サカシの初恋

「キックのジムに通いたい」

 咲見が二週間ぶりに宿舎に帰ると、サカシはそう言った。

 サカシもちょうど帰ってきたばかりなのだろう。まだ学生服を着ていた。

 また大きくなった。

 二週間ぶりにサカシを見て、咲見はそう思った。身長は一七〇センチ。これが今時の高校一年生としてどれくらいかはわからない。しかし、地方都市遠征に出かける前よりは少し筋肉がつき、顔も大人びたように見える。なるほど、男子三日会わざれば、とはよく言ったものだ。

 サカシは折り込み広告を広げて見せた。

 末道キックボクシングジムのチラシで『練習生募集、ただいま入会費無料』と謳ってあった。

「ああ、この辺りでは古いジムだ」

 咲見が若い頃所属していた団体に道場破りに来たこともあった。咲見が対応したわけではないが、その絡みは見ていた。

 対応は若手がして、きちんと返り討ちにしたのだが、しっかりとしたキックボクサーだった。もっとも、しっかりとしていればいるほど、プロレスのリングでプロレスのルールに対応できるわけもないのだ。道場破りは散々に翻弄されて泣きながら帰って行った。

「……まあ、いいんじゃないか?」

 咲見が頷くとサカシはニッコリと笑った。その笑顔は昔から変わらない。

 時計を見ると時刻は六時である。まだ夕食には早い。

「見学やってんだろ。片付けたら見に行ってみようぜ」

 言って大きなスポーツバッグを放り投げる。

 サカシはそれを受け取ると洗濯室へ走っていった。


 咲見がプロレス関係に復帰して、新団体が設立された。仲間のネームバリューにも助けられ、運営はどうにか軌道にのっている。

 郊外に適当な物件を見繕い、練習場兼宿舎にした。昔、咲見たちが汗を流したプロレス道場跡地の近くでもあるので、その伝手で知り合いに紹介されたのだ。

 元は企業の研修施設だったらしく、周囲は農地で、小さな体育館も併設されていて都合が良い。三十名ほどが食事を取れる食堂があり、洗濯乾燥機を三台据えた洗濯室があり、シャワー室がある。部屋は狭いが、数が多くそれもちょうど良かった。

 咲見はここの責任者として、練習生の面倒を見ながら鬼教官を演じている。肩書きは少しばかりのハッタリを効かせて塾長としている。

 管理人室の看板を裏返して塾長室と書き換えたとき、中学に入学したばかりだったサカシは、そのまま近所の高校に入学した。

 身長も伸び、肉もついた。

 熱心な練習生に混じって遅くまでトレーニングに励み、強くなることが楽しくて仕方ないのだ。そんな時期が咲見にもあったので理解できる。

 環境にも練習相手にも恵まれたサカシの成長は著しかった。道場内のスパーリングでは若手相手でもいい勝負をする。

 中学では柔道部に所属していたが、高校ではまだ部活を決めていなかったはずだ。

 総合でも目指すのか……。

 咲見が考えているとサカシが戻ってきた。

「洗濯機、回したよ」

「おう、行ってみようか」

 二人は動きやすいトレーニングウェアに着替えて出かけた。


「こんにちはぁ」

 道場に入ると一斉に視線が飛んできた。

 末道ジムでは七人が練習をしていた。時刻は六時半なのでそんなものだろう。

 一瞬の静寂の後、練習生達が顔を見合わせた。

「おい、咲見だぜ」

 籐が立ったとはいえ、咲見は有名レスラーである。プロレスに興味がなくとも総合格闘技の試合に出ていたこともある咲見を、格闘技を嗜む連中が知っているのは不思議ではない。

 四十がらみの男が進み出てきた。中背だが、よく鍛えられた体をしている。

 おそらくトレーナーなのだろう。両手からミットを外すと咲見に軽く頭を下げた。

「TOWの咲見さんですね。何か御用ですか?」

 咲見は一瞬、その目つきが気になった。

 格闘技を嗜む連中の多くはプロレスを見下している。偽物の演芸くらいに思い、所詮ハッタリでしかないと断じているのだが、男の目つきにはどちらかと言えば警戒と敵意が混ざっている。

