Chapter3-4「事案13-3:オーク・ゴブリン襲撃1」

まずそこを説明すると、そこは洞窟だ。

転生者によって定められた大規模クエスト、通称レイドクエストの舞台であり、突如この付近に出現した大規模なオークとゴブリンの混成集団の巣でもある。

ゴブリンは夜目が効くと言われており、故に洞窟内部に明かりを置くことはないのだが、そこは元々小規模の炭鉱であり、同時に逆に暗闇では鳥目になるオークが点火したのだろう、壁に吊るされた松明が火を灯していた。


その内の一つが、ゴブリンの金切り声と共に飛び散った血飛沫で消えた。

女性が無理矢理獣のような雄叫びを上げているような声と、ゴブリンの叫び声と、やや年を取った男性らしき声が洞窟一帯に響いている。時々少年か少女のような、若い声の悲鳴も聞こえているが、雄叫びと叫び声でかき消されており、悲鳴を上げているのかは判断できないであろう。

閉所にも関わらず何匹のゴブリンたちが槍を持ち全速力で何処かへ向かう。

「行け!行け!奴に進ませるな!槍で押し返して追い詰めるんだ!」

ゴブリンたちに檄を飛ばしているのは同じゴブリンである。しかし、腰巻や最低限の下着しかつけていない走るゴブリンと異なるのは、醜いとしか例えようのないゴブリンの顔にしては整っており、悪い歯並びは普通の歯並びで、身に付けているのも革の鎧にある程度の鉄板を取り付けた軽装の鎧で、鷹の羽をつけた帽子を被っていた。

ついでにいうとズボンを穿き、勿論パンツも穿いている。

彼こそが、本来ゴブリンと呼ばれる種族である。魔物の種族においては、人間とドワーフ族と小人族を兼任している存在であり、命令を飛ばして走らせている醜いゴブリンたちは、彼らが自分自身をクローニングして産み出したクローン兵士たちである。


そして彼に命じられて槍を持ったゴブリンたちが着いたのは、洞窟の中でもそれなりに広い空間であった。元はここで鉱石などを採掘されていたのだろう、砂袋や古びたつるはしなどが、後から入ってきたゴブリンたちが片づけて隅や端っこに移動させられていた。また何処かからやってきた彼らが持ち込んだ木箱もそこに置かれていた。中身は食料品や武器が主であり、食料を除いて現在武器箱の殆どはカラである。


「ギャアアッ!」と叫びながらゴブリンの上位種、ホブゴブリンが大きな胸に見合うほどの大きな傷を受けてその木箱の幾つかを粉砕しながら飛んでいった。

先程の雄叫びのような叫び声は、ゴブリンやオークたちが武器を手に空間の真ん中にいる何かに躍りかかる度に聞こえ、その次にはゴブリンかオークのどちらかが悲鳴を上げて何らかの致命的な傷を負いながら倒れ伏したり、転がったり、先ほどのホブゴブリンのように吹き飛ばされた。

その一歩後ろでオークに命令しているやはり鎧や兜を身に付けたオークが、当然のように言葉を発して駆けつけた増員にも命令する。

「いいか!侵入した奴らはこいつで三匹目だ!うち二匹は追い返した!このままこいつも追い返すか倒すぞ!怯むな!数ではこっちの方が上なんだ、このまま消耗させて追い込むんだ!」

どうやら彼らはレイドクエストに参加した冒険者たちに加え、何かの侵入に対抗しているようだ。小柄なゴブリンは向かうだけ無意味なのだろう、彼らは全員槍を持って何かを食い止め、代わりに人間よりやや大きいホブゴブリンやオークが棍棒や人間サイズにしては大きい剣や戦闘用の大鉈を手に何かに飛びかかっていた。


