杯
勝利だギューちゃん
第1話
俺の親父は、かなりの酒豪だ。
毎日、酔っぱらって帰ってくる。
ただの付き合いだけなら、こんなに飲まないだろう。
心底好きなんだな。
母はその介抱に大変だった。
俺はそれを、子供の頃から見ていた。
そして決めた。
「大人になっても、酒は飲まない」と・・・
そして、月日は流れて、俺は社会人となった。
子供の頃の誓いを守り、お酒は口にしていない。
大学時代も、勧められても断り続けた。
周りは楽しそうに飲んでいたが、信じられない。
ちなみに煙草も吸わないので、付き合える人間は限られる。
俺は、その少数派とウーロン茶やジュースで騒いでいた。
殆ど小学生レベルだが、楽しかった。
それは、サラリーマンとなった今でも、変わらない。
サラリーマンに限らず、社会人になれば、嫌でも酒を飲まされる・・・
そう覚悟していたが、物分かりのいい人で、
「無理して飲まなくていい」と、言ってくれている。
おかげで酒の面では、助かっている。
社会人になってから、数年後、俺は結婚することとなる。
相手は、高校時代の同級生。
当時は付き合いがまるでなかったが、同窓会で意気投合し。
トントン拍子に話が進み、結婚となった。
妻となる人も、酒が飲めないので、安心している。
そして、式の前日。
俺は友達とささやかな前夜祭をした。
リアル「のび太の結婚前夜」だ。
もちろん、酒ではなかぅたが・・・
帰宅後、居間でくつろいでいると、父が入ってきた。
「いよいよ明日だな。最後に付き合え」
そういって、缶ビールを持ってきた。
既にプルタブは開けられている。
「実はな、父さんが母さんと結婚したのも、お前と同じだ」
「えっ初耳だぞ、親父。お見合いじゃなかったのか?」
「いや、違う。それは嘘だ」
初めて知った。
「俺も昔は、お前と同じで全くの下戸だった。」
「うそだろ?あんなに美味しそうにのんでるじゃないか?」
「だがな、上司に無理やり飲まされて、いつしか、それが当たり前になった」
「体は大丈夫なのか?」
「ああ、今のところは問題ない」
「親父・・・」
親父は缶ビールを口にした。
「しかし、あんなに小さかったお前も、明日結婚か・・・早いな」
「親父?」
「奥さんもそうだが、友達も大切にしろ、そして」
「そして?」
「孫の顔を、早く見せてくれ」
そして、缶ビールを重ねて、乾杯をする。
俺は覚悟をして、口に含んだ。
中身は・・・
親父はわかっていてくれた。
親父と初めて交わした杯だった。
これからも、機会が増えてくるだろう。
杯 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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