月面舗装、あるいは目地材を巡るボロボロ

 月面と地球を往復する資材運搬機について、やはり砂漠から飛び立つよりは舗装された路面から飛び立つ方がエネルギーも格段に少なくて済む。

 そうするとより大きな機体を用いることができ、物資運搬のコストも下がる。


 そう言ったわけで月面コンクリート舗装の研究が始まった。

 月面産の『ルナセメント』の生産にはそもそも原材料の収集から焼成まで様々な困難が予想され、今だ構想の段階に留めるが、地球産セメントに月の砂を細骨材として混ぜた『ルナモルタル』、さらに粗骨材まで加えた『ルナコンクリート』は既に実験が行われ、一定の結果を出している。

 粗骨材の強度と打設後の養生困難こそ若干気になるものの、潰しの結果ではどうにか普通のコンクリートの基準強度に近い値は確認できている。

 あとはいかに分厚く打設するかの問題で、必要なら鉄筋メッシュなどで補強を行うのみだ。

 『ルナコンクリート』と地球上のコンクリートではワーカビリティに月とスッポンの差がある。


 もちろん、月面がスッポンで地球の方が月だ。


 生産コスト面ではひっくり返って、月面が月になる。それでも、技術として施工は可能である。


 ただし、それはコンクリートを打設するだけならの話しだ。

 月面に比べたら気温差がほぼないに等しい地球上でさえ、コンクリートの連続打設には目地の設置を必要とする。

 熱膨張と収縮に対応するため、地球では10メートル以内に一箇所の目地挿入が望ましいが、温度差が数百度に達する月面では目地間隔を3メートル程度に設定する。

 しかし、そもそも目地の素材についての選定が困難を極めた。


 通常、地球で使うエラスタイトなどの弾性樹脂類は温度差、紫外線で劣化が激しく、短い期間で意味を成さなくなる。

 ある程度の耐性を備え、十分な弾性を備えた物質が並べられた。

 石綿は環境への耐性こそ強いものの、弾性が不足した。

 鉛は昼間の融解での現況回復を期待されたが、昼夜を繰り返すうちにひずみが大きくなる。

 その他、油粘土などの様々な案が出され、実験が繰り返されたが、どれも月面の環境に早々に用をなさなくなった。

 過去の事例に倣って木質の板材などが試され、他の物質よりいくらかいい結果が出たが、低温時に衝撃を加えられると破砕される弱点を露呈した。通常の車両の走行程度ならともかく、資材運搬機の離発着にはとうてい耐えられない。


 結局、月面離発着施設については建設が見送られ、二本のレールと電気を使って飛ばす、俗に言うレールガンが次案として検討されることになり、科学者達が大幅に増員されることとなった。

 あおりを受けて月面の土木屋達は大幅に人数の削減を受けることとなり、地球へと帰っていった。


(結局、レールガン構想は数年後に頓挫し、月面基地の第一義である宇宙での人類生存のための技術の確立についても大幅に停滞することになる。その為、当時の基地司令官は長く無能の代名詞的に扱われることとなった)

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