしれない。ここで死なせてやろう」

「しかし、数が多いッスねこいつら…日本の学校の一クラス分あるッスよ」

「実際一クラス分はいるわよ。私の学級と同じくらい。貴方達で言う、一個小隊?」

「一個小隊をたった数人でやるのか、一人残らず」

「まあいいじゃない、私達はそれができる、できてしまう。だって私達は怪物なんでしょう?」

「怪物でも出来ることとできないことと無茶くらいある。なんで王様来ないんだ?」

「頭の悪いザコをいびる興味はないとかなんとか、忙しいとか」

「ま、宮廷道化師だの宮廷騎士だの名乗ってくっついてるし、ここは王様に従う騎士らしく王様の手を煩わせずに俺達でやろう。蒼天とヤクモがサポートしてくれるから、取りこぼしの心配はないぜ」

「騎士なら魔物だの敵将を討ち取りに行くべきじゃない?」

「王様が困るレベルの魔物や将軍なんて俺らが手に負えるわけないだろ」

「むしろ王様を殺してくれって魔物と将軍から依頼されるッスね」

「そして王様はそんな魔物や将軍に俺たちの抹殺を依頼するわけだ。一回くらい腹を割って話すべきなんじゃねえかな、でかい事を起こすって話だし」

「王様たちって俺たちと話す気あるんスかね」

「なきゃ俺たちを無駄死にさせないタイプの王様に従うまでさ」


一時間前。

そして、事が起きる一時間ほど前に一行はその愚連隊の活動地点に到着した。

暗くて何も見えないが、遠くの方が明るいと椎奈の目は感じている。

ビースト、ジョンが視覚センサーを調整して明かりの方を凝視する。数秒して、明かりが燃えている多数の家屋であることを確認する。

「ここ何の村だっけ、イノシシ?」「温厚なオークの村らしいっスね、ディートリンデ、豚が焼けるいい匂いとかするッスか?」

「全然香らないわ。昔…昔よね、うん、髪の毛を焼いてみたときに嗅いだ臭いだったらすごいするわ、おおよそ美味しそうと言うには真逆すぎるくらい臭いけど」

「オークは焼けても焼肉の匂いはしない、か。こりゃミノタウロスも怪しいな」

「あなたたちアレらを食べる気なの?人の形してるし、食べられそうな部分ないわよ?」

「カーネイジにも言ってやれよ、あいつ捕まえた奴の目の前でそいつの足齧るとか言うぜ。その後隠れて吐いてるって旦那から聞いたけど」

「相手をビビらせるには1番手っ取り早いんですって。吐くくらいなら止めればいいのに」

「それで、どうやる?」「とりあえず一発ミサイルをぶちこんで、ディートリンデ、なんとかするッス」「私が?」「俺たちはインテリ、お前はアウトドアだろ」

「私だってインテリなんだけど」


そして今。

「いやだから、ギブアップは降伏で使うものじゃないって、ギブだったけども」

≪どちらにせよ、村に残っていたのはこれで全員か≫「残りはディートリンデとベリーハードな鬼ごっこの最中ッス」

未だ家屋が燃えてる中、オークの亡骸に加えて少なくとも剣や弓矢で殺されていない人間の死骸が足元に転がっている中で、ジョンは遥か上空の蒼天と通信していた。

「たった今、残りとディートリンデが交戦に入った。…全滅を確認した。主要目標のリーダーの死亡も再確認した。任務は終了だ」

「よし、また一つアメリカの敵になるかもしれない奴らが死んだな」

「そッスね。…しかし、こいつら本当に学生だったんスかね。楽しいとか、魔物だからとかみたいな理由だけで虐殺なんてほんとにできるものなんスかね」

キルストリークことロンが、自分の後元の死体を見て呟く。

まるで一学級みたいな数だ、と言ったのが現実になったかのように、後頭部が吹き飛んだ男は男と言うよりはまだ少年だった。

「学生証見る限り、日本人だが…日本でもスクールカーストの概念は強いのかもな。主導はディートリンデに引き千切られた奴とその取り巻きで、他はそいつらに従わされていたようだが。まあ仕留める側にとっちゃ誰が主導でもどうでもいいな。主に俺にとっては」

