南雲機動部隊(Nagumo task force) 5

「目標に損害なし!」


 観測所からの報告に三川は思わずうめいた。


「司令、もはや最悪の事態を想定すべきかと」


 主席参謀が暗に撤退を促した。砲術参謀が噛みつくように抗議する。


「まだ早い! 徹甲弾ならばあるいは――」

「空中の目標相手に徹甲弾など当たるものかね」


 主席参謀は冷ややかに言った。三川は手を上げて、制止した。おもむろに電話手の方へ顔を向けた。


「山口少将へ連絡しろ。無事な母艦とともに、この海域を離脱するように。それから第八戦隊の大森少将には護衛を頼む」


 大森から了承と返信があったが、山口は猛抗議を行ってきた。<飛龍>の攻撃隊を発艦させるつもりらしい。三川はにべもなく却下した。


「いいから逃げろと言え。ここで空母を喪ったら、お互い山本長官に合わせる顔が無くなるぞ」


 <赤城>の南雲中将と連絡が取れない以上、艦隊の指揮権は三川にあった。しばらくして渋々了解すると山口から返信が来た。三川は知らなかったが、この後に海域から離脱しつつも山口は攻撃隊の発艦準備を進めていた。


 <比叡>と<霧島>、そして<利根>と<筑摩>は、引き続き球体に対する攻撃を行っていた。他の艦が退避へ向けて変針し始めたときだった。


「目標に変化を認む!」


 うわずった声で見張員が報告してきた。どうやら三川達が望む変化ではないようだ。


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 後部艦橋で、儀堂は照準装置のレンズから球体の変化をつぶさに見ていた。その光景は怪奇の一言に尽きる。


「今度は何だ?」


 またの光弾を撃ってくる気かと思ったが、違うようだ。

 球体は紫色の光を増すと、四方へ巨大な方陣を投影した。まるで映写機で映し出されたかのように空中に幾何学模様が浮かび上がる。


「六芒星?」


 紫色の線で、ヘキサグラムの模様が描かれていた。その周囲には解読不能な文字が描かれている。


「万国博覧会でもあるまいし、何をやらかすつもり――」


 あっと声を上げる。儀堂だけでは無く、射撃指揮所にいた者全てが同時に声を上げていた。


 幾何学模様の方陣から次々と異形の化け物が次々と出てきた。化け物の中でも翼のあるものは飛び出していき、ないものはそのまま海上へ落下していく。まるで乱雑に廃棄されたようだ。


 方陣は化け物を数十体生み出すと、忽然と消え去った。

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