本篇13、きらきらぼし

増田朋美

第一章

きらきらぼし

第一章

今日も、富士山をバックに、一両の電車が走っていく。もちろん、田舎電車であり、一両しかないので、乗っているお客さんも少ないが、それでもあの時の電車とは少し風景が違い、周りには、工場もあり住宅もあり、多少人出はある。なので、空っぽ電車になるということはまずない。そこだけは、以前働いていた電車とは違うかな、なんて思いながら、今日も駅員として彼女は駅に立っていた。

その日も、岳南江尾駅からやってくる、吉原止まりの電車を迎えるため、彼女は吉原駅のホームに立った。吉原、というと、売春街で有名な吉原しか知らなかったので、初めのころは駅名を言うのにかなり躊躇したが、今はもう慣れた。この電車も、以前の電車と一緒でSuicaの使用はできなかった。もしかしたら、こういう電車は意外にまだあるのかなと思った。

数分後に電車はやってきた。ちなみにこの岳南鉄道、しっかり電化されていて、気動車ではなく電車が走っている。だから、あの時のような疲れ果てた音を立ててやってくるということはなく、しっかりと電車らしい音を立ててやってきた。

それにしても、昭和レトロな雰囲気のあるホームだなあ、最近よくある昭和ブームの中で、わざとこうして古い駅舎を残しているのかしら、なんて彼女は考える。

そうこうしている間に、電車がホームに止まった。何人かの客が降りてきたが、やっぱりお年寄りが多いのは以前の電車と同じ。時折、新人さん、いつもよろしくな、なんて、声をかける乗客もいるのは、静岡ならではか。

一番最後に、運転手に手伝ってもらいながら、車いすのお客さんが、電車を降りてきた。車いすのお客さんが降りてくることは、無線により岳南富士岡駅から知らされていたので、彼女はお客さんのいるところへ駆け寄る。

ドアが開いて、お客さんと鉢合わせすると、あれ、この蜘蛛の巣みたいな着物の柄、どっかで見たことがあるような。なかなか着物を着ている人って見かけないから、偶然同じ柄だったということは、さほどないだろう。と、いうことはつまり、、、?

「あれえ、この駅員さん、かなり前に見かけたことがあるような?」

と、いうでかい声もまさしくそのもの。

「なんだい、杉ちゃん。新人さんなのに、知り合いだったのかい?」

運転手が、その人に言った、杉ちゃん、という言葉から、やっぱりそうだ!確信した。

「うん。覚えてるよ、久留里線に乗った時に、久留里駅で会ったことあるよ。あの時確か水穂さんと一緒で、ご親切に、疲れていた水穂さんに水出してくれたような。」

そこまで正確に覚えていてくれたのね。顔は覚えていたけれど、、、。

なんていいかけるが、この顔を見れば、その時のことをあれよあれよと思い出すのであった。

「その節はありがとな。しかし、まさかこんなところに来るとは思わなかったよ。」

また、からからと声を上げて笑う杉三だった。

とりあえず、電車が折り返し運転で岳南江尾行きとなるため、ホームで待っていた数人の乗客を手早く乗せ、運転手さんにはお礼を言って、電車に戻ってもらい、再び岳南江尾に向けて走って行ってもらう。だいぶ慣れたな、と言いながら、杉三はその一部始終を眺めていた。

「あー、びっくりした。あの時の久留里線であったのが最初で最後かな、なんて思っていたのにさ、こうしてまた会えるなんて、信じられん。一体何があっただよ。どう見ても訳アリだろ。安定したJRを捨てて、こんな古ぼけ鉄道会社まで来るんだからよ。」

「そうね、あたしも信じられなかったわよ。まさか乗っていたとは思わなかった。」

「思わなかったって、富士市民であればだれでも乗るよ。」

ええ?そう?一部の人しか使わないと、聞いたことあったけど?