何体目かのオークが頭蓋骨を叩き割られて倒れ伏して、その何かの姿がはっきり見えた。

腰に届きそうな黒髪ストレート、赤みがかった瞳、黒を基調とした一般的な戦闘用ドレス、そして女性にしては高すぎる身長と、身長に見合いそうなほど大きい胸。

その手には身の丈よりやや短いほどの大剣が握られており、刀身から滴る血から、周りに倒れ伏した魔物たちはこれによって倒されたことが分かる。

一見すれば身長と胸以外は普通の女性冒険者に見えるだろう、しかし背中を突き破るように飛び出した一対の尖爪が、彼女が尋常ではないものだと示していた。

それは藤森椎奈。現在はシーナ・フリューテッドという名前で冒険者となった転生者である。そして、深淵種のウェステッドである。

一見彼女相手にオークとゴブリンたちが苦戦しているように見えるが、実際は徐々に彼女は追い詰められているのだった。


彼女が洞窟内部で大立ち回りをすることになる、およそ一時間前。


まずそこで起きていた事、それは混乱だった。

洞窟内部は乱戦となっていた。というのも、魔物たちはここまで早く、かつ大規模なレイドクエストが組まれることなど知る由もなかったため、突然練度がバラバラな冒険者の大群の攻撃を受けた事で一時的な混乱状態になった。クローンゴブリンは特に、奇襲をする際の気配の遮断能力の高さは優れているのだが、こうした突然の奇襲に対する対応力はないに等しかった。逆にすぐに立て直せるクローンオークは数が少なく、またこの時は長旅で疲れていたのもあり、その多くがその場ですぐに寝入ってしまっていた。


そしてもう一つの原因、それは。

「話にないぞ!なんで、何でこんなところに、!?」

「クソ!奴はどこから、いや!?」

冒険者の一人とゴブリンが同じ事を同時に叫び、次の瞬間の後、まるでかのように冒険者の頭の右半分が消失し、ゴブリンは首から上が突然消滅し、同時に血飛沫を上げて倒れた。

それを見た少女の冒険者が腰を抜かしてその場に尻もちをついた。

「や、やだ、来ないで!誰か、だれかぁ!」悲鳴を上げた彼女の前で無慈悲にも先程の軽い音が数回響くと、必死に向けた短剣が喰いちぎられたように刃を失い、次に握っていた手を、次に腕がやはり見えない怪物に食われたかのように、一瞬で食べられたように消失した。

それを見たのと直後に走った激痛で彼女が悲鳴を上げたが、その悲鳴にかき消されながらもう一回鳴った後、その顔面が消失し声が途切れた。

音の主は、大きさが1.5mほどなのを除けばハムスターだった。

しかしよく見るとその両手は何故か人間の手であり、ハムスターの着ぐるみの前足部分から人間の腕が飛び出しているような状態で生えていた。

そしてその可愛らしい頭にあったのは、一対ではなく三対の眼球。縦に三つ並んだその眼は三つとも異なる方向を向いており、血が滴っている口からはうわごとが絶えず流れていた。

もまた、椎奈やカーネイジとミグラント同じ、ウェステッドだ。

種族は獣種。形態は第四形態であり、今や彼は理性を失い、見境なく襲い掛かる怪物と成り果てていた。

まるで、自分達ウェステッドを人食いの凶暴な怪物だと言う人々の言う通りだと、己で体現するかのように、彼もまた、人を殺し、喰らうのだ。

「はい!バイト!シフトください!バイト!バイトなんです!はい!はい!」

バイトと連呼しながら二足歩行を始めたハムスターのような頼りない足取りで彼、バイトマウスは洞窟を彷徨う。


また、洞窟に侵入し混乱を招いているのはバイトマウスだけではなかった。

「ムレガタリだあっ!!」そう叫んだ中年の冒険者の首が刎ね飛ばされ、同行していた神官らしき女性の足元に転がった。

杖を抱えて震える彼女の目の前にいたのは、一見すると巨大な木の葉の集まりに見える。しかしそれが木の葉の集まりなんてものではないのは、それが羽音を鳴らしながら宙を舞っているのと、それが腹部をサソリの尾のように持ち上げている葉っぱのような模様と色合いの巨大な昆虫というのが証明していた。

