Blazing Blade

ダイキンルームエアコン

昔の話



 ――雷が鳴り響く、とある雨の日の事。


 少年は路上の隅で、ボロ布を被ってうずくまっていた。それはいつもの事だった。

当然そんな布一枚で、雨風を凌げる筈も無い。身体の熱は徐々に失われていく。無論建物の陰に隠れれば濡れずには済む。だが、彼はそうしない。そんな事はどうでもよかった。



 少年を養ってくれる親はいない。<無能>のレッテルを貼られた彼は、幼くして家から捨てられてしまった。辛うじて持つ事を許されたサックに入っていたのは、小振りのナイフと、僅かな銀貨だけ。


(雨の音を聞いてると、嫌な気分が紛れる――)


雨に直に打たれる事で、その音をより間近に聞く。ただ、それだけのためだった。



 暫くして、少年の前を一人の男が通りがかった。いや、少年の

雨除け一つ講じぬその男は、少し身を屈めて少年をしげしげと眺める。


「…なんだよ、何か用でもあるのか」


 歳相応の、けれども覇気の無い声。少年は男を怪訝そうな目を向けている。


「風邪ひくぞ、ガキンチョ」


 男の第一声は…それだった。彼の目は少年を蔑視しているわけでもなければ、憐れむようでもない。それこそ『道端で珍しいものを見つけた』ような目である。


「勝手だろ。第一、そっちこそずぶ濡れじゃないか」

「ハ! 俺はいい男だから、水が滴った所でなんて事はないのさ」


 よく分からない事をのたまい、男が笑う。それは少年が失っている表情だった。


「しっかし、ホント辛気臭ぇツラしてんな」


 言いつつ、男は鼻孔のクソをほじり出した。

 いい男というのは人前でハナクソを掻き出すような者だろうか。


「ほっとけよ」


 自分を小馬鹿にしているような様子に少年は鬱陶しげに、そう返す。

 それでも、男はその場を離れようとはしない。その目は、少年を見据えたままだ。


「なぁ、ガキンチョ」

「そんな名前じゃない」

「――いいから聞け」


 急に男の目つきが変わった。猛禽類を思わせる、鋭い眼光。心得として知らずとも、本能がそれを教える――それは戦士の目だ。

 様変わりした彼の雰囲気に気付き、少年は静かに息を呑む。


「世間から見放されて、ただそこで腐ってるのもそれはお前の勝手だ」


 重みのある声。口調にはさしたる変化はない筈だというのに、少年にはまるで別人のように聞こえた。


「だがな、お前はそれでいいのか? 負け犬のまま終わるのか?

 悔しいとは思わなかったのか? お前は本当に<無能>なのか?」

「…ッ!」


 畳み掛けるように紡ぎ出される、男の問い。少年は喉が詰まったかのように、何も言い返す事ができない。それでも、男は遠慮無く次の言葉を繰り出した。


「てめえ一人の力で何ができるか…知りたかァねえか?」



 それが決定打だった。少年は腹の奥底から声を絞り出し、吐き出すように答えた。


「…知りたい。俺が、何ができるのかが…」

「なら、ついて来な。答えは見つけてやれねーが、手伝いぐらいはしてやる」






 それから、7年の月日が流れ――

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