「富士市の足だもん。乗らないわけないじゃん。」

と、いうことは、あの時一緒にいたきれいな人も、この電車に乗ってくれる可能性もあるのか?なんて考えてしまうのである。でも、そんなこと言ったら、また笑われる気がするので、

「今日はどうしたの?何か用事でもあった?」

と、聞いてみた。

「単に富士岡の呉服屋さんに用があって出かけただけだよ。」

富士岡に呉服屋があるなんてまだ知らない。意外に、富士も君津と同様、広いところだなあ。

「へええ、そうか。ほんとに徹底的に着物にこだわっているのね。」

「へへん。何よりも、一番楽に過ごせるのは着物かな。ところで、君の名前なんていうんだ?」

あ、そうか、そういえばもらった手紙に、杉ちゃんは読み書きができないと書いてあったなあ。いまつけている名札も読めないのか。

「あたしは、今西由紀子。平凡な名前だけど、許してちょうだい。」

「平凡でもなんでもないと思うけどね。僕は影山杉三ね。運転手も言っていたけど、杉ちゃんと呼んでね。」

「はい、よろしく。一度会っているから、すぐに言えるわよ。」

由紀子はいたずらっぽく笑った。

「本当?よかった。じゃあ、切符きってくれないかな。」

「あ、はい。わかりました。」

このやり取りを見ていた、老齢の別の駅員が、二人をからかうように、

「あれれ、由紀子ちゃん、この間は付き合っている男の人なんかいませんよ、なんて言ってたくせに、杉ちゃんと仲良かったのかい?」

といって笑った。どうやら田舎では、恋愛話が一番盛り上がるらしい。それは首都圏では少ないが、外れれば外れるによって、この傾向は強くなる。

「もう、仲良かったとかじゃありませんよ。JR時代に、一度お会いしたんです。」

「へえ、そうなのねえ。JRの田舎電車に、杉ちゃんが乗ったんだねえ。まあいい。ちょっとさあ、お茶でも飲んできなあ。しばらくあんまり人が来ないからさあ。」

老駅員はまたからかうように言った。何ですか、私にそんなに、恋愛とかしてほしいのかしら、せっかく、この電車なら長く働けそうだなと思ったのに。

「おう、ありがとうよ。じゃあ、肉まんじゅうでも食べに行くか。お昼をまだ食べてないんだ。」

杉三がそういったため、由紀子は、数時間だけ暇をもらって、杉三と一緒に駅を出た。

「しっかし、なんでまたJRとお別れしようかと思ったの?」

肉まんじゅうを食べながら、杉三が聞いた。

「みんなおんなじこと聞くのよね。そんなにJRというといいところなのかしらね。」

「あ、すまん。聞かないほうがよかったか。」

そう返してくれたが、すまんと言われても、なんだか申し訳ないと思ってしまう由紀子だった。

「気にしないで。あたしが勝手にやめただけだもん。」

「嫌になったの?JRが。まあ確かに、もともと国鉄だから、私鉄に比べると、おごり高ぶっている駅員が多いのは事実だと思うけどね。まあ、女の子には働きにくいのも確かなのは、認めるよ。それくらい男の駅員ばっかだもんね。」

「そうね。確かに、あたし以外いなかったわよ。女性の駅員なんて。」

それも事実であることは事実である。女の子なんて、一握りしかいないほど少ない。

「でもさ、よくこの鉄道会社を見つけたよな。こんなおんぼろ電車の駅員になるなんて、信じられなかったよ。」

「もう、杉ちゃんも古いわね。最近はインターネットがあるんだし、日本全国どこの求人でも、見られるわよ。」

「あ、そうだったね。最も僕は、パソコンなんか使っていないから、知らないけどさ、そんなこと。でも、どうしてこんな遠いところまで来たの?田舎電車に勤めたかったのなら、小湊鐡道とかに勤めればいいのに。蘭が一度乗ったことがあるそうだが、女の駅員もいるそうだぞ。」