それに首を刎ね飛ばされた冒険者が言うように、その名前はムレガタリという、立派なウェステッドの一体だ。

ただ彼らが知らなかったのは、ムレガタリはもう一つの名前を持つということ。

もう一つの名は、カタラレズ。ウェステッドは基本的に人間から成るものだからか、時々奇妙な性質を持つことがある。

例えばこのムレガタリというウェステッド、植物種と蟲種の混合種、植蟲種のは巨大な葉っぱのような外見をした昆虫のである。

常に群れで行動する姿のみ目撃されているため、ムレガタリという名前がついたのだが、もう一つの名、カタラレズの意味は単純だ。

群れているときの彼女達は戦いに消極的であり、むしろ一方的に蹴散らされてしまうほど弱い。

だが、少ない群れや一匹しかいない場合の彼女達は別である。

から、カタラレズという名前が、同類であるウェステッドに名付けられたのだ。

なので、一匹しかいない彼女を前にした神官に待ち受ける未来は明確である。

唾液に塗れた牙が松明の火で煌めいたと思った瞬間には、彼女の首は胴体から離れていた。

そうして目撃者をいつものように排除した彼女らは、自らの異能である「遮断」を用いて洞窟内の全てのものから気配を遮断して、再び洞窟の闇へと消える。

彼女らはいつだって臆病で、外敵だらけのこの状況で動くという自殺行為は出来なかった。


「お願いします!お願いします!週5!週5出れます!五時間行けます!週一は勘弁してください!お願いします!」

この世界では転生者にしか分からない言語で喚きながら自身の異能の「咬合」を繰り出して魔物と人間を無差別に襲うバイトマウス。

「ウェステッドだ!ウェステッドが現れたぞ!」喚きながら同胞と敵である人間を噛み殺していく彼を見たゴブリンが叫んでから、殺気のようなものを感じて通路の端から覗くのを急にやめて顔をひっこめた。瞬間、。ここは洞窟。風が吹くことなど魔法以外にはそうそうあり得ない。

「奴の異能は視界に入った奴を狙う「噛みつき」だ!槍部隊、前へ!」

彼の号令を聞いたゴブリンたちが槍と木の板の盾を持ってバイトマウスへ向かっていく。足音と声の方向を向いた彼の顔を見たゴブリンが顔を嫌悪に歪ませた。

合計六つの目がグルグルグリングリンと忙しなく動き回り、不意に向かってくるゴブリンたちに全てが向いたからだった。

その違和感極まりない光景を見たので、彼は気持ちの悪い怪物を見たかのような顔になったのだ。

「おお、お願いします!母が、母が?病気、交通事故?有給!」

訳の分からない、または彼の記憶が言葉になって濁流のように流れているのか、彼が「バイト」と呼ばれている理由の一つが漏れ出ているのをBGMに、ゴブリンたちが盾を構えながら一斉に槍を突き出す。

「あ、ああ、あああ!バイト!伐採!何でもやります!お金!鐘!金!かね!」

喚きながら口を開き、空間を何度も噛む。すると音の後に、彼に刺さろうと迫っていた穂先の殆どがバキン、バキンと金属が砕けるような軽い音と共に消えていた。

しかし、その後ろで構えられた盾に穴は開かなかった。

それを物陰から窺ったゴブリンは自分の仮説が当たっていたことに気付く。

「やはりか、奴の異能は「噛みつき」を飛ばす攻撃、あいつの口で齧りきれないものには通じないんだ…!いいぞ!そのまま盾で押し返し…っ!?」

「解体!お金!兄さん!清掃!腐った兄さん!兄さんの足!目!」彼は噛みつけなかった槍が刺さるのも構わず人間の原形を保ったままの両手に生えた鋭い爪を盾に突き立てると、そのまま紙でも破くように引き裂いた。そうして現れた驚愕の表情に染まったゴブリンの顔を、今度は実際に噛みついて喰いちぎった。

「クソッ!異能が通じなくても力があったか!」異能に頼るタイプのウェステッドは身体能力が低いことが多い。このゴブリンはバイトマウスがそのタイプだと推測したのだが、その予測は外れてしまった。