「いや、甥がここに通いたいというもので、とりあえず見学させて欲しいんだが」

 トレーナーはちらりとサカシを見ると「かまいません」といってベンチを指した。

 二人が座ると、練習は再開され、ジム内は音に満たされる。

 流石にしっかりとした練習風景。サカシも体を動かしたくてウズウズしている。

 咲見はキックに向いていそうな練習生を何人かここに通わせようか等と考えていた。

 と、不意に咲見は道場破りを思い出した。末道ジムからやってきた道場破り、あのトレーナーがその頃からここにいるなら返り討ちにあった男と面識があるのだろう。それで敵意か。

 練習生が一人、グラブを持って話しかけてきた。

「ねえ、君。せっかくだからミット打ちでもやろうか」

 二十歳かそこらの優しそうな青年だった。

「良かったじゃねえか、サカシ。やってこいよ」

「うん」

 サカシはグラブを受け取ると青年の指導を受けながらサンドバッグを蹴り始めた。

 しばらく見ていると、先ほどのトレーナーが咲見の横に腰掛けた。

「これがジムの規約と入会申込書です。コースなんかも説明してありますのでよく読んで下さい」

 トレーナーは資料の入った大判封筒を差し出す。それを咲見が受け取ると、トレーナーは上釜と名乗った。

「元気な子ですね」

「まあ、鍛えていますんで。頭の方はイマイチですが」

「やっぱりプロレスをやらせているんですか?」

「まさか、十五かそこらのガキですよ。今時プロレスなんてやりたがりません」

「そうですか。私たちがあれくらいの頃は、プロレスラーになりたがるやつが多かったですけどね」

「まあ、テレビでやっていましたし、プロレスが一番盛り上がった頃でしたからね」

 咲見が若い頃は、かなり持ち直したと言われる現在からしても異常なほどの熱がプロレスにはあった。おそらくプロレスがその勢いを取り戻すことは二度とない。

「私もテレビで見ていましたよ。興奮してね、プロレスラーはどんなに強いんだろうって考えていました。実際に試験も受けようと思ったんですけど、身長が足りなくてテストを受けられなかったんですよ」

 咲見はどう返していいのかわからなかった。

「同世代の咲見さん達がリングで活躍するようになると、居ても立ってもいられなくてね。ここに入門したんですよ。もう二〇年も前ですけど」

「……プロレスだってそんなにいいものじゃありませんよ。キックに押され、総合に押され、なんやかんやありました」

 咲見がデビューしてしばらくすると、テレビ放送は打ち切られた。

 咲見達がずいぶんと遠回りをしてスタンダードなプロレスを流行らせるまで十数年間、本格的なテレビ放映はなかった。それさえもスポンサーと人気の加減でいつ終わるかもわからない。

