パンツァー VS ドラゴン(Panzer vs Dragon) 1
―パンツァー VS ドラゴン(Panzer vs Dragon)―
『イワキ1-2、行動不能。脱出する』
「イワキ1-1、了解。カグラへ合流しろ。まだ間に合うはずだ」
『すまない……終わり』
これで中村少尉の小隊は、彼を含め2両のM4シャーマンを残すのみとなった。
「イワキ1-3へ、残弾知らせ」
『徹甲弾が4発、榴弾3発を残すのみ。送れ』
「了解。こちは徹甲弾4発、
『イワキ1-1へ、我らが
「イワキ1-3へ、大丈夫さ。あの人は賢い。きっと逃げ切ったさ」
中村は努めて快活に返信した。内心は全く違う。いくらあの人が帝大卒の秀才でも、あのギガワームから逃げ切るのは至難の業だろう。なんとも晴れない気分だった。たらればと問い詰めれば切りが無いのは承知だが、やはり思わずにはいられなかった。
あのとき、隊長の車両が大破したときにオレは突貫すべきでは無かったのか。少しはあの
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本郷が中隊に赴任したとき、彼は駐屯地の広場へ配下の兵士を整列させた。そこはかつて玉と棒を用いた競技が行われた場所だった。
本郷は兵士の顔を見回すと、ゆっくりと講義をするように着任の挨拶を始めた。
「初めにはっきりとさせておくよ。君らは生きねばならない」
第一声がそれだった。中村をはじめ、兵士の全員が呆気にとられた。彼等は真逆の教えをそれまで叩き込まれてきた。
いいかい、戦いとは死ぬことじゃないんだ。それは結果論だ。徹底的に生きてこそ、戦えるんだよ。承服できなければ命令と受け取って構わないよ。それは君らが後方へ残してきた家族や思い人、そして国家への義務だ。ああもちろん、我々は軍人だから死ぬ覚悟はしなきゃならない。ただ、それは望んで行うものじゃない。念のため聞くが、自殺志願者はいないだろうね? (ここで数名が失笑した) いたら済まないが転属願いを出してくれ(ここでさらに十数名が失笑した)その手の輩はなぜか味方を巻き込んで心中をしたがるんだ。(中隊全体に笑いの渦が巻き起こる)え? なに? 僕の
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まあ、いずれにしろ。遅かれ早かれ行き着く先は
中村はふっと笑いをもらした。彼の乗るM4シャーマンに規則的な震動が伝わったのはそのときだ。展望塔の視察窓から黒い影が見えた。ドラゴンだった。巨体を震わせながら、近づいてくる。彼は無線機を手にした。
「イワキ1-3へ。トカゲの旦那がお出ましだ。どうやらオレ達はいたく気に入られたらしいぞ」
『イワキ1-1へ。いやだねえ。神楽坂の芸者やロスの
「まったくだ。戦車乗り冥利につきすぎるわな」
二人の車長はひとしきり笑うと、行動を開始した。お互いに別方向へ移動しながら、射撃を行う。75ミリ砲ではなく、機銃を使用していた。ぜいたくな戦いは出来なくなっていた。
ドラゴンはイワキ1-3の方へ関心がむいたようだ。ひょっとして、あいつ雌なんじゃないかと思う。イワキ1-3の車長は隊内でも有名な二枚目で、東西問わず女に苦労せぬ生活を送っていたことで有名だった。フェロモンか何かだしてんじゃないかと思っていたが、まさか種族を越えて有効なのやもしれない。
思わず野卑た笑いを浮かべながら、中村は停止を命じた。このままではイワキ1-3は餌食になるだろう。
「目標、敵ドラゴン。照準は右後脚だ。撃て――」
徹甲弾が放たれたが、それは見当違いな方向へ逸れてしまった。照準、照尺ともに完璧で本来ならば命中するはずだった。外れた理由は発砲した瞬間、彼の車両が横転したからだった。
中村は展望塔のハッチから投げ出された。その過程で、地中から現出したギガワームの姿が目に入った。畜生、こいつ戻ってきたってことか。ならば隊長は――。
そこまで考えたところで中村は強く地面に打ち付けられていた。身体全体を衝撃が巡り、息が出来なくなる。苦悶に身をよじらせた。その瞳に、建物の壁際に追い詰められたイワキ1-3の姿が入った。
畜生。せめて最後の一発くらい当てさせろよ。
彼が内心で死を確信したときだった。不思議なことが起きた。
空気を裂くような音がしたかと思えば、ドラゴンが明らかな悲鳴を上げ、イワキ1-3号車から身体を反らした。
彼はすぐに異常の原因に気がついた。イワキ1-3、その背面の建物に大きな穴が穿たれている。
何ものかが壁越しに砲撃を行ったのだ。
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※次回12/14投稿予定
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