横須賀空襲(This is not a drill) 4
「どこにいる?」
何を嗤っていやがる。
『そんなことはどうでもよかろう。それよりもお主は困っておるのだろう。妾は役に立ってやるぞ』
ネシスは声音を急変させた。それは怜悧さを感じさせるものだった。その背後に不穏なものを感じながら儀堂は尋ね返した。
「役に立つ? 君に何ができると言うのだ?」
ネシスは再び巫山戯た調子で答えた。
『そうさな。例えばこんなことだ』
直後、<
「なっ……!?」
儀堂は背筋を凍り付くのを感じた。ハワイ沖の惨劇が蘇る。まさか、こいつここで魔獣をひねり出すつもりか。
儀堂の予感は外れた。六芒星は赤く光ると上空へ向けて一筋の光を放ち、消え去った。光は分厚い雲に吸い込まれると途端に変化が生じた。それは儀堂にとっては望ましいものだった。
「……こいつは
『言ったろう? 妾はきっと役に立つと?』
からからとネシスの笑い声が聞こえてくる。
上空を覆っていた分厚い雲が綺麗さっぱり取り除かれていた。それらは吹いてかき消されたように忽然と消え去り、気象予報通りの晴天が広がっている。そして、その蒼空のキャンパスに不気味なシルエットが浮かび上がり、蠢いているのがしっかりと見て取れた。横須賀砲撃の黒幕だった。
儀堂はそのフォルムに見覚えがあった。それは1941年の11月、戦艦<比叡>の士官用会議室で何度も目にし、頭に叩き込まれたものだった。儀堂だけでは無く5年前、
「アリゾナ……」
儀堂は急速に自分の中で何かが醒めていくのを感じた。それは侮蔑と怒りの感情がない交ぜにされたものだった。<アリゾナ>に対するものでは無く、
――なるほど、ああ、そうかい。君達はそのような奴ばらなのか。いいだろう。オレは絶対に忘れずに覚えておこう。
たとえ
向こうは
「艦長、機関より報告。全力発揮可能です」
「よろしい、機関全速。あれを横須賀から引き剥がす。取り舵一杯、真方位160へ変針」
操舵手の「宜候」と共に、<宵月>は徐々に速度を上げていった。
儀堂は受話器を取った。電路の先にいる鬼へ確固たる口調で呼びかける。
「ネシス」
『なんだ?』
「役に立て」
『ふふ、ギドー怒っているのじゃな。いいだろう。妾が役に立とう』
鬼が嗤った。
同時に上空より砲声。
敵弾は8秒後に飛来した。
※次回11/13投稿予定
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