「わかってますよ」

 上釜はそれだけ言うと黙った。

 サカシは先ほどの練習生にキックを習っていた。

 もちろん、咲見もある程度は仕込んでいたのだが、本格的にはほど遠いレベルでの話だ。

 サカシが蹴るとサンドバッグは派手な音を立てるが、殆ど動かない。練習生が見本に蹴るとくぐもった音で大きく揺れる。

 サカシは楽しそうに指導を受けながらその蹴りを繰り返す。

 おそらくサカシには向いていない蹴りだ。

 咲見は観察してそう思った。

 もう少し体重があれば話は違うが、サカシはまだ軽い。咲見はその蹴りを受けることを冷静にシミュレートした。

 本来のサカシの蹴りは遠間から鞭のように伸び、素早く次の挙動に移る。言い換えれば素早く、鋭く、軽い。ジャブ代わりでもある。

 タイミング良く蹴れば自分より体重のある相手でも戦える。それがあの蹴り方だと間合いも近くなり、隙もでかい。結果捕まりやすくなる。

 もちろん、いろんなパターンの蹴りを知っている方が対応性は上がるし、スタイルを組み替えることもできる。なにより、サカシは今から重くなる。

「ここは何人くらい通っているんですか」

 ふと気になって上釜に聞いた。

「毎日通うプロコースが四名、週二回の健康コースが三〇名くらいですね。キックの人気もかなり落ちましたよ」

 寂しそうに上釜は笑った。

「仕方ねえスよ。ボクシングに空手、相撲にプロレス、柔道に総合、どれもブームが去ったんだ」

 お互いそれで飯が食えているだけで良しとしようや。

 咲見と上釜は一面でよく似ている。それぞれの道にどっぷりとつかり、それを生き方としたのだ。しかし、おそらく競技への思い入れは違う。

 咲見はプロレスしか道がなかったのだ。愛着はあっても愛しているわけではない。

 上釜はキックボクシングを愛している。どうにかしてもう一度キックに日の目を見せたいのだろう。

 ガラと音を立ててドアが開いた。

「コンニチハ」

 入り口で少女が頭を下げた。近所の女子校の制服を着ている。

「あの子も練習生?」

「ええ、私の娘です」

 へえ。

 競技に染まった者は、当たり前のように自分の子供に技を仕込む。咲見にしても結果そうなったのだが、娘に格闘技をやらせるのは珍しい。

 少女はロッカーに鞄を入れると、背中までの髪をゴムで結び、制服を脱ぐ。制服の下には膝丈のジャージとシャツを着ており、ロッカーからスニーカーを取り出して準備が完了したようだ。

「三歳からサンドバッグを蹴らせていますが、なかなか筋が良くてね、去年の十五歳以下女子の部では日本一ですよ」

 上釜が誇らしげに言う。

「そりゃあ、たいしたものだ」

 少女はストレッチを始めたが、なかなか堂に入っている。上釜の親馬鹿というわけではないようだ。

「ミサゴ、こっちに来なさい」

 上釜が少女を呼んだ。

「なんですか?」

 ミサゴと呼ばれた少女が近づいてきた。

 顔立ちはまだ幼さが残っているが、整っている。うまくプロデュースしてやればアイドル化できるかも知れない。そういうのはブームが過ぎた競技が必ずやる。空手でも、柔道でも、レスリングでもボクシングでも。もちろんプロレスもやった。