「まあ、よく言われるんだけどね。また別の理由があるのよ。あんまり口に出して言いたくないけど、千葉県からちょっと出たいっていうか、離れたい気持ちになって。」

「へえ、どんな気持ちだい?」

由紀子がそういうと、杉三がすかさず聞いた。本来なら、ここで切る人が多いが、そこは杉三であり、答えをもらうまで、質問をやめないのである。

「セクハラでもされたのかい?あんなのんびりした地域だから、変質者はあまり出ないと思うんだが?」

「ああ、そういうことじゃないわ。間違っても、久留里の街には、悪い人はいないわよ。」

急いで訂正すると、

「じゃあなんだよ。君にとって、理想的な町だったのではないのかい?」

と聞いてくる。

「あ、あ、ごめんなさい。久留里線で悪い思い出があったとかそういうわけじゃないわ。少なくとも、杉ちゃんたちがやってきて、久留里線に悪い評判が出たとか、そういうことはないから、気にしないでね。」

「も、もしかして、取れなかったのかな?床のシミ、、、。」

「床なら、ちゃんと黄色に塗りなおしておいたわよ。退職する前日にね。」

「と、いうことはやっぱり?」

つまり、杉ちゃんは、自分たちが器物破損をした責任を取ってやめたのかと考えているようであるが、そこは違うんだと、訂正しなければならなかった。

「あ、違うわよ。そういうことじゃないわ。だって、床を黄色に塗り直したのも、駅を利用する人は、イメージを変えたのか、くらいしか聞かなかったわよ。それは本当だから。そこはわかって。」

「わかるというか、僕が知りたいのは、なんで千葉から離れたくなったかということだ。駅のイメージのことなんて知りたくもないな。」

杉三は、自分のいうことを無視してそう返してきた。こうなったら本当の理由を言わないといけないか。もう杉ちゃんには、嘘もごまかしも効かないのね。ほんのちっとやそっとのことでは、引き下がらないのか。

「わかった。本当のことを言う。あのあとね、あたし自身は、これからも久留里線と一緒に働こうとずっと思っていたんだけど。」

こんなことを言っていいのかわからないが、とりあえずこう切り出した。

「そうしたら、その一週間くらい後に、父がね、いきなり電話なんかよこしてきて。」

「あ、お父さんから?」

「そう。どうせ、こんな田舎電車に配属されたんだったら、もっと幸せな生活をしろなんて、怒り出すのよ。あたしは、まったく不幸なんて感じてなかったんだけど。次は母から電話が来てね、こんな田舎ではいい出会いもないでしょうから、東京に帰ってきなさい、あんたがそれだけ電車が好きなら、京王電鉄みたいな比較的人の利用が多い、安全なところに就職しなおしなさい、なんてうるさく言うもんだから、もう頭に来ちゃって。」

「あ、なるほどね。つまり君は、結婚を束縛と考えるタイプなのね。」

「そうは思わないんだけど、そうするのはまだ早いと思うの。決して結婚しないのがベストであるとは思わないけど、もうちょっと、働いてからでもいいかなと思うわけ。なんか、こんな年から、家庭に入っちゃうのも、なんだかつまんないなって思うし。一度入ったら、次に自由が得られるのは、おそらくおばあちゃんになってからだわ。それが、理想的な人生なんだってよく言われるけどさ、果たしてどうかなって思うの。」

「あ、そうだね。確かに、そこをうまく処理できなくて、生まれた子供に当たり散らして、しまいには殺してしまうという事件も後を絶たないしねえ。」

「でしょ。だから、あたしは、もうちょっと世界を見てからのほうがいいと思うの。電車なんて、世界の縮図と言われる乗り物だから、電車にまつわるところに就職したいと思って、頑張って、JRに入ったんだし、さあこれからだって思ってたら、いきなり親がそういう話を持ってくるもんだから、頭に来ちゃって。」

「親子のガチンコバトルだねえ。で、勘当ということでこっちに?」

「そこまでは言われなかったけど、JRにいたら、いつ親から手が出るかわからないなと思って、やめることにしたのよ。もちろん、杉ちゃんが言ってた、そういう私鉄に勤めようかとも思ったんだけど、もうしつこくて。じゃあ、いっそのこと、遠くへ出ちゃおうと決めたの。でも、東北地方とか、そこまで辺境に行く自身もないし。悩んでいた時に、インターネットでこの電車の駅員募集の投稿があったから、もうこれだっ!て、迷わずエントリーしたわけ。」

