最後のパーツ
勝利だギューちゃん
第1話
ジクソーパズル
ひとつでも、パーツを無くすと完成しない。
完成しないと、気持ちが落ち着かない。
人の世もそう・・・
イーゼルにキャンバスを立てて、筆を走らせる。
昔に比べると、上手くはなった。
上手くはなったが、何かを無くした気がする・・・
その何かを取り戻すまで、僕の絵は完成しない。
代用品ではいけないのだ。
その物でないと、完成とは言えない。
思い返してみた。
絵を描き始めた幼き日を。
あの頃は、楽しんで描いていた。
上手い下手は関係なかった。
ただひたすら好きで描いていた。
だが、なまじ上手くなりだすと、周囲の眼も変わる。
そして、意識的にしろ無意識的にしろ、他人の評価を気にしてしまう。
そう、好きな絵ではなく、売れる絵を描くようになってしまう。
だがそれは、必ずしも幸せとは言えない。
幼いころに持っていた物を失う、
そして、一度失えば取り戻す事は出来ない。
「ふぅ、今日も完成したな」
「先生、今日も素晴らしいですね。」
評論家から、絶賛を浴びる。
何が素晴らしい物か!
これは、私の描きたい絵ではないのだ!
たしかに、99%は良いと思う。
だが、後の1%が無いと、私の絵は完成しない。
そしていつしか、筆を折るようになった。
貯めこんでいた絵や、画材などは、全て燃やそうと思った。
全てを庭に置き、火をつける。
「もう、戻れない・・・」
そして、いざ燃やそうとした時・・・
『なにやってんだよ』
「えっ」
振り向くと子供が立っていた。
この子は誰だ?
見た事あるような・・・
『俺が、誰だかわからないか?』
「ああ」
『俺は、お前だよ』
「えっ」
『子供の頃の、お前だよ』
そうだ・・たしかに、私だった。
『がっかりだな』
「なにが?」
『あれだけ絵が好きだった俺が、今ではこうだ』
「子供の俺にはまだわかるまい。何かを得るには何かを犠牲にしなければならないのだ」
『それは、言い訳に過ぎないな』
「何?」
自分の言葉に、ムッとする。
『お前は、最後のパーツが足りないと言ったよな』
「ああ」
『教えてやるよ、その最後のパーツを」
「それは、どこにある?」
『実家の物置きに行ってみなよ。まだあるはずだ』
そういうと、子供の私は消えた・・・
私は急いで実家に帰った。
両親はすでに他界したが、今は弟一家が住んでいる。
私は弟に頼み、物置きへと行った。
中に入ると、昔のままだった。
懐かしいのだが、感傷にひたっている場合ではない。
私は物置きを探しまくった。
懐かしい物がたくさん出てきたが、今はそれどころではない。
時間を惜しんで探した。
すると、上の方に箱をみつけた。
私は脚立を弟に持ってきてもらい、その箱を下ろした。
中を開けると、まず手紙を見つけた。
宛名は、「未来の俺へ」と書いてあった。
【未来の俺へ
よっ、元気か?
この手紙を読んでいるということは、子供の俺に会ったんだな。
しかし、俺もおかしいよな。
大人しくて、こんな口調はしていなかったのに、手紙だと変わるな。
で、ここへ来たのは最後のパーツを探しに来たんだろ?
俺に言われて・・・
教えてやるよ。そのパーツを。
それは、この箱の中の物全てだ。
じゃあ、しっかりやれ!
未来の俺!
子供の俺より 】
急いで箱の中身を見た。
私は愕然とした。
見つかったよ、最後のパーツが・・・
それは幼稚園の頃に描いた絵で、花丸がしてあった。
「よくできました」と、先生からの評価があった。
そうだ、私は忘れていた。
楽しさを、嬉しさを・・・
今更だが、初心に帰る時が来たようだ。
人の眼はいい。
とにかく描こう、もう一度・・・
自分の想いをキャンバスにこめよう・・・
最後のパーツは、
「素直な気持ち」だった。
急いで家に帰りキャンバスを立てる。
最初に描くのは、子供の頃の私だ。
素直な気持ちで、描こう・・・
本当の私の絵を。
最後のパーツ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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