 今のところ、一個人の人気から競技熱が再興した事例はないが、何もしないよりはマシか。

「こちら、WTOの咲見さんだ。プロレスラーだぞ」

 ミサゴは咲見のことを知らないらしく、曖昧に頷いてあいさつをした。

「こんにちは。上釜ミサゴです」

「ああ、こんにちは」

 咲見も頭を下げる。

「今度から咲見さんの甥っ子の、サカシくんもここに通うかも知れない。ミサゴと同じくらいの年だから、良く教えてやってくれよ」

 上釜がサカシを指し、ミサゴは頷いた。

「どうですか咲見さん、サカシくんの適正を見るためにミサゴとスパーリングでもさせませんか」

「は?」

「やはりこういうのは実戦形式の練習が一番おもしろいですからね。ミサゴなら背格好もだいたい同じだし、非力だ。どうでしょう」

「しかし、ルールもわからないとお互いに危険だし、それにミサゴちゃんは女の子でしょう」

「私は大丈夫ですよ」

 ミサゴははっきりと言った。

「男の子にも負けたことないし」

 少し棘のある口調。

 どうやらプライドかコンプレックスに触れたらしい。

「それに、プロレスってインチキでしょう?」

 咲見の心臓は傷口に触れられたように一瞬だけ激しく動いた。

「ミサゴちゃん、プロレスはね……」

 そこまで言ってやめた。少女相手に何を言っても無駄だからだ。

 むしろ少女にまがい物だと言われたことが可笑しくて、苦笑いが浮きそうになった。

「おい」

 サカシの動きは速かった。

 ミサゴの肩に手を置き、引っ張りながら体重を掛ける。

 なすすべもなくひっくり返るミサゴの手をとり、後頭部を打たないようにひっぱった。

「おじさんに謝れ」

 素早くミサゴの肩、肘、手首を極めながらサカシが言う。

「イタタタタ……ちょっと、離してよ」

「謝れよ!」

「サカシ、離せ!」

 咲見が立ち上がり、怒鳴る。

「嫌だ!」

 サカシも怒鳴り返す。

 咲見は救われたような気がしながら、サカシを殴った。

「バカヤロウ」

「…………」

 一瞬にらみ合った末に、サカシはミサゴを離した。

「僕は謝らないよ」

「当たり前だ」

 吐き捨てるように言うと、咲見は再び腰を下ろした。

 呆気にとられていた上釜が慌ててミサゴを起こす。

「おい、大丈夫か」

「……うん」

 ふくれっ面でミサゴは頷く。

「ほら、咲見さんに謝れ」

 上釜の言葉にミサゴは信じられないという表情を浮かべた。

「あっちが悪いのに、なんで?」

「おまえが咲見さんをバカにするようなことを言ったからだ」

「だって、プロレスでしょう? あんなのインチキだってみんな言ってるもの」

 瞬間、サカシが飛びかかろうとするのを咲見が捕まえ、力任せに引き倒した。

「落ち着け、サカシ」

「いやだ、ぶっ飛ばしておじさんに謝らせるんだ!」

「……よっし、やってみろ!」

 言って咲見はサカシを離した。

 上釜もミサゴもサカシさえも呆気にとられている。

「上釜さん、こうしよう。うちも、そっちも謝らない。納得いかないサカシとミサゴは今からスパーリングをやれ」


 グローブとヘッドギアを付けた二人がリングに上がった。

 レフェリーはサカシに指導した優しそうな青年が引き受けてくれた。

 体格はサカシが少し大きい。パワーもサカシが格段に強いだろう。だが、ミサゴはキックボクシングの英才教育を受けている。

「時間は三分、一ラウンドで終了。ベルトラインより下へのパンチは反則、ナックルパート以外での手での攻撃も駄目、肘、頭突き、相手の体を掴むのも禁止する。わかるね。もし反則があったら、すぐに試合は止めます」

