第14話 シュラウド家(2)

            By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)

 

 サブリナに振られて、ラリィが後の説明を継いだ。

 「 わかった。

   その誘拐犯なんだけれど、実にでかい奴らでね。

   全員が多分1.8レルレーベ以上はあった。

   胴回りも大きくてね、巨漢と言うのがあたっていると思う。

   一応、身なりはそれなりに整えていたけれど、・・・。

   上腕筋なんかリナの腰周りぐらいありそうな奴だった。

   その中の一人が僕たちに話しかけてきたんだ。

   名指しでね。

   ラリィ・シュラウド様にサブリナ・シュラウド様ですねってさ。

   最初の口調は実に丁寧だったよ。

   で、要は、話があるから一緒に来てくれと言うんだが、相手は名前も名乗らな

  かったよ。

   用があるならここで話しなさいと言ったら、他人がいるところでは話せないと

  言うんだ。

   で、僕は友人をおいて行く訳には行かないから断るといったんだ。

   その途端豹変して、おとなしくついて来れば怪我もせずに済んだのに、力づく

  でも来て貰うと言って傍にいたリナにナイフを突きつけようとしたんだ。

   こんなにでかいサバイバルナイフだよ。

   しかも4人が持っていた。」


 ラリィは手で大きさを多少誇張しながら表現していた。


 「 で、その瞬間に、前に座っていたロビーが動いたんだ。

   あんまり素早いんで、実のところよくはわからないのだけれど、ロビーの話で

  はナイフを持った腕を手刀で叩いたんだって、僕が見えたのはその巨漢の腕が、

  変な風に折れ曲がったのがみえただけ。

   骨折したらしいんだけれど、本人が『ぎゃぁっ』と叫ぶまでちょっと時間があ

  ったよ。

   それから、ロビーが三人に向き直って、おとなしく帰らなければ痛い目を見る

  よって警告したんだけれど、三人にその気はなく、向かってきた。

   ロビーがそのうちの一人を背負い投げだったかな、何かよくわからないうち

  に、でかい奴の身体が宙を舞ってね。

   背中から床に叩きつけられていた。

   凄いスピードで叩きつけられていたからねぇ、その男はグゥの音も出ずに伸び

  ちゃった。

   それが起きている間に、今度はソファーに座っていたはずのアミーが宙を飛ん

  だんだ。

   僕にはアミーの白い衣装がチラッと舞ったように思えたんだけれど、そのとき

  にはもうアミーが男の後頭部を蹴飛ばしていた。

   その男は何も言わずに倒れてやっぱり伸びちゃった。

   で、その男が床に倒れるまでの僅かの間に、ロビーが最後に残った男の腕を捕

  まえて捻ったら、太い男の肘の関節がゴキッと見事に外れてた。

   ロビーが警告していたとき意外はほんの一瞬の出来事だった。

   気が付いたら、二人の巨漢がナイフを放り出してのた打ち回っているし、他の

  二人は完全に伸びていた。

   で、それを横目に、いとも落ち着いた声でロビーが、ウェイトレスに保安要員

  を呼んで頂戴って言ってるの。

   まるでちょっと水を持ってきてくれると頼んでいるみたいだった。

   多分、ウェイトレスは何が起きているのかよくわからなかったと思う。

   それでも2分も経たないうちに、保安要員が駆けつけてきて簡単に事情を聞い

  た後で、四人を担架に乗せて運んで行った。

   呆れたことに、ロビーもアミーも、何事も無かったようにソファーに座るんだ

  から。

   リナと一緒に本当に驚いたよ。

   因みに四人が僕らの誘拐を企んでいたということがわかったのは翌日のこと。

   保安要員が追求した結果、本人たちが自白したらしい。

   それによると、どうも僕らを船内で拉致して貨物に押し込み、次の日到着する

  エルカズで降ろした後、身代金を要求するつもりだったらしい。

   無論、顔を見られているから生きて返すつもりは無かったようで、保安要員か

  らは命拾いをしましたねって言われた。

   と言うわけで、ロビーとアミーは僕らの命の恩人。

   二人が居なかったら、今頃は、・・・少なくともここには居ないと思う。」


 ジェイコブがロバートとアマンダに尋ねた。


 「 ロバートとアマンダは、何か武術をやっているのかな?」


 「 ええ、多少は・・・。」


 「 腕の骨を叩き折ったり、足蹴りの一撃で大の男を倒すのは多少とは言わないの

  じゃないかな。

   少なくとも達人の域に達しているはずだが、・・・。

   まぁ、そんな詮索をしても始まらないな。

   むしろ、私としては君たちの口座にあるという大金の入手方法の方が気になる

  が。

   そんなことを聞くのは息子や娘の命の恩人に対して失礼と言うものだろう。

   ただ、一つだけ父親として聞いておきたいので、できれば答えて欲しい。

   これは、アイリーンも確認したいことだと思うのだが・・・・。

   ロバートは、サブリナのことをどう思っているのかな?