障害を難なく破壊したマウスは訳の分からない言葉を漏らしながら進み、そして突然吹き飛ばされた。

子供くらいの大きさの、葉っぱの塊のような昆虫が腹にめり込んでいた。

先程潜伏していたムレガタリことカタラレズであった。これ以上彼を放置していてはこちらにも被害が及ぶと判断した彼女は、彼を排除することを決めたのだ。

「害虫駆除!妹!妹?ばあちゃん!蜂に!蜂に!」自分が何に吹き飛ばされたのを確認したマウスが一際大きな声で喚きながら悲鳴のような叫び声を上げて彼女に飛びかかった。それを見たゴブリンが手元のレバーを引いた。

すると、地面だったそこが両開きの扉になったと思ったら、次の瞬間にはそれが開いて二匹を奈落の底へと落とした。

本来は冒険者を排除、または分断するためのトラップであったが、これ以上ウェステッドの被害を増やすわけにもいかなかった彼は躊躇わずに使用した。

場所によって落ちる先が異なっており、二匹が落ちた先は地下水脈でそのまま海まで繋がっている。生死はともかく、ここには戻ってこれないだろう。


椎奈が現れる一時間半前。洞窟近くの森。


そこは空模様に反して霧が深い森だった。しかし、この森は普段はこうも霧が深くなく、この日だけ妙に深い霧が森を包んでいた。

「勢いに任せて飛び出したはいいけど…ここ何処なんだろう…」

そう言いながら冒険者と魔物の死体がそこかしこに転がっている中を走っているのは藤森椎奈である。馬車に乗って、降りろと言われて降りて、そのまま死体を辿って走ったはいいが見事に迷ってしまったのだ。

そして本当に迷子になっており、洞窟を通り過ぎようとしていた。

本来なら先導者として銅以上の冒険者がいるはずなのだが、彼女の時は何故かいなかった。勿論運命のいたずらなんかではない。

例えば今跨いだ、埃のようなものに埋もれた死体は、その先導者の一人だ。

それだけではない。横を通り過ぎたキノコの苗床のようなものは、元はオークだった。彼らもまた、予期せぬ襲撃を受け哀れにも前者は胞子に沈み、後者はキノコの苗床としての第二の人生を歩むこととなったのだった。

そして彼女は今、何処からか聞こえる歌声に誘われるように森の中を進み、歌の出所と相対した。


それは、妖精の女王と例えれるような見た目をしていた。

スズランと蝶の合わせ技を彷彿させるデザインとフォルムの落ち着いた色彩のドレスにアクセサリーは薔薇や百合を象ったものをふんだんに着け、背中からは蝶の羽のような、光の反射に応じて七色に輝く翅を有している。

その外見的特徴としては、椎奈よりは小さくも椎奈よりも柔らかそうで、なんなら溶けているんじゃないかと思わせるような見た目の豊満な胸、グラデーションが施され、先端に連れて鮮やかな緑色になったブロンドの長髪。

その顔は人ならざる者の母のように柔らかな見た目でしかし妙に子供っぽく、その眼つきは聖母のようなまなざしに見えるも、何故か椎奈には起きながら夢を見ているように思えた。

心ここにあらず。もしくは、初めから心というものがないものか。

何故そんな事を椎奈が思ったのか。それは彼女が持っているものが、少なくともその顔には似合うわけがないものだったからだ。

始めはカビか埃で埋め尽くされた何かに見えた。しかしそんなものを彼女が持つにはどうしても思えなかった彼女が目を凝らすと、それは何かではなく、だった。

更に周りを見れば、そこには緑の小人や人間が、時に鋭利で巨大な刃物に斬られたような傷を持って倒れていたり、彼女が持っていた死体と同じように胞子まみれかキノコだらけの物体になっていた。


反射的に背中に吊った大剣に手を伸ばす椎奈。人間やそれ以外の死体を見ても何とも思わない自分の存在に奇妙さを覚えながらも、目の前のそれが少なくとも有害でなくても危険な存在であるというのは、空気が読めないとクラスの友人らから評判だった彼女でもすぐに理解できた。

