15

「どうして髪の毛伸ばしてるの?」


 次の日。

 予告通り、公園でセンと待ち合わせた。

 そして、昨日と同じようにベンチに座って、あたしは、まずこの質問をした。

 あまりすぐには人に馴染めないあたしが…すごい事だわ。



「…似合わない?」


「ううん、すごく似合う。でも、男の人で高校生でそんなに伸ばしてる人って珍しいでしょ?」


「確かにね」


「着物とか似合いそう」


 センを見ながら、頭の中で着流しのセンを想像する。

 …任侠映画みたいに、ちょっと刀なんて持たせたりなんかしちゃって…



「…着てるよ。しょっちゅう」


「しょっちゅう?」


 えっ?

 もしかして…同業者?

 って…うちの者、誰も着物なんて着ないけど。

 …それに偽物だし…



「家がね、茶道の…」


 茶道…


「…もしかしてセンって、いいとこのお坊ちゃん?」


「…お坊ちゃんて言われるのは抵抗あるけど、実際そうだよな」


 そっか…

 着物着て正座して、お茶をたてるのか…

 頭の中に出来上がってた、着流し姿で刀を持ってる姿を書き換える。



「すごい。ただの長髪じゃないとは思ったけど」


「…バンドマンとか思わなかった?」


「思わないよ。だって、品があるもの」


「実はさ…」


「ん?」


「本当の父親がギタリストでね」


「えっ?」


「僕も…弾いてるんだ」


「……」


 口を開けたまま、パチパチ、パチ…と、瞬き。

 ギターを持ってる姿を想像しようと…

 う…うーん…

 やっぱり、着流しのイメージが…あっ、それも違うんだった…



「センが?ギター?」


「ガラじゃないかな…」


 センは、とっても照れくさそう。

 その横顔が、ちょっと可愛いなあ…なんて。



「初めてなんだ…人に打ち明けるの」


「どうして、あたしに?」


「…さあ、どうしてだろ…」


 見つめあってしまって…うつむく。

 どうしよう。

 昨日知り合ったばかりなのに…

 あたし…



「織の髪の毛は地毛?すごくきれいな明るい色だけど…」


 センがあたしの髪の毛に触れて言った。


「う…うん。母がハーフなの」


 ドキドキしてる。


「へえ、じゃあ織はクォーターだ」


「でも、センみたいなストレートならいいのに、天然で猫っ毛で…」


「……」


「セン?」


 センを見上げると、あたしの髪の毛に触れたまま…あたしを見つめてる。


「どうかしてるかな…」


「?」


「昨日知り合ったばかりなのに…織が好きだ」


「……」


 普通なら、こんな告白…ナンパっぽいかもしれない。

 でも、センの言葉や表情は、全然そんな感じさえしない。


 …今まで、こんな気持ちになった事ない。

 光史と目が合っても…ドキドキしなかったし、ときめく事もなかった。

 だけど今…あたし…



「あ、ご…ごめん。い、いつもこんな風に言ってるわけじゃないから」


「…ううん…あたしも、そう…思ってたから…」


「え?」


「あたしも…センが好き…」


 少しだけ、センの肩に額をのせると。


「…ありがとう」


 センは、あたしの頭に唇を落とした。

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