「どっかで聞きかじったみたいに捕虜の取り決めとかどうとか言い出した時にはこれが日本のMANZAIって奴かって思ったッスよ。その捕虜を面白おかしく殺してたってのに」「ずいぶんと血生臭い漫才だが、とりあえず全員は面白おかしく殺さず一発で楽にしてやったってことで終わりにしよう。蒼天、ディートリンデを呼べ。血の香りを嗅ぎつけて別の何かや頭がおかしくなった同類ウェステッドが集まってくるかもしれないしな」≪了解した。ディートリンデ、聞こえるか?≫


「聞こえるわ。もう終わったのね」

地面に突き立てた剣によりかかりながら、森の中でディートリンデこと椎奈は自分が作った死体の山を眺める。

一人を真っ二つにしたあとは、彼女なりのいつも通りを実行した。

力を溜めるように屈んで、バッタのように飛び出せば、次の瞬間には自分と同い年っぽい、髪を染め切れていない少女の顔が顔いっぱいに広がる。本人は弓を構えようとしていたが、矢を彼女に放つよりも先に左肩から大剣の刃がめり込み、袈裟斬りというには豪快な一撃で斬られ、人体が回転しながら飛んでいく。

そのままもう一回振れば、隣にいた少年の上半身と下半身が永遠の別れを告げる。

2、3発彼女の頭部を激しく揺らす振動と、熱。目隠しを裂いて瞳を露出させて確認すると、武器屋で何回も見た杖や魔導書を構えているのが見えた。

ビキビキビキッと擬音を付けれるような異音を立て、彼女の上半身と顔が歪んで変形する。

魔女の帽子を被った、灯りのようなブロンドの髪を持つ女性の姿に変化して、左手を攻撃の主に向けると、初歩的な火球魔法よりも遥か高位の火属性の魔法…名前をフレア・レイとも熱線と単純に呼ばれる超高熱の光線が複数の光球から瞬時に放たれ、着弾と同時に大爆発を引き起こした。攻撃された方向を確認した時とは別の瞳が、敵が一瞬で蒸発するか人の形をした炭から塵に変わったのを認めると、再び姿形が変わって格闘家のように素手や鉄爪で殴りかかってきた二つの内一人の顔面にまたまた別の姿に変わった拳がめりこみ、ギャグ漫画のように顔に拳が埋まり、少しして何かが堪えきれなくなったように後頭部が弾けた。

もう一人が繰り出した鉄爪と、腕に着いた籠手がぶつかり合って火花を散らすが、その次には槍のように繰り出された蹴りが、鉄爪持ちの腹部を直撃して数メートルほど吹き飛ばした。口から吐しゃ物と血を吐きながら、何かしらのスキルの発動により即座に起き上がった彼の顔面に、ブーツの底がめり込んでもう一度地面に叩きつけられ、思いっきり踏み潰された。

銀髪に、白を基調とした軽装の服に返り血がつくも、意に介さずに姿が椎奈の姿に戻る。


そして、戦いが終わる。戦いと言っても、掃討戦か虐殺の仕返しを戦いと言っていいのなら、ならば。

頭が潰れた死体、胴体が分断された死体。どこかしらが欠けた死体。

人の形の炭となった死体。地面や木に顔面を埋めた死体。精肉工場のゴミ箱の中身のようになった死体。

彼女の後ろの方の、少し開けた場所には、彼らのリーダー格と思われる少年たちが、記録にある様な狼藉の代償を支払ったかのように、辛うじて頭が原形を留めた状態で転がって…散らばっている。

死体の山。対して自分は、精々髪の毛が少し焦げるか、攻撃を腕で受け止めた時に出来た切り傷や、あざくらいなものだ。

半分ほど記憶が失われている、この世界に来てからの戦いで負ったような怪我に比べたら、全くもって軽傷、傷にカウントしていいのかも怪しくなるような。

楽しいから戦っている。楽しいから殺している。

自分の戦う理由なんてものは、自分が今惨殺した彼らが狼藉を働いていた理由とあまり変わらないのだろう。


「なら、カーネイジはどうして戦うのかしらね」

自分以外は虫か喧騒を遠くで警戒する動物しか息をしているものがいない中、彼女は誰かに尋ねるように呟いた。

誰も答えてくれるわけもなく、そして問う相手のカーネイジにそんな事を聞いても、彼女には分からないことを返すだけであった。


「正当な戦う理由というのは、あるのかしら。楽しみ、憎しみ、他は…使命?大儀?」

「私が戦う理由は…生きている理由は…なんなのかしら?」

「…私って、どんな人だったっけ」

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