魔導機関(Magus system) 1
―魔導機関(Magus system)―
【東京 築地 海軍大学校
東京駅に着いた矢澤はキオスクで朝刊を手に入れた。その一面は言うまでも無く横須賀空襲で埋め尽くされている。新聞各社は似たような見出しで紙面を飾り立てていた。
『横須賀に幽霊戦艦現る!?』
『横須賀壊滅。死傷者千名以上』
『帝国海軍、敵艦の撃沈を発表す』
『山本軍令部総長、近海の警戒強化を命ず』
一通り目を通し、矢澤は情報統制が上手くいっていることを確認した。どこの新聞も<宵月>について触れていなかった。紙面で語られているのは、あくまでも<アリゾナ>と横須賀の被害状況のみで、その
<アリゾナ>を沈めた存在については一切書かれていない。
――さすがは少将だな。
矢澤は
――あの二人のことだ。そう遠くない日に再戦となるだろう。
矢澤は頭を振りながら、海大の門をくぐり、勤務先へ向かった。海大の教室を改造した
――まさか、山口長官か?
いや、そんなはずはない。あの長官がこんな流暢な罵倒を披露するわけがない。そんなことをするくらいなら、とっくに拳で訴えているだろう。だいたい何よりも異なるのは、声の主が明らかに女のそれだった。
まさかとは思うが、痴情のもつれではあるまいなと思う。
ドアの前まで来てようやく矢澤は声の主の当たりをつけた。出来れば顔を合わせたくない相手だったので、回れ右しようかと思った。どの道、自分が踏み込んだところで状況は変わらぬだろう。それどこから悪化しかねないと思った。好んで修羅場に突入するような質ではない。戦場ならば話は違うが……。
矢澤が静かに立ち去ろうとしたときだった。罵倒の音源が急速に近づき、ドアが開け放たれた。思わず相手と目が合ってしまう。
短く整えられた金髪はカールがかかり、その身を紺の下地に白の
彼女は矢澤が逃亡を謀ろうとしていたことに気づいたらしい。これ以上ないほどに鮮烈な笑みを浮かべた。
「これはこれは矢澤中佐、ごきげんよう」
「どうもフロイライン・リッテルハイム」
キールケ・リッテルハイムは豹のような視線を浴びせてきた。不用意なことを言いようものなら精神をずたずたに引き裂かれそうだ。矢澤は相手の反応を待つことにした。
「あなたの上官は軍人では無く商人になるべきだわ。こんな世界で、この国が潤っている理由も納得よ」
「はあ、それは……」
矢澤は敢えて言葉を濁した。どうやら彼の選択は誤りでは無かったらしい。
「
そっけなく言い放つと、その独逸人は出て行った。
※次回11/19投稿予定
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