 噛んで含めるようにサカシに言う。

 素人がルールを知らないままやると事故につながりやすい。

「じゃあ一度コーナーに戻って」

 二人が別れ、サカシが咲見の元に戻ってくる。

「軽く撃つんだ。手打ちで当てに行け」

「セコンドアウト。咲見さん、いいですか?」

 青年が咲見に言う。

「オーケー」

 カン。

 ゴングが鳴ると二人が動き出した。

 ミサゴは両腕を高く構え、半身の構えを取っている。たいしてサカシは歩くように近づいた。

 ミサゴが出した牽制のジャブに併せてサカシが大きく踏み込んだ。

かなり遠間から腕を突き出し、ガードの上からミサゴを押した。ミサゴは大きくバランスを崩して後に下がる。

 そういえばサカシが自分より小さい者と戦うのは初めてだと咲見はふと気づいた。

 咲見をはじめとして、レスラーはみんな大きい。体重もパワーもサカシとは段違いだ。

 ミサゴが慌てて構え直すと、サカシの足が跳ねる。鞭のような蹴り。

足を上げて受けたミサゴの体が流れる。蹴ったサカシ自身も驚いた表情を浮かべた。

 フィジカルの圧倒的な違い。ミサゴは悔しそうに顔をゆがめる。

「確かに鍛えている」

 いつの間にか上釜が咲見の横に立っていた。

「でもね、うちのミサゴもそれなりですよ」

 ミサゴは遠間から踏み込み、ローを蹴って逃げる。

「うまいですね」

 咲見も感心した。

 ミサゴは素早いステップインで誘い、身構えたサカシの体重が乗った側の外側に入り込み、足を蹴ったのだ。

 重心が乗った足の外側に入られると殆どの攻撃の死角になる上、地面にベタ付きの足はダメージを逃がせない。まして、体重の乗ったローキックだ。

「あれは天性でね、教えてできる動きじゃあない。まったく、あの子が男であってくれたらと思いますね」

 瞬間の判断力、バネ、ボディバランスが高いレベルで要求される動きだ。

 それを受けたサカシは戸惑っているように見える。無理もない、やられた方はよくわからないうちに蹴られた様なものだ。

「サカシ、距離が中途半端だ。詰めるなら詰めろ」

 咲見の助言に、サカシは大きく距離を取った。

 上釜が咲見をじっと見ている。

「助言はいけませんかね?」

 上釜は無言で首を振った。

 殴り合いの距離では経験がモノを言う。経験に劣る相手に大きく離れるのは正解だ。

 遠距離からローを一発。しかし、踏み込んで受けたミサゴの体は崩れず、距離を詰めてきた。

 一瞬のインファイト。

 ボディフックに続いて打ち上げ気味のストレートをギリギリでかわしたサカシは、それに続くテンカオをよけきれず、胸に膝打ちを貰って倒れた。

「ダウーン」

 レフェリーが宣言し、ミサゴはコーナーに戻った。

 サカシはすぐに立ち上がったが、二人とも距離を測りあぐね、再び打ち合う前に上釜がゴングを叩いて試合を止めた。

「三分終了。ダウンによる減点を加味して、上釜選手の勝利とします」

 レフェリーはミサゴの腕を挙げて、結果を告げた。

 サカシは黙ってグラブを外し、リングを降りた。

「おじさん、ごめんね」

 咲見の横を通り過ぎるときに小声で言い、サカシはベンチに座った。

 タオルで汗を拭いながら、敗北のショックは見られない。これは咲見の唯一誇るべき教育方針により、徹底的に負けることに慣らされているからだ。

 一方、すっきりと勝ちきれなかったミサゴは、複雑な表情を浮かべている。

「よお、ミサゴちゃん」

 咲見が声をかけたが、ミサゴはムスッとして返事をしない。

「上釜選手……まあ面白かったよ。最後のテンカオは勉強になった。今度サカシにも教えてやってくれ」


 サカシがグラブを外し、もはや体験練習でもあるまいと思った咲見は上釜に丁寧な挨拶をし、道場を出た。

 先に走って帰るというサカシを見送ると、咲見を追うように上釜が出てきた。

「いや、いいですねサカシ君。ミサゴのいい刺激にもなるし、ぜひ通わせてくださいよ」

 上釜は上機嫌に言った。

「いいんスか?」

 幼いころからキックボクシングに馴染んだ少女と、プロレスラーに鍛えられた少年は、初対戦でほとんど引き分けだった。

 これ以上サカシがキックボクシングを学べば、ミサゴは勝てなくなるだろう。

 『男の子にも負けないミサゴちゃん』は消滅し、それは彼女の何かを刺激しそうな気もする。

「正直に言えばね、私もどうなるかはわかりません。でも最近あの子も行き詰っていますから、思い切ったことをしたいのが指導者としての本心ですね」

 そう言って、上釜はポケットから封筒を差し出した。月謝袋で、すでにサカシの名前が書いてあった。

「それから、これも正直に言うんですけど、運営者としては一人でも多くの生徒に所属して貰わんと困るんですよ」

 上釜と、差し出された封筒を受け取った咲見は二人して笑った。

 咲見は軽く頭を下げ、上釜に背を向けて帰路を歩く。

 途中で不意に気づいた。

 上釜のあの目つき。

 あれは自分と咲見のどちらが強いかを測っている目だった。

 いつか自分と上釜の親父対決もあるか。そんなことを思うと、咲見は無性に嬉しくなり笑みがこぼれた。

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