第3話 新たな出会いと未知との遭遇②

八尋が転校してきてからはや二ヶ月がたち、季節は蒸し暑い夏に移り変わった。


夏服になり、冬の時よりもみんな地肌を大きく晒している。


そんな景色も良いと思いつつ、八尋はこの後の仕事に気を向けていた。


「じゃあ、今日はこれでHRを終わる。気をつけて帰るように。あと日直は掃除の後で提出物を職員室まで持ってきてくれ」


今日は八尋が日直であった、神田と呼ばれた彼女とともに。


あれから一度も話していないヘタレな八尋であったが、幾分いつも不機嫌そうな彼女であったので会話するのが躊躇われたのであったのだ。


しかし、今日は日直で一緒のためイヤでも話すタイミングはあった。


だが、二限目の移動教室の鍵閉めでは、


「僕がやっとくよ」


「あそ」


挙句には、授業終わりの黒板消しと時には、


「神田さん、手伝ってくれない?」


「次の時間は私が全部やるからやっといて」


といい、もちろん次の時間にも同じことを言うのであった。


ユウヤによると、彼女は自分のことをお姫様と勘違いしているのではとのこと。


確かに、行動そのものは家来に仕事をやらせているかのようだ。


だから、掃除の時にも八尋に全てを投げて一人先に帰るのかと思いきや。


「さっさと終わらせるわよ」


といい、手伝ってくれるのであった。


なんだ、このギャップ。気を確かに持たないと。


「あの、神田さん。少し話があるんだけどいいかな?」


「私も少しあなたに話したいことがあるの」


え?? なにこのシチュエーション。二人きりで放課後の教室。これってもしかして……。


「まって、それって心の準備がいる感じ?」


彼女は八尋の瞳を真っ直ぐ見つめ、首を縦に振った。照れるんだが。


「とりあえず、掃除終わらしましょ」


「う、うん」


いや、掃除どころじゃないよねどう考えても? なんなら僕のこの邪心を掃除してほしいくらいだよ?


動揺する八尋を横目に、箒を持ち直し床を掃除する。




「それで、話って……?」


 掃除を終えた八尋は、心臓が飛び出そうになりながらも、何とか言葉を発した。


「あの、私ずっとキミに聞きたかったことがあるの」


「あ、そうなんだ、へぇー」


 どうでもよさそうにしながらも内心で震えが止まらない。


「そういや、そっちの要件ってなんだったの?」


「え、僕? いや、神田さんはなにか毎日つまらないみたいな雰囲気を出してたからどうしてだろうって思ってたくらいなんだけど」


「そうね、私がつまらなく感じていたのはあなたが来るまでだったわ」


 なんじゃそりゃ、まるで僕に……。


「私、あなたにずっと言いたかったことがあるの」


 ああ、これが青春ってやつか。


「協力してくれない、私に。あなたの力で」


「こちらこそよろしくお願いします!! ――はい?」


 夕暮れ時の教室でこれ以上ないシチュエーションだったが、この彼女の一言により八尋の未来が大きく左右されることになる。


「よかった! じゃあ、早速行きましょうか」


「え、え、ちょっと待ってどこに行くの?」


 もちろん今の八尋にその事実は知らない。


 ただ、笑いながら教室を出る由佳莉を見ているとどこにでも連れて行ってもらえるような気が少しだけした。

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