原石(Rauer Stein):1
【ウィチタ西方 合衆国陸軍仮設滑走路】
1945年5月20日 午後13時
爆発音と共に発射された弾体が、一直線に目標へ向う。
命中と同時に、悲鳴に近い咆哮、そして肉片がまき散らされた。合衆国軍へ向って突進してきた巨大な
「ホーウッド! あのぼけっと突っ立ってる若造を下がらせろ!!」
ジュリアン・ラスカー大佐は大隊本部付きの伍長へ怒鳴り付けるように命じた。
M1
――
ラスカーは内心で毒づいたが、問題が改善されるわけではない。味方の増援が来るまで、手持ちの兵力で耐え凌ぐしかなかった。
ジュリアン・ラスカー大佐の第十一機械化歩兵大隊が理不尽な苦難に見舞われていた。最前線ははるか東方数百マイル先、スプリングフィールドのはずだ。にも関わらず、彼の部隊は
本来ならばラスカーの大隊もセントルイス近郊で
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エクリプス作戦が計画以上に進捗した結果、北米中央部に大きな空白地帯が出来てしまった。その一帯は第6軍と第7軍が
エクリプス総司令官のマッカーサーが戦線の整理に乗り出したのは全く自然なことだった。問題は最前線からデンバーは遠すぎたこと、そして彼の判断がやや遅きに失したことだった。
マッカーサーが第7軍のブラッドリー大将に、北米中央部への部隊転出を命じたとき、既に第7軍はナッシュビルへ到達しようとしていた。第7軍司令部の幕僚は不満の声を上げた。もっともな反応ではある。彼等にはアトランタBMの脅威に備えつつ第6軍の増援要請に応えられるよう、戦力を温存しなければならなかった。北米中央部の警戒は作戦計画に入っていない。それにクリアリングが不十分だったとしても、連日数百機の航空攻撃で大規模な脅威は消え去っているものと考えられた。取りこぼした魔獣が現われたとしても、緩衝地帯に駐留する防衛部隊で対応可能なレベルに思えた。いざとなれば
ブラッドリーはマッカーサーの判断に疑問を覚えつつも、総司令部の命令に従わなければならなかった。例え総司令官が大の日本人嫌いで、そのとばっちりを食らったのが実情であったとしても、ブラッドリーは星条旗に誓いを立てた軍人だからだ。
ブラッドリーは麾下の部隊の内、数個大隊を後退させることにした。出現する魔獣が数パターン想定されたため、ある程度対応力のある部隊が望ましかった。具体的には地域制圧能力と機動力に優れた部隊である。合衆国軍で該当する兵科として、機械化歩兵大隊が挙げられる。
かくして、ラスカーの第十一機械化大隊に、ブラッドリーから白羽の矢が立てられた。このときラスカーは指揮下にある4個中隊のうち3個中隊は、ナッシュビル近郊でグールの掃討に忙殺されていた。そのため実質すぐに動かせるのは、大隊が直率する中隊戦力しかなかった。彼は各中隊の指揮官へ集合地点を伝達すると、すぐにウィチタ周辺の警戒のため、後退を開始した。皮肉なことに、その街は数日前に彼自身が制圧した街だった。
突然の後退命令にラスカーは不満を覚えていたが、今となってはマッカーサーの懸念は正しかったと認識せざるを得なかった。問題は、その懸念に付き合わされているのが、中隊規模でしかない自分の部隊だということだった。マッカーサーの予想通り、初期段階で取りこぼした魔獣の
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バズーカを放った新兵の無事を確かめると、ラスカーは仮設の大隊本部へ戻った。滑走路のすぐ側にあった半壊した倉庫を間借りしたものだ。
「メージャー、メージャーはいるか!?」
通信幕僚の大尉の名を呼ぶ。
「サー、ここにおります!」
「
メージャーの表情が曇ったのがわかった。
「言え。何が問題だ」
「サー、既にサポートの要請は出しましたが、到着まで最低でも120分かかるそうです」
「120……2時間だと?」
「第6軍の主力が大規模な
「……よし、わかった。メージャー、HQへ繋いでデンバーへ状況を上げさせろ。この際、何だって良いから支援を寄越させるんだ。さもないと何もかもご破算になる。明日には、この滑走路が
「
メージャーは通信機へ駆け寄るとすぐに作業へ入った。ラスカーは前線へ目を向ける。数キロ先で舞い上がる砂塵を目視できた。グールとトロールの混合群体が生成したものだった。あのドでかい亀みたいな竜もいずれ回復して向ってくるだろう。
―
ふと"
あの男が対峙した状況と果たしてどちらがましだろうか。似たようなものか。
耐え凌ぐことは出来る。
ただし、俺の
畜生め、絶対に酷くなるぞ。
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※次回3/30(土)投稿予定
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