「なるほど。かわいいけど、意外に頭はいいんだな。それなら、おもいっきりこっちで生活しちゃえばいいさ。昔のように、女は男に頼りっぱなしじゃないと、生活できない時代というわけでもないからさ。そういう意思が強いんだったら、かえってその通りにしたほうがいいよ。幸い、この富士市は、久留里線に比べると、紙の工場ばっかりで、きれいな水も何もないけどさ、うだつの上がらない、あったかい人はいっぱいいるから。そういうところだよ。」

「そうねえ。まあ、大半の人は物好きだねって笑ってたけどね。ほかの駅員さんたちも、この電車に若い女が入社してくるとは、思わなかったといってたわ。」

「へへん。それなら、お前たちも若いときがあったじゃないかと言って、抗議すればいいのさ。どうしても、年寄ばっかりの街だから、そうなっちゃうんだよ。それに、若い人って、大体この富士市が嫌いで、逃げていくことができる時代だろ。年寄たちは、それができなかった人たちなので、若い人が自分の意思で行動できちゃうってことにある意味嫉妬心を持つんだよ。それを頭に入れて会話をすれば、少し、嫉妬深いお年寄りたちの悪口を切り抜けることができるかもしれないぞ。」

杉三はまた笑ってそんなことをいった。杉ちゃんは、意外に哲学的な精神も持っているのねえ、とある意味感心してしまうのであった。

「まあ、それについては、少しずつ慣れていくわ。それに、どこの世界でも、そういうことってあるんだと思うから、あたしは平気。」

「あんまり気を使いすぎて、自分まで壊したらだめだぞ。若いからと言って、なんでもいいなりになるのではなく、必要な時ははっきりと、いやですと口に出して言えよ。」

「杉ちゃんありがと。」

今は、余計な一言に見えるが、いずれはそうなるかもしれないので、由紀子はとりあえずお礼だけした。

「それにしても、この店の肉まんじゅうはうまいな。」

杉三は、二個目の肉まんじゅうを頬張って食べ始めた。

「ところで杉ちゃん。」

由紀子は、これだけは聞いておきたいと真剣な口調で聞く。

「なんだ?」

「あの人、どうしてる?ほら、、、。」

「あ、水穂さんかい。水穂さんなら、製鉄所で寝ているよ。」

「製鉄所?」

「そう。住み込みで働いてるの。」

へえ、あそこまで綺麗な人なのに、結構固い職業についていたのか。そうなると、長時間労働でも強いられていたのかしら。そうなれば、ああいうことになるのもわかる気がした。

「で、あの時より、少し楽になった?」

「たぶんよくなることはないだろうからあきらめろって、青柳教授が言ってた。」

杉三の返事に、ちょっと衝撃を覚えてしまう由紀子だった。明治とか大正の時代であれば、そうなるのかもしれないが、、、。

そのころ。

水穂本人は、杉三のいう通り、布団で静かに眠っていた。見た夢はいつも同じ。ただ、空の上を浮遊している気がするだけである。でも、突然、順調に動いていたヘリコプターが突然墜落したような感覚がして目が覚める。

こうなると、次に何があるかわかっているから、もう何も言わないで布団に座り、せき込んで内容物を出す。この繰り返しである。

「あ、長居してごめんね。駅まで杉ちゃん迎えにいくから、もう帰るよ。早くしないと、いつまで待たせるんだとか言いだすから、、、。」

と、蘭がふすまを開けると、水穂が布団に座ってせき込んでいるのが見えたため、蘭は歩ければ、急いで駆け寄ったつもりで、水穂の近くへ行った。

「おい、大丈夫かお前!」

返事をするより先に、激しくせき込むほうが先である。

「しっかりしてくれ、しっかり!お前この頃、ほんとよく出すな。この前、千葉へ無理やり行ったとき、杉ちゃんが亀山湖を一周しようといったらしいけど、つらかったらわがままを言うなとか言って、止めていいんだぞ!杉ちゃんだって、そういうところをわかってもらわないと!」

