結ばれない物語

小雨

夕暮れの坂道で思い続ける

自転車はひいている時にしかならない特有のカチカチという音を立てて、タイヤの反射板が赤い光を放つ。

僕は自転車の左側で歩き自転車の右側には木村沙也加という子がいる。

彼女は可愛い顔をしていて(特別可愛いとかそういうのじゃないけどとにかく僕の好きな顔。僕の友達から見たら多分そんなに可愛くもない。かといって不細工なわけではない。)身長は僕より小さい。

頭はよくないけど悪くない。

部活は家庭科部。

僕達は同じ高校に通う高校2年生。

2人で並んでる歩いてるってことは君たち読者は気づくと思うけど僕達2人は付き合っている。

まぁその事実もそろそろ怪しいものだけど。

というのも彼女と同じ家庭科部の3年生の人(その人は頭がよく働いて顔もとても綺麗。これは僕の意見ではなく僕の友達の意見)が僕のことを好きらしくて沙也加と僕の中を邪魔しようとしているらしい。(なぜ僕が美人から好かれるかと言うと僕は自分で言うのもなんだけど俗に言うイケメンというものの類いに分類されるから。)

僕は彼女と並んで歩いているけど僕と彼女の顔色は暗い。

僕は沙也加と同じ家庭科部の3年生の僕のことが好きな人に沙也加の悪い噂を聞いたから。

そして彼女は僕の不機嫌な態度にどうしていいか分からず戸惑ってるのだろう。

こうして僕達はお互いに口を開かずに彼女は下を向き歩き僕は自転車をひいて歩く。

「ねぇ沙也加、3年生の人から聞いたんだけど、浮気してるってほんと?」

「え…そ、そんなわけ…」

「じゃあ、あの人が嘘をついているの?

なんでそんなことしなくちゃい」




ありきたりな文章

ありきたりな物語

これはそこら辺にどこにでもいる女子高生が書いた話。

僕は君たち読者に今この情景を見せたけど本当はもう少し前置きというかシーズン1って言えばいいのかな、なんと言えばいいのかわからないけど話がある。

それを簡潔にまとめれば僕は沙也加に恋をした。

僕は沙也加にアタックをするけど沙也加は僕に振り向きもしない。

でも修学旅行で僕と沙也加は共に行動することになる。(これは僕の友達と彼女の友達が仕組んだことね)

そうして彼女は僕にだんだん惹かれていき、ついには彼女から僕に告白をし、僕達は結ばれ、友人にも祝福をされる。

こんな話。平凡な話。

僕は確かに幸せで沙也加も幸せだった。

でも作者というものは残酷で、平凡で平坦な物語を書いてくれはしない。

直ぐに僕と沙也加に試練を与える。

君たちの神様というものもそうでしょ?

神様は君たちにたくさんの試練を与える。

そうして君たちはその試練に四苦八苦して乗り越えていく。

僕達にとって神様はそこら辺にいる女子高生の作者が神様だった。

君たちの神様と違うところは「僕達を見捨ててしまうこと。」

君たちの神様は君たちを見捨てることなく、(不平等ではあるけれど)試練を与えこそするがそのまま捨てられることは無い。

でも僕達は捨てられる。

さっき君たち読者に見せた情景がまさにそれ。

僕は沙也加に疑いをもってしまって僕も沙也加もとても苦しい思いをしている。

本当ならこの苦しさを乗り越えてまた、2人で結ばれたり、もしくは僕と沙也加は別れて二人ともそれぞれ生きていくことになるはず。

でも僕達の神様は僕達を捨ててしまったから僕達は同じ苦しみを永遠に味わい続けなければならない。

そうして、いつか僕達の物語が書かれた紙がゴミとなり捨てられるその時、僕達も一緒に物理的な意味で捨てられて燃やされる。

そうすれば僕達は苦しい思いをしたまま何も思い起こすことなく死んだことすらわからず、生きていたことすらもなかったことになってそして、消えていく。

結ばれない物語だからしょうがない。

僕と沙也加は結ばれない。

この物語が結ばれることもない。



僕は自転車の反対側にいる沙也加を鋭い目で睨みつけて彼女は目尻に涙を溜めて僕を見つめる。

そのまま僕達はとまったまま動かない。

ただ、各それぞれが心の中で思うことを思い続けることしか出来ない。

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結ばれない物語 小雨 @rutsu_rain

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