ただ俺は正義の騎士になりたかった

神蔵悠介

第1話 ただ俺は火の粉を振り払う

 火の落ち掛けた森の中を走り抜ける。

 背後を確認すると、10人程だろうか、武装をしている者が背後を走っている。

 今なら撒けると思い、木々の間に隠れ様子を伺う。


「何処行きやがった!!」

「探せ!! まだ、この辺りに居る筈だ!!」

「おう!!」


 1人の男が言う。多分だが、あの集団のリーダーだろう。

 思いつつ様子を伺っていると、近くに人の気配を感じ、気配のする方へ警戒すると、


「……」

「……お前かよ」

「ニャハハハ、私から逃げようだなんて、10年早いヨ?」


 警戒を解いて木の陰から現れ、チャイナ服を着た女性、白夢はくむが笑いながら話す。

 この女は半獣人ビースターで有り、世界で最も情報を持っている情報屋。

 耳をピコピコ動かし、尻尾を左右に振りながらこちらを見ている。


「んだよ?」

「んー? 相変わらず、人気もんだねぇ……と」

「これの何処が人気なんだ? アァ――」

「――誰だッ!! そこに居るのは!!」

 

 白夢はくむとの会話で、周りへの警戒が薄れてしまい、相手が近づいてくる前に逃げる事が出来なかった。

 俺は白夢を睨むと、白夢はローブを直ぐに羽織ってから、親指を立てる。


「そういう事じゃねぇから……! とりあえず、逃げるぞ!!」

「あ、ちょッ!!」


 咄嗟とっさ白夢はくむの手を掴み、その場を急いで離れようとした。


「見つけたぞ!! 邪神じゃしんだ!!」

「あー!! 面倒だな!!」


 しかし、一足遅く発見され、仲間を呼ばれる。

 森を白夢はくむと走り抜けるが、突如木々の間から2本の剣を構えた男が現れた。

 

「貰ったぜッ!!」


 掛け声と共に2本の剣を振り下ろした。


「レイスッ!!」


 白夢はくむが俺の名を呼んでいる、が、


「な、何!?」

「……」


 俺は左腕のガントレットで受け切る。

 男はまさかの出来事に驚愕しているのだろう、目を見開きながらこちらを見つめていた。


「ど、何処から! ええい!! このまま押し切ってくれるッ!!」

「……」


 2m以上の身長を生かし、剣に圧力を感じる。

 だが、俺はその場から一切動くことは無い。


「な、何故だッ!! 何故動かん!!」

「そりゃあ……」

「お頭ッ!!」


 丁度良いタイミングで現れてくれたな、じゃあ……!

 俺は腕を軽く振るうと、剣が弾かれて態勢を崩しながら後退する。

 後退して態勢の崩れている所に俺は白夢はくむの手を放し、相手の懐に入り、


「腰が入ってねぇから、だッ!」


 お頭と呼ばれる男の腹部に一撃入れた。

 男は体をくの字に曲げながら飛んで行き、木に激突後、そのまま倒れる。

 その瞬間背後に居る部下達であろう者共が怯え、声を漏らす。

 俺は背後にいる男の部下の方へ振り返る。


「さぁて……次はどいつだぁ??」

「う、噂は本当なのか……!?」


 恐怖に怯えた表情を顔に浮かべながら俺に問う部下。

 うわさ……? 何だ? 噂って?

 思っていると、


「聖騎士30人と聖騎士長5人を相手にして、全滅……! そして、その者達の臓物を食べた、と言う!!」

「え?」

「プフゥッ!!」


 余りにもあり得ない話に思わず、口から零れた。

 え、何そのヤバい奴……俺、そんな光景見ただけで吐く自信あるぞ?

 そして、このバカ猫は笑ってるし……とりあえず、勝手な噂で俺の事ビビってるなら、ラッキーだな。


「あぁ、そうだぜ?? あぁ……!! 美味かったなぁ!! アイツらの臓物は!! そうだなぁ……あのデカ物は俺の趣味じゃない……!! お前ら……丁度いいな……!!」

「ヒッ……!」

「ケケケッ!! はらわた引き吊り出してやるぜぇえええええええええッ!!!!」

「ヒャアアアアアアアアアッ!!!!」

「にげ、逃げろォオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないッ!!!!」


 部下達はお頭を置いて蜘蛛の子散らす様にその場を離れて行った。

 思いつくまま言っただけで……まさか、ここまで効果があるとは……。

 正直ここまで効果が有ると、誰が言ったんだろうか。

 てか、また変な噂が流れてるな……最悪だ。


「はぁ……」


 ため息を付くと、未だに笑って居るバカ猫がいる。


「フフフ……ッ!」

「……じゃあな、バカ猫」

「あッ!! レイ――」


 一言言ってから俺は高く跳躍して、その場から離れた。

 何か言おうとしていたが、この際どうでも良い。

 そうそう、言い忘れていたことがある。

 北西にある大国、ミナヅチを震撼させた事件が有り、その事件はこの国の治安維持をしている聖騎士の支部1つが壊滅した。


 そして壊滅させた者は全世界に手配書が配られた。

 その者は、


「邪神……レイス・オブ・ハーデス……」


 俺だ。





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