第4話 新たな出会いと未知との遭遇③

「ここは少し臭うわね」


 由佳莉が目指したその場所は、寺田ベーカリーと書かれたお店だった。

 ただ、そこは八尋がよく知っている場所でもあった。

「香菜の家じゃん……」


 昔からの馴染みである寺田香菜は幼稚園から高校までを過ごした友達であった。実家がパン屋ということでよく親に連れて行ってもらい菓子パンなど買ってもらった記憶がうっすらとある。

「え、もしかしてここ知り合いがいるとか?」


「幼馴染が、ちょっとね」


 すると、栗色の髪の毛をした可愛らしい少女が店の扉を開けて出てきた。

「いらっしゃいま――、って八尋じゃん。うちに来るの久しぶりじゃないの?」


 そう言う香菜は嬉しそうな、どこか悲しそうな顔をしていた。

「そうだね、一年ぶりとかかな」


「ところで、誰?」


 香菜は少しだけ目を鋭くして由佳莉を見る。


「彼のクラスメイトです。今日は日直でお世話になったので何か買ってあげようかと思い覗き込んでたんです」


「何か、ねえ」


「なぜ僕を睨む」


 昔から香菜は僕の世話を焼いてくれていた。その名残もあり、どうやら神田さんを警戒している模様だった。


「まあ、お客さんには変わりないからね。それに八尋には新作も食べてほしいし、とりあえず上がっていってよ」


 香菜が後ろを向いたところで由佳莉が僕の袖を引っ張ってくる。そして小声で、

「彼女にさっき言った通りやって」


「え、香菜に? あと、それに何の意味があるの?」


「黙って言うことを聞けばいいの!!」


 えぇ、めっちゃ理不尽なことを言われてる気がするんだけど……。

 ただやらなければならない気は、心の奥底から感じていた。

「バディスタ!!」


 由佳莉に教えてもらった魔法の言葉を唱える。それは、比喩ではなく本当に魔の力であった。

 世界が一瞬で灰色に移り変わり、先ほどまで後ろの買い物途中であろう婦人たちの姿は消え失せ、道路で談笑していた下校中の子供たちも異世界に飛ばされたかのようにまるで様子が見えない。

 それに、さきほどまでの気温より暑く感じる。


「えっ? まって、なにこれ!!」


 由佳莉の方を見て尋ねる、すると苦しそうな顔をしながら返答する。


「ようこそ、善と悪が混じりあうアンダーグラウンドへ」

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