勝てるかどうかなど彼女の思考にはなかったし、この先どうすればいいのかも分かってなかったが、少なくとも戦わなければ死ぬかもしれないという予測が、彼女を支配していた。

「藤森ぃ!人の話はちゃんと聞けえっ!」背後からカーネイジの息を切らしながら怒声が飛んでくる。反射的に後ろを向くと、槍を構えた彼女がそれなりに怖い顔をしながら走ってくるのが見えた。

「洞窟は戻った先を左に曲がるんだよぉ!そいつはぼくに任せてさっさと君を知ってる例の娘の生死を確認してこいぃ!」「わ、分かった!」

彼女の方を向いた瞬間に後ろから何か大きめの物体を落としたような音が聞こえたので椎奈は弾かれたように飛び出し、カーネイジと入れ替わるように来た道を戻っていった。

そして代わって妖精女王(仮)に相対するカーネイジ。対する女王(仮)は抱き上げていた死体はないものの、先ほどと変わらぬ微睡みに蕩けた目つきでカーネイジを見下ろしている。

突然、彼女を中心に突風が吹き荒れる。何処から出ているのか分からない胞子と花粉が巻き上げられカーネイジの目と喉に襲いかかるが、彼女が左手を振り回すと、手のひらから炎が噴き出して胞子と花粉の混合物を焼き払っていく。

視界を確保した彼女が女王(仮)の方を向くと、そこには誰もいなかった。

あの突風の最中に姿を消したようで、残っていたのは死体とカーネイジだけであった。不思議な事に、霧のように漂っていた胞子と花粉の混合物も消滅していた。

森の霧の正体は、彼女が放出していたと思しきとてつもない量の花粉と胞子によって形成されていたものだったようだ。

「戦意はなかったか…だが、あんな奴見たことないぞ?」

「霧じゃなくて花粉か胞子だったんだね。アキチ前世は花粉症とかじゃなかったけど降りたくなかったザマス、キノコ生えそうだし」

彼女が武器をしまうと同時に上からミグラントが降りてくる。

「多分ウェステッドだね。それも植物種ザンス」「植物種であんな活動的な、いや人としての原形を保っている奴なんて初めて見たなあ…」

色んな世界を彷徨って様々なウェステッドを見た来たと自負していた彼女だが、今回遭遇したのは見た事もない個体だった。

というのも、植物種のウェステッドは言葉通り植物そのものの容姿をしていることが殆どで、第四形態に至っては最早ただの植物と化している。

「ところでミグラント、藤森はどうした?」「あっ」カーネイジが聞くと、ミグラントはペストマスクの不気味さが消えそうになるくらいのコミカルな声が聞こえた。

「見失っちゃった」その言葉の直後に彼の首を強かにカーネイジのチョップが打った。


こうして洞窟に到着した椎奈の前に広がったのは、まずは道中と同じ魔物と人間の死体。決して多い訳ではないが、薄暗く、狭い洞窟の中では存在感を発揮している。

いずれも激しい戦闘の末に命を落としたのだと分かるほどの傷だ。

普通なら何らかの感情や反応を示すべきなのだろうが、椎奈は何となく気づいていた。

自分が思っている以上に、だ。

思わないというよりは、まるでテレビ越しに自分の感情を眺めているような感覚を、彼女は今まさに感じていたのだ。

痛ましいし、魔物は怖い。死にたくないし、できれば殺したくない。

正直に言うとこの奥に行くのも嫌だ。人助けをするために来てるとは言え、理由がなかったら回れ右して帰りたいくらいには。

だが、それだけだった。わかるのだ、自分は生き物を殺せる。覚悟ではないし、受け入れているわけでもない、ただ。

行動に起こすぶんには問題ないと思っている自分がそこにいた。

それどころか、分かるのだ。

楽しんでいるのかもしれないし、ただ単にワクワクしてるだけかもしれない。

そして妙に冷静に彼女はこのクエストを攻略するか、生還したらすぐにワイトとカーネイジに、この感情について聞き出さなければと思い、洞窟の奥へと足を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る