   そうして、アマンダはラリィのことをどう思っているのかな?」


 ロバートとアマンダは問われて顔を見合わせて苦笑した。


 「 では、私からお答えしましょう。

   リナ、いいえ、サブリナは明るく可愛いお嬢さんだと思っています。

   今のところは私の大事な友人の一人です。

   もう一つ余分なことをお答えするとしたら、私には今のところ将来を約束した

  女性はおりません。」


 「 私も兄と同じ答えです。」


少し驚いた表情を見せながらジェイコブが言う。


 「 なるほど、・・・。

   要点を突いた答えだね。

   君たち二人が知性と優れた容貌とそれに並外れた武術をもった若者だと言うこ

  とは十分にわかった。

   だが、そうした二人であれば、幾らでも縁談話などあっただろうに・・。」


 「 多分、息子さんやお嬢さんと同じではないでしょうか。

   単に気に入らなかったんです。」


 「 と言うことは、見合いぐらいはしたのかな。」


 「 いいえ、見合いはしたことはありません。」


 「 では、なぜ、・・・。

   人に薦められる縁談が気に食わないからかな。」


 「 いいえ、そうではありません。

   ですが、・・・。

   ちょっと説明はしにくいことですので、ご勘弁願います。」


 「 失礼なことを聞いて悪いが、ラリィやサブリナの馬鹿な親と思って勘弁して欲

  しい。

   君たちはモノセクシュアルや近親婚に興味があるわけではないだろうね。」


 「 随分と直接的な質問ですね。

   でも親としての心配ならわかります。

   私は健康な男性であり、異性に興味はありますが、妹や姉あるいは母に対して

  セクシュアルな興味は抱きません。

   因みに私は童貞であり、アマンダは処女ですよ。

   ですから性病の心配も今のところはありません。」


 「 いや、失礼した。

   君と話していると随分と先回りした答えが返ってくる。

   では失礼ついでにもう一つ聞こう。」


 「 あなた、幾らなんでも失礼過ぎます。

   初めて会った方に何と言うことを。

   貴方のことが元でラリィやサブリナが失恋したら責任が取れますか。」


 「 取れないだろうな。

   だが、わしは、この二人の若者が気に入ったんだ。

   だから、できればラリィとサブリナの伴侶となって欲しいと思う。

   それだからこそ、今のうちに不安の芽は摘み取っておきたい。

   ロバート、君はこの邸に暫く逗留すると聞いている。

   で、仮に、あくまで仮にだが、今夜サブリナが君の寝室に忍んで言って抱いて

  欲しいと言ったら、君はどうするね。」


 「 丁重にお断りします。」


 「 何故かね。

   娘はそれほど魅力のない女かね。」


 「 いいえ、リナは魅力的な女性ですよ。

   多分、男ならば誰でも抱きたいとは思うでしょう。

   ですが、私は結婚を前提としないで女性を抱きたくはありません。

   私たちは初めて会ってからまだ三日しかたっておりません。

   その短い時間の中で生涯の伴侶を決めるのは無謀というものです。

   確かに私と同年代の者には無軌道にセックスを楽しむ者も居るとは思います

  が、セックスをするならば責任を取ることを前提にしなければなりません。

   女性であればセックスの相手の子を産むことを、男性であればその女性を伴侶

  とし、生まれるかもしれない子供を養う覚悟を前提にするべきでしょう。

   親の扶養に頼って自活できない男が妻を迎えるのはおかしいでしょうし、子を

  育てることもできない女が妻となることもおかしいでしょう。

   男女の愛にはいろいろな形があると思いますし、私は他人の考えを否定するつ

  もりはありませんが、少なくとも妻となるべき人を選ぶならば、僕が信ずる価値

  観を少なくとも容認してくれる女性を選びたいと思います。

   人は千差万別ですから自分と全く同じ価値観を持つ女性を見出すことは不可能

  だと思いますし、単なる迎合であっても困ります。

   女性であっても自分なりの人生観を持ち、僕と共存できる価値観をお持ちの女

  性を選びたいと思っています。

   大変失礼な言い方をすれば、リナはまだ色に染まっていない無垢な心の持ち主

  では無いかと思います。

   おそらくは人生観もまだ定まっていないと思います。

   今のリナが私に抱かれることを望むとしたなら、単なる憧れから派生する願望

  にしか過ぎないのです。

   ラリィと話したときに犬猫の発情期を例えに出しました。

   リナを犬猫に例えるのはいかにも失礼ですが、適齢期にある女性が好ましい男

  性を求めるのは自然な人間の摂理です。

   犬猫ならその感情に従っていいのですが、人間は少し違うのではないでしょう

  か?

   オスがメスを追いかけるだけの結婚はしたくありません。

   リナが僕に好意を持ち、僕も好意を抱き、二人が互いに理解しあえる時間を共

  有して初めて恋愛感情にも至ると思います。

   僕がラリィに言ったのは時に任せるという表現でした。

   無為に過ごせば時を隔てても何もならないでしょう。

   ですが、有意義に時を過ごして行けば、リナが僕の伴侶として相応しいのか、

  あるいは