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「なんや、おまえ…いっそ変わってへんやん」
そう言って…照れくさそうに髪の毛をかきあげたのは…
…あの人。
ずっと、『あの人』と…心の中でも呼び続けていた…
………晋ちゃん。
「…失礼ね。…し…晋ちゃんこそ、相変わらず落ち着いてないのね」
ドキドキしながら…『晋ちゃん』と口にした。
今日は…丹野さんの、追悼セレモニー。
来る気はなかったけど…
千寿に無理矢理、政則さんに強引に、宝智にひっぱられて…やって来た。
そこで、あたしは…『あの頃』のみんなに出会えた。
丹野さんが、遺作として残していたプロモーションビデオ。
あの頃のあたし達が、笑ってた。
ずっと『おまえ』って呼ばれていたのに。
映像の中で初めて…
丹野さんは、あたしに『涼』って呼びかけてくれた。
懐かしい笑顔に出会えた途端。
あたしは…泣いてしまった。
今までかたくなになっていた心が溶かされていくかのように。
あたしの気持ちは柔らかくなって。
政則さんの計らいもあって、こうやって…晋ちゃんと話している。
「ええ旦那やん」
「うん」
「安心した」
「…え?」
「おまえが、ずっと罪を背負うて生きてたら…なんて」
「……」
「でも、あの旦那なら、安心やな」
「…ありがと」
パーティ会場には、先輩も、宇野さんも…懐かしい顔がいっぱい。
「千寿が二年もお世話になったのに、お礼もしなくてごめんね」
「俺の息子やん。礼なんてええって」
「でも」
「なんて、俺が親父を名乗るのはあつかましいか?」
「そんなこと…」
「ま、ええやん。俺は俺で千寿といるのは楽しいし」
「…ね」
「ん?」
「どうして、千寿のこと知ったの?」
ずっと、千寿に聞きたくて聞けなかった事。
すると、晋ちゃんは髪の毛をかきあげながら。
「誠司が、教えてくれた」
って…
「宇野さんが?」
「ああ。せやから、みーんな知ってたで?」
「……」
「誰も、おまえを責めたりなんか、せぇへんかった」
「……」
「廉のことがあって、落ち込んどる時やったな…千寿から手紙が来たの」
「あ…」
「あれで、俺はここまでこれたんや」
「……」
「俺の子とは思えへんほど、ええ子やん。驚いたわ」
晋ちゃんは…
…昔、何度も見つめ合った…あの瞳のままで。
あたしを見る。
だけど…
「やっと、楽んなれるな。俺も…おまえも」
晋ちゃんが、笑顔で言った。
昔のままの…あたしの大好きな笑顔で。
未練なんてない。
恋心もない。
あたしは今…政則さんの妻で、大切なあの人と一緒にいる事が幸せだ。
だけど…理由のつかない泣きたくなる気持ちが湧いている。
それを押し込めて…小さくつぶやいた。
「そうだね…」
晋ちゃんは、あの頃のように…あたしの頭をグリグリすると。
「これで、俺も肩の荷がおりた。そろそろ結婚でもしよかな」
なんて…笑ったのよ…。
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