第2話 僕はそんな封書に踊らされはしない!

 駅前で健と別れ、電車に乗って帰宅する途中、彼女の事を考える。


 立花たちばなあかねさん。


 先に話した通、りうちのクラスの委員長をしている女の子だ。顔立ちは童顔で、体系は……確かに健が話した通り少し幼児体系かも……。


 でも、僕が唯一普通に話せる女の子であり、少なからず好意も持っている。


 家に着いた僕は自室に行きラフな格好に着替えてリビングに向かった。僕の家族は、父・母・兄・妹・僕の5人家族で、父は海外出張でいなくて、兄は結婚してこの家にはいない。

 なので、現在この家で生活してるのは母と妹と僕の3人という事になる。この時間、うちの母はスーパーのパートに行っている時間帯になる。


 リビングに入るとソファーに横になって寝ている妹、千鶴ちづるの姿があった。

 スカートを履いて無防備な格好で寝てるいるものだから、スカートがめくれて下着が顔を出してしまっている。当たり前な事だが、妹の下着を見たからと言って欲情などする事はない。


 僕はタオルケットを掛けるついでにスカートを直してやった。千鶴は13歳になる僕の妹だ。昔は「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とよく懐いでくれていたのに、今では「兄貴、今日友達来るから、自室にいてよ! うろうろしないでね! 絶対だから!」などと言われる始末である。あの可愛いかった妹は、どこに行ってしまったんだろう。


 どこでどう間違って、こんな小生意気な女の子になってしまったんだろうか。


 僕は妹が寝ていたのでリビングでテレビを観る事はやめ、自室に戻って観る事にした。健ほどとまではいかないが、僕もアニメやゲームは大好きである。最近、僕のはまっているアニメは名探偵ロダンっていうミステリーアニメで、主人公の少年がとんでもない推理力で犯人を暴いていくストーリーである。その中に謎に包まれた組織を暴いていったり、友情があったり、少し恋愛が混じっていたり、今ではすっかり国民的アニメである。名探偵ロダンを見終わった後、気がつくと母が帰ってきていたようなので台所に行く事にした。


 台所では母がご機嫌で、鼻歌まじりにご飯を作っている姿が目に入る。


「ど、どうしたの、母さん? 何か良い事でもあったの?」

「んふふふっ」


 母は料理を作りながら、にっこりと笑いながら、僕を見てくる。


「か、母さん⁉︎ ほ、包丁⁉︎ て、手元見て‼︎」

「いやあね、大丈夫よ。慣れてるから心配しないで」


 い、いや、見てるこっちが色々と心臓に悪いよ!


 ご飯を食べ終わり風呂に入ろうとした所で、母に呼び止められた。先程の料理を作っている時と同じで、気持ち悪いくらいに上機嫌だ。


「俊一、座って座って!」


 興奮気味に今さっきまでご飯を食べていたテーブルの向かいの席を勧める。


「な、何? どうしたの、そんな興奮気味に」

「はい!」


 そう言って、一枚の封書がテーブルに置かれる。差出人は、藤咲ふじさき聡明そうめい。その紙には、次のように書かれている。


『貴殿は、我が藤咲グループの婿養子に選ばれました』


「やったわね! 俊一!」


 笑みを向けてくる母に対して、僕は全く意味が分からず困惑してしまう。


「いやいやいや! "やったわね!"って何が? 一体、何なのこれ⁉︎」

「何って藤咲グループの婿養子に選ばれたって知らせじゃない?」


 さも、変な事聞くわねーと言った感じで母は答えてくる。


「えっ、何でそんな普通に……いやどう考えてもおかしいでしょ、コレ⁉︎」


 いたずらにしてはタチが悪すぎる。


「ねえ、母さん……こんなの……」


 母はニコニコしながら、封書を開く事を促すように僕を見てくる。


「オーケー分かった。開きまよ」


 ったく……なになに?


『明日早朝、貴殿を使いの者がお迎えに上がります。何卒よろしくお願い申し上げます』


 ………………。


「ねえ、何て書いてあったの⁉︎」

「程度の低いいたずらだよ。ははっ、明日の早朝、使いの者が迎えに来るからよろしくだってさ」


 それを聞いた母は、満面の笑顔になり僕の手を握ってきた。


「よくやったわ! さすが、パパと私の息子だわ‼︎」


 ガッツポーズをしながら、そんな事を言い出すうちの母。恥ずかしすぎる。


「あのねー、母さん」


 ドタドタドタ〜。

 階段を降りてくる音が聞こえる。


「もう、うるさいな〜?! 一体どうしたの!」


 自分の部屋に行ってた妹が下に降りてきた。


「おい、聞いてくれよ千鶴! 母さん……」

「ちょっと、聞いてよ千鶴! 俊一がね……」


 僕の声を遮るようにして母は千鶴に説明した。

 まったく、うちの母は……誰がこんな話しを信じるんだよ!


「うっそ⁉︎ マジ‼︎ やったじゃん兄貴‼︎ 逆玉ってやつじゃん⁉︎」


 信じた……。千鶴もアホだな……。


「おいおい、千鶴まで何を言ってんだよ。こんなの信じてどうすんだよ! いたずらに決まってるだろ!」


 二人は僕の話し何かそっちのけで喜びあっている。

 駄目だ、こりゃ……。

 まあ、明日になれば嫌でもいたずらだって分かるだろ。

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