さすがに、布団を汚すということはまだしてないけれど、周りの畳はすでに血痕が付いており、そこへ新たな血液がぼとん、とおっこちた。

「ああ、もう。こうなるなら無理していくことなかった。あの宿泊券は、使うべきじゃなかった、、、。」

困り果てた表情で蘭は言うが、

「うるさい!お前は手を出すな!」

弱弱しくそれだけ言って、枕もとの手拭いで、水穂は手を拭いた。

「薬、飲むか。」

蘭は、机の上に置かれていた、水筒と粉剤を取ろうと、車いすに手をかけるが、

「いや、いい。今はやめておく。」

と、断られてしまった。

「なんでだよ。こんだけ悪くなっていたら、飲まないとだめだろう。」

「いや、いい。一度飲んだら、しばらく寝ちゃうから。そうなるのは困るもの。」

「馬鹿!必要だからそうなるんだろ。お前まで杉ちゃんみたいになったのかよ。」

驚いたというか、あきれてしまったというか、同時に怒りも生じて蘭はそういったのだが、答えはちゃんとあるらしいのだ。

「今はやめておく。薬飲んで、夜中まで起きれなくなったら困るもの。今日は大事な用事があるから、寝ていられないんだよ。今日はお客さんが来るんだ。五年前に製鉄所を利用していた人が、久しぶりにこっちに来るっていうから、そういうときに寝ていたりしたら、失礼になるよ。」

「そんなこと、調子が悪いから、今日は来ないでって、断ればいいじゃないか。そしてまた別の日に出直してもらうとか、そうすればいいんだよ。とにかく今日は休んだほうがいい。そのほうがいい。」

一生懸命そういってくれるのはありがたい。でも、悪いけど、この機会を逃したら、もう会えなくなる可能性のほうが、高いんだよ。と説明したら、蘭はさらに騒ぎ立てることは目に見えていた。

「だけど、お客さんには、たまにしか来られない人だっているだろ。ほんとにお前も、人のいうこと聞かないんだな。」

「そうか。これだけ言ってもわかってもらえないのなら、もう帰るわ!」

蘭は吐き捨てるような、でも、悔しそうな言い方でそういい、部屋を出ていった。

「だからね、杉ちゃん。」

由紀子は、畳みかけるようにそういった。由紀子にしても、気持ちを分かってもらいたかった。

「お願いだから、本人に必ず言ってね。結核は昔ほど怖い病気ではないんだから、ちゃんと薬飲んで、いいお医者さんに診てもらえば大丈夫って。」

「病名も何も知らないよ。最近は変な横文字とか記号とかそういうのばっかりで、頭に入らない。どこが悪いかなんて、思いつかないし。それに、お医者さんなんて、みんな頭でっかちの脳みそ抱えて、おごり高ぶってる人ばっかだもん。とても連れていけない、そんなところ。」

なるほど。田舎の病院というものは、そうなってしまうのか。病院口コミサイトで、そういう書き込みを見たことがあった。田舎者だからと言って、患者を馬鹿にしている医者が多いらしい。こっちが話をすれば、逆に叱られた、子供が怖がっているのに、平気で治療を始めてしまうので余計に子供が病院に行かなくなった、などなど、医療機関に不信感を示す書き込みは、田舎の病院ほどよく見られた。

「わかった。じゃあ、あたしが調べてくるから。ちょっと評判の高いところ、探してあげる。」

「そうだねえ、探すのは至難の業だと思うぞ。ここの地元の人だって、どこの病院に行っても文句たらたらだもん。」

「じゃあ、文句言わないところを探すから。それでいいでしょう?放置しっぱなしが一番悪いの。いいところがみつかったら、手紙に書いて送るわ。久留里駅いたときに、送ってもらった小包に、書いてあった住所に送ればいいかしら?」

「好きにしろ。」

杉ちゃんの言葉がやけに重いというか、生々しかった。

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