死闘(Death match) 3

 ボッテインオーは緩衝地帯近くの拠点として、重要策源地の一つとなっていた。そこには来たるべき反攻作戦に向けて物資が集積され、有力な合衆国軍の部隊が駐留していた。臨戦態勢が整っていたのならば、十分じゅうぶん以上に魔獣へ抵抗できたはずだった。


 しかし敵ドラゴンは近郊の森林地帯から突然姿を現わし、迎撃態勢を整える間もなく蹂躙を開始した。完全な奇襲だった。敵は合衆国軍の予想を裏切り、ダンシーズへ南下せず、西進していたのだ。結果的に、合衆国軍の後退計画の裏をかかれたことになった。


 合衆国軍にとって不運は陸軍航空基地近くにドラゴンが姿を現わしたことだった。そこには燃料タンクとともに弾薬庫が隣接されていた。本来ならばありえない管理の仕方だったが、物資が集積され過ぎた結果、一時的に非常識な配置をせざるをえなかったのだ。


 敵ドラゴンの攻撃によって燃料タンクに引火し、そこから一気に破局へ繋がった。


 さらなる不幸はボッテインオーが後退計画において中継点に指定されていたことだった。そのため道路は渋滞し、敵ドラゴン出現で混乱に拍車をかけることになった。合衆国軍の部隊は抵抗と後退の板挟みに合い、どちらも選べずに踏みつぶされていった。


=====================


 土埃を上げながら、12両の戦車がボッテインオーの街を這うように縦断していく。街の道路は舗装されていなかったが、幸い十分乾いていたため、走行に支障はなかった。


「アズマより、全車へ。残骸に気をつけろ。それから各車、車間は可能な限り広く取れ。いざとなったときは各自の判断で後退しろ」


 砲塔が転がり落ちたM4シャーマンを横目に、本郷は街の中心部へ進行した。地響きと咆哮が近くなっていく。交差点にさしかかったときだった。右方向の建物から人影が飛び出した。


 合衆国の兵士だ。


 何かを叫びながら、彼はバズーカを構えていた。よく聞き取れなかったが、ひどく混乱しているのはわかった。本郷はバズーカが向けられた先の存在を予測し、思わず叫んだ。


逃げろラン!!」


 バズーカが発射され、次の瞬間、兵士は真っ赤な炎の波に包まれた。奇怪な叫び声をあげながら、兵士は火だるまになり、倒れ伏した。


 本郷は畜生とつぶやき、車内へ入った。展望塔の天蓋を閉じると、無線の受話器を口元へ当てた。


「アズマより、全車へ。今のを見たな。それなら絶対に車外へ顔を出さないように。あとヤツとの距離は最低でも100はとれ。戦車でもあの火炎をまともに食らったら危ない」


 正面ならば、なんとか耐えられるだろう。しかし、機関部まで炎に包まれたらただではすまないだろう。下手をしたら、燃料タンクに引火して吹っ飛ぶかもしれない。


 地響きが大きくなっていく。ついにヤツが交差点へ姿を現わした。白日に現われた巨体は真っ黒な四足歩行型のドラゴンだった。全長は40メートルはあるだろう。どこかで見た形状、何かに似ていると本郷は思った。すぐに思い出した。そうだ。進化論だ。イグアナに似ている。確かイグアナドンとかいう恐竜がいたか。いや、あれはこいつと似ても似つかな……莫迦野郎。今はどうでも良い。言うべきことがあるだろう。


「射撃開始」


 戦車中隊より、12発の75ミリ徹甲弾が放たれた。そのうち数発は曳光弾だった。橙色の火の弾が一直線に伸びていき、黒い巨体へ命中……そして弾かれた。


「次発、装填。続けて撃て!」


 本郷は股間が縮み上がる思いを感じながら、命じた。こんなことはわかりきっていた。昨夜M4の残骸見たときから予測した結果だった。悲観しつつも、絶望に陥らなかったのは、彼の任務が敵の撃破では無く足止めだったからだ。


 今日は晴れている。ならば航空機の出撃が可能だ。爆撃機の500キロ爆弾なら、ヤツを始末できるだろう。


 問題は一番近くの飛行場のはずだった、ここボッティンオーが使用不能になったことだ。ここ以外で最も近い航空隊の基地から爆装して飛んでくるまで、最短でも2時間はかかる。


 全く、北米は呆れるほどに広すぎた。


「全車、散開しろ。イワキは右の路地へ。ウラベは左の路地を抜けて回り込め。アズマ各車は我とともに後退。ヤツとの相対距離を維持しろ。さあ、いつも通り……竜さん、こちらといこうか!」



※次回12/10投稿予定

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る