横須賀空襲(This is not a drill) 9:終
彼にはやるべきことがあった。<宵月>の全身から悲鳴が上がっている。負傷者は医務室へ入りきらず、
「まずは浸水を止めろ。スクリューの修復は後回しで良い」
間もなく味方が助けに来てくれるだろう。それまで浮いていれば良いのだ。
「興津中尉、EFへ連絡だ。
「承知しました。付近の艦船にも呼びかけます」
「ああ」
一時間後、味方の駆逐艦が来援し、<宵月>は横須賀まで曳航されることになった。
この世の地獄とも思える情景の中を儀堂は表情一つ変えずに巡っていく。死体を見るのはこれが初めてではなかった。内心では渦巻くものがあったが、彼はそれを押し殺す術をこの数年で習得してしまった。そうしなければ精神の平衡を保つことはできない。心が壊れては戦えない。
生きて戻れたのは喜ぶべきことだが、運が良いとは到底思えなかった。少なくともこの艦に居合わせた者は少なからず己の命運を呪うだろうと思った。
――処女航海で初陣、そして
恐らく復帰まで最低でも4ヶ月はかかるだろうと思った。艦内外を一巡りして結論を出す。特にこの艦は装備は最新式で塗り固められているため、完全復旧は困難かも知れない。兵装に関してはすぐに手当てがつくだろうが、電子装備を揃えるのは骨が折れそうだった。
儀堂は艦内中央、船底付近へ足を向けた。彼がまだ踏み入れていない区画が残されている。見取り図では他の区画から隔絶され、何の記載もされていない部屋だった。御調少尉の言葉を借りるならば、そこは秘匿区画と呼ばれている。
数分後、儀堂は水密扉の前に立っていた。バルブを回し、扉を開ける。その厚さは人の胴回りほどで。駆逐艦には不釣り合いなものだった。見取り図から、この区画全体が
室内は暗く赤色灯に照らされている。奥に直立不動で佇む影があった。彫像のように微動だにしない。儀堂が訪れるずっと以前から、姿勢を保っていたかのようだった。
「お待ちしておりました」
「それが、この
「はい……」
御調は顔を背けるように、儀堂と同じ方向へ顔を向けた。そこには
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ここまで読んでいただき、有り難うございます。
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弐進座
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