六反田少将(Warmonger) 5
【東京 世田谷 儀堂家】
翌朝、儀堂はいつもどおり6時に起床した。六反田と話をした後、御調少尉に送られて帰宅したのは零時頃だった。その後、やたらとこの世界について聞いてくるネシスを強制的に寝かしつかせたとき、時計の針は4時を回っていた。ほとんど仮眠と言って良いほどの間しかなかったが、支障は全く感じなかった。徹夜慣れしていたためだ。ひとたび護衛作戦が始まれば、三日間一睡もせずに艦橋へ詰めるなど、ざらにあることだった。横になれるだけありがたかった。
顔を洗い、身支度をすませながら儀堂は悶々と考えていた。昨夜、
「……どうしたものか?」
率直に儀堂は困っていた。今日は海軍省へ出頭しなけらばならなかった。新たな配属先の辞令を受け取るためだ。遅れるわけにはいかなかった。
聞けば次は駆逐艦の副長職らしい。なればこそ、なおのこと早く彼は海軍省へ出向きたかった。一刻も早く次の艦の兵の練度と士気を掌握し、
「せめて留守の間、誰かがあれを見張ってくれればよいのだが」
見当も付かなかった。不本意だが六反田の言うとおりだった。人外と屋根を共にするなど、常人に務まると思えなかった。幸いネシスに敵意はないようだが、あの額から突き出た角を見て平静を保てるヤツなどいないだろう。
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「仕方ない。家から出るなと言い聞かせるか」
儀堂がネシスの寝床へ向かおうとしたときだった。玄関の開く音がした。
「衛士さん! 朝ご飯持ってきたよ!」
小春の声だった。儀堂は顔から血液が後退していくのを感じた。
「やあ、小春ちゃん。ありがとう。ずいぶんと早いね」
平静を装いつつ、儀堂は脳みそを全力稼働させた。一刻も早く、この羅刹の家から出て行ってもらう必要がある。
「兄貴が早起きでさ。朝から
噂に聞く烈風のことだろうかと儀堂は思い、軍機を妹に
「ご飯まだでしょ? 簡単だけど、作ってきたわ」
小春は大きめの盆を抱えていた。鍋らしきものの取っ手が見える。
「台所借りるね。味噌汁温め直すから」
「いや、それは……大丈夫だよ。それくらい自分で――」
「もう遠慮しないでいいったら。男子厨房に入らずっていうでしょ? 男が料理なんてご法度よ」
愛らしい笑顔とともに、小春はこの世の全ての
「ああ、いや、そうではなくこれからオレは出かけ――」
急いで儀堂は後を追ったが、ほどなく追いつくこととなった。小春の進撃が突然止まったからだ。彼女は会敵した。
「うるさいのう……なんの騒ぎじゃ?」
ネシスが起床してきていた。小春は5秒ほど沈黙した後に疑問を口にした。
「衛士さん……この人、なんで全裸なの?」
15の娘が発した声とは思えぬものだった。それは儀堂に生命の危険を感じさせるほど、静かな怒気を孕んだ声音だった。
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