遣米支援軍(Imperial Army) 1
―遣米支援軍(Imperial Army)―
【アメリカ合衆国 ノースダコダ州 デヴィルズ湖付近 1945年2月12日 朝】
20世紀中盤におけるノースダコダ州は、まことに牧歌的で良くも悪くも
1940年において、ノースダコダは合衆国の中でも人口の多さでは下から数えた方が早い規模の州だった。今でもそれは変わらない。しかしながら、ただ一つ決定的に異なることがある。男女と年齢の構成比だった。現在、ノースダコダの人口、その8割近くが20代以上の男子によって締められている。
「よし」
扉から出る前に室内をもう一度見回す。かつての家主の寝室と予想された。寝台の広さと調度品から、恐らく妻に先立たれた老人のものであろうと本郷はあたりをつけていた。読書家で、ナイトテーブルの抽斗には多数の書物が収められていた。彼はここで休養を取る間、数冊拝借して楽しませてもらった。ずいぶんと好奇な趣向の方だったらしい。よもや北米の民家で阿Q正伝を読破するとは思いも寄らなかった。
「またご縁があれば、お借りします。お世話になりました」
無人の空間へ彼は一礼すると静かにドアを閉めた。
そろそろ彼の中隊の兵達も準備を整え始めている頃だ。
階下へ降りると、給仕係が食事の用意を済ませていた。かぐわしい芳香が鼻孔に行き渡り、本郷はおやと思った。
「珈琲か?」
「あ、おはようございます! ええ、昨夜アメさんからの差し入れです」
応じたのは、中村少尉だった。本郷が直率する第一小隊の先任士官だ。丸顔でやや太り気味だが、この少尉の場合、それが外見上の愛嬌として解釈される方が多かった。
「アメさん? どこの部隊だ?」
「え~っと、ああ、ほら、
「かまわないよ。僕はあまり飲まないし、煙草も吸わんからね。あ、チョコだけは一つもらえるかな。他は不公平にならぬようにしてくれ」
「承知しました。お任せを!」
少尉は近くの兵を呼ぶと、
今朝の
「それにしても、モルヒネでこんなお返しをもらえるとは驚きですね」
「それだけあの
本郷の部隊が救援した合衆国軍のE中隊は魔獣の群れに長期間包囲される中で、最後まで士気を維持し、戦線を支え続けていた。本郷たちが魔獣の包囲網を食い破り、E中隊と合流したとき、アメリカ兵達は弾薬でも食料でも無く、薬を要求した。それは死の間際に発つ彼等の指揮官を少しでも楽に見送りたいという彼等兵士の総意からだった。
「あの将校は有能だったんだよ。そうでなければあんな包囲下で中隊を生き残らせるなど不可能だ。本当に惜しいことをした」
「ええ……ああいうのは勘弁ですね」
「我が軍も彼等の粘り強さを見習うべきだな。私見だが、我が軍の戦車乗りはやたらと魔獣へ
「まあ、否定はできませんな」
中村は苦笑いで応じた。
二時間後、本郷率いる第八混成戦車中隊は、デヴィルズ湖へ向けて発った。そこは彼らが救ったE中隊が死守した街がある。今では魔獣の巣と化しており、彼らの任務は威力偵察もかねて、周辺地帯の魔獣の分布状況を観測、大隊本部へ報告することだった。もちろん会敵した場合は例外なく排除する。
※次回11/24投稿予定
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます