25
「お嬢さん、ひじき残ってますよ」
「……」
「それでなくても少し貧血気味とお医者さんに言われたでしょう?レバーがどうしても食べられないって言われるから他の物にしてるんですけど」
「だってこれも…好きじゃないんだもん」
「…お嬢さんは母親には向いてませんね」
「たっ…食べるわよ食べるわよ。食べればいいんでしょ………あ……美味しい…」
こうして、あたしはひじきを食べれるようになった。
そして…
「わ、これって鯨肉の唐揚げ?昔給食で出たことがあったけど、もう最近ないものね」
そう言いながら、たくさん食べてた物は、レバーの唐揚げだった。
あたしは、料理上手な環のおかげで、好き嫌いがほとんどなくなった。
一番感謝してるのは、つわりの時。
苦しんでると、いつも魔法のように楽にしてくれた。
「こっち向いて横になって下さい」
とか言って、なんだか変わった味のジュースを飲ませてくれてた。
でも、そのおかげで、あたしはすごく楽にここまでこれた。
「もうすぐ予定日だね」
4月。
すでにパンパンになってるお腹を、春休みで毎日遊びに来る舞が触った。
「ほんっと、環さんのおかげよね。織ちゃん一人じゃ絶対無理だもん」
「どうしてよー」
「好き嫌い多いから料理しても栄養偏りすぎって、昔っから陸ちゃんが言ってたじゃない」
「うっ…」
「…ばらしちゃおっかな」
舞のいたずらな目つき。
「何」
「絶対、内緒よ?環さんに言わないでね?」
「うん。何?」
「環さんね、消防署とか文化センターとかでやってる育児セミナーとか、妊婦料理講座とか、欠かさず参加してるみたい」
「え?」
環が?
「ちまたでは有名みたいよ?環さん、かっこいいしさ。ただでさえ目をひくのに妊婦料理講座だもん」
「……」
最初から、知ってるわけじゃなかったんだ…
環って、物知りだな…なんて、感心してたあたしは…
バカだな。
「…舞…」
「ん?」
「…お腹…痛くなってきちゃった…」
「えっ!どっどっど…たっ環さんは…えっ…どうしよっ!」
「んー…あたたたた…」
「だっだっ大丈夫!?織ちゃん!よっ予定日は十日先よっ!?初産は遅れるって…!!」
「…でも、産まれるかも…あたたた…」
「環さんの携帯電話…えっと…えっと…」
舞がうろたえてる。
仕方ないよね。
「環さん!?舞です!織ちゃんが、お腹痛いって!!」
舞の大声を聞きながら。
少しだけ意識が遠くなる気がした。
「織ちゃん!頑張って!環さん、すぐ帰って来るよ!」
舞の言葉に頷くのがやっと。
母さんにも…連絡しなきゃ…
「舞…」
「何?何?」
「…陸に…電話…」
「わかった!」
その間がどれくらいだったのか…
「お嬢さん!」
環が帰ってきて、あたしをひょいっと抱え上げて。
「大丈夫ですよ。ずっと付いてます」
って、優しく言ってくれて。
なんだか、すごく安心してしまった…。
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