いつか出逢ったあなた 3rd

ヒカリ

01

 ゴンッ。


「あたっ…」


 突然、目の前が真っ暗になった。

 星が飛んだような気もしたけど…


「おっ…大丈…………あかん。白目むいとる」


 最後に聞こえたのは、関西弁……?



 * * *


「………」


 目を開けると、そこは保健室だった。

 窓の外からは、歓声と悲鳴。

 今日は日野原ひのはら学園に入学して、初めてのイベント『球技大会』なんだけど。

 あたしはチームプレーが得意じゃないから、抜け出そうとして………あー、何かに…ぶつかった…?



 寝転んだまま少し頭上に目をやると、五月の陽射し。

 何だ。

 まだお昼ぐらいか。



「――………」


 左方向に寝返りをうとうとして、目が釘付けになった。

 男の人が、先生の椅子に座ってギターを磨いてる。



「あ、気ぃついたか」


 関西弁。


「……はあ」


 目を合わせたまま、ゆっくり体を起こして。


「…何してるんですか?」


 問いかける。


「ああ、弦張り替えてたんや」


 すごい笑顔。


「よし、終わり…と。さて、悪かったな」


 その人はギターをポンと叩くと、あたしに向き直って頭を下げた。


「え?」


「俺が体育館のドア開けてん」


「は?」


 あたしが「?」って顔してると、その人はあたしに近付いて。


「ここ、傷付けてもうた」


 って、あたしの額に触れた。


 ああ、そっか。

 あたし、体育館の裏を走ってて、突然開いたドアに激突したんだ。


 ベッドを下りて、鏡で額を見てみると…大きなバンソーコー。

 それをゆっくり剥がすと、少しの擦り傷と小さなたんこぶ。



「先輩、なんて名前?」


 鏡を見たまま問いかける。


「よう先輩やって分かったなあ」


「こんな日に制服で保健室でギターの弦張り替えるような勇気、一年生にはないと思うの」


「なるほど。俺は、浅井 晋あさい しん


「浅井先輩ね。関西の人?」


「ああ。去年引っ越してきた」


 先輩の視線は、ギター。


「ね、先輩」


 あたしが先輩に近付いて顔をのぞきこむと。


「あ」


 先輩が、あたしの前髪をかきあげた。


「えっ?」


 ドキッとした。


「傷、結構目立つやん」


 …そうなの?

 ……そうかも。



「…そうでしょ?先輩、責任取って」


 あたし、とんでもない事口にしてた。


「は?」


 先輩は呆れた顔。


「先輩、彼女いる?」


「いや、今は」


「じゃ、責任取ってあたしの彼氏になって」


「……」


「だって、もしかしたら今から彼氏ができるかもしれないのに、この傷のせいでできないかもしれない」


 かなり強引なあたしの言い分。

 正直言って、あたしは恋に落ちた。

 この先輩に、一目惚れ。



「本当の彼氏ができるまででいいの。責任取って、あたしに楽しい学園ライフを提供してくれなきゃ」


「おいおい、おかしゅうないか?たかだか…」


「たかだか?人を傷物にしといて?」


「うっ…」


 半ば脅迫。

 でも引かない。

 だって、あたしには…今しかないんだもん。



「変な女」


 そんなあたしを先輩はじっと見て。


「じゃ、フルネームを伺いましょ。早乙女さん」


 あたしの体操服のネームを指差した。



「涼。早乙女 涼さおとめ りょう


「早乙女 涼…な」



 そう。

 早乙女 涼、15歳。


 これからバラ色の学園生活が待っている。




 かもしれない。

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