長い長い帰路

寝虎ツバメ

第1話

長い長い帰路

ひと仕事終え、帰路に着いた。

寝ていてもなぜか腹が減っていることがある様に、仕事の時間より電車で移動する時間の方が長く、疲れる。

仕事道具のギターを抱え、電車に乗る。

座席が空いている。

ありがたく座らせていただく。

電車と揺られている。

穏やかで静かな電車は、なんて気持ちのよいことだろう。

“ガタンゴトン”

電車の音だけが耳に心地よく響く


「着きましたよ」

いつの間にか寝ていたようだ。

爽やかな車掌さんの声で目覚める。

「ありがとうございます」

と言いつつ心に引っかかるものがある。

降りながらその違和感の正体に気づく。

なぜ僕の降りる駅が、四日市とわかったのだろう?


見知らぬ空気が流れる。

動かず止まったままの電車。

いつもより人のいないホーム。

微かに感じる磯の香り。


見知らぬ場所に行くとちょっぴりの不安が来る。

そんな感覚だ


現実を受け入れたくない僕はゆっくりと駅名を見る

『賢島』

賢島…? 賢島ってあの賢島か?

僕の知っている限りでは賢島は一つしかない。

つまりそういうことだろう。

よくドラマで「仕事辞めて海に来た」みたいなそんな展開あるけどそれみたいだな。

一人でボーと考える。

残念ながら明日も仕事という現実に、少し目をそらしたい自分がいるのだろう。


せっかくなら観光で来たかったが、あいにく今はお金も時間もない。

それに観光であるとしても、今日はあいにくの雨だ。


賢島から四日市に戻るまで特急で1時間半


仕方ない帰るか。


シトシトする気持ちで二度目の帰路に着いた。

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