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どこを航行しているのかも定かではないが、それは確かにどこかを当てもなく進んでいる。あるいはかつてはあったかもしれない。だが、今や目的地を失い、それだけが残ったことで永遠に動き続けている。

それがいつから存在しているのかも、わからない。

たった今現れたかもしれないし、ずっと前からそこにあったのかもしれない。

だが、それはそれ自体にも分からない。だが今は存在する。


それは、二重螺旋構造をしたである。

ゆっくりと自転しながら、何もない空間をひたすらに進み続けている。


その内部は、上下に灰色のビル群を持つ人工的な都市だ。

中心には今まさに光ろうとしている人工太陽がある。二重螺旋構造の塩基に該当する箇所一つ一つが上下に都市を、中心に太陽を持った二つの町である。

恐らく夜明けの時なのだろう、光が徐々に強くなり、何らかの方法で再現された人工的な空が黒から青へと変わっていく。


しかし、それを見やる人影は何処にもない。だがそれはいる。


それは、気の遠くなるような時間を経て、肉体はおろか魂すら失った、生命かも怪しい存在である。

きっとかつては、外宇宙、あるいは新たな星を目指した移民船だったか、それとも故郷を捨て新天地を求めた箱舟だったのかもしれない。

しかし何かのきっかけで、今やどことも知れない、何もない空間を彷徨い続ける幽霊船となっていた。

恐らくは宇宙の始まりから終焉にも匹敵する長大な時間に在り続けたそれは、船の形すらも変わりながら、肉体も魂も、生き物として必要なものをすべて失ってもなお、在り続けて航行を続けているのだろう。


だが、今それは目的がある。

目的が芽生えている。

何もない空間を進む、二重螺旋の巨大船。惑星にも匹敵する巨大な箱舟が、三隻。

離れないように、しかし近づきすぎないよう絶妙な距離を取りながら、目的のために進んでいる。

それが、世界に気付いたのはいつからなのかもわからない。

だがそれが最初に世界に気付いたのだ。

無数の世界を内包する空間に。

それは、もはや記憶すらあるかも怪しい中、そこに関心を向けた。かつての目的であった新天地を思い出したのかもしれない。


そして、それは遂に世界にたどり着いた。

厳密には空間に向けて無作為に転送したのだ。それを。

世界の住人たちからは、それは人の形を取る黒いモヤに見えただろう。

そのあと、それ自体も予想外の事が起きた。

人、生き物、ロボット、乗り物、とにかくそれが何かに自らのを伸ばして触れた次の瞬間。

黒いモヤだったはずのそれは、触れたものへと変身していた。

ヒトであれば人間に、ロボットであれば触れたロボットに、生き物であればその生き物に、電子レンジなら電子レンジに、車なら車に。

それ自体にもこれは予想外の事態だった。自身にこのような能力があることなど、分かっていなかったのだ。

混乱しながらも姿が変わったそれらは船へと帰還した。


それからしばらくして、それらの中で世界に赴くことがブームとなった。まるで旅行をするかのように、それらは転送装置をくぐり、どこかの世界に降り立ち、不便ながら自由に活動できる肉体を得、あるいは模倣する。

始めはただ模倣しただけだが、ある時長い間模倣を続けていた一つが、突然模倣元の姿を元に、あるいは全く別の姿へと変化した。

それは彼あるいは彼女といえる状態へとなったのだ。


それらが導き出した答えは、。黒いモヤ以外に説明できない存在から、一つの存在や生命体へと変わったのだ。

もしかしたらそれは退化かもしれない。間違っているのかもしれない。だが、それはもうそれではない。

新しい存在、あるいは存在としてのあり方を思い出した結果なのだ、と。

そしてそれらは一つの目的を打ち立てた。


もっと模倣を、世界の探索を。

何かがあったはずの、この船と自分たちがなんだったのかを思い出せずとも、生き物としての、存在するものとしての、在り方を思い出すこと。


こうしてそれ、否。彼らは思い出すための調査を開始した。その先に何があるのかはわからないなくても。


だが、世界の住人たちにとって彼らのその行動は、最も上がりやすい感情としては。


恐怖だった。


そして双方にとって不運だったのは、彼らはあらゆるものが失われていたために向けられている感情が恐怖であることがわからなかったし、そしてその果てに向けられた攻撃、暴力がなんなのかも分かっていなかった。

結果、攻撃を受けた彼らはそれが一つのコミュニケーション方法なのと勘違いするよりも早く、模倣元の行動に従って反撃を開始することになった。


その一方で、個性を得た個体たちが独自に活動することで攻撃以外のコミュニケーションがあることを知った彼らは一時退却し、策を練ることにした。

攻撃を受けずとも、攻撃しなくても、調査を行うための策だ。被害を受けていると判断していたのか、死人が出たからなのか、定かではないが。

不要な戦闘は避けるべき、という判断が上がったのだろう。


そのために、彼らは一つの組織を設立した。


それは、調と呼ばれるグループだ。

名前の通り、世界を調査することを目的としたグループで、移動能力を持った研究施設を一班ごとに与えられた彼らは、個体を持ったもの、模倣体を持ったものたちに見守られながら世界へと向かっていった。


そして、世界の住人、もとい世界から取り残され、彼らと対峙することとなった者たちからは、いつしか彼らはこう呼ばれるようになった。


模倣者たち。空想模倣怪人。

イマジナリー・エイリアン、イマジナリー・フォーリナーを経て。


模倣生命体、イマジナリアンと。


誰かが、彼らを架空と現実の境目に存在する生命体と言い始めたことで、空想上の存在ということでイマジナリー、という単語で呼ばれるようになり、転送装置を用いて現れることからエイリアン、フォーリナーが後ろにつき、そして

イマジナリアンという名前に決まった。


今、どこかの世界で活動しているウェステッドたち。

彼らとは関係はない。だが、彼らが今1番集まっている世界。


そこには既にイマジナリアンたちが降り立っている。

だが彼女たちは調査隊ではない。彼女たちは、その調査隊を救出するために新たに結成された集団だ。


きっかけは、調査隊が旅立ってしばらく、数ヶ月か、数年、数十年数百年、またも宇宙が一度生まれ一度死ぬほどの時間が巡ったのかは定かではないが、ある通信を、イマジナリアンの母艦、これもいつの間にか「外世界航行艦 イデア・ユグドラシル」と名付けられていたのだが。

とにかくユグドラシルが通信を受け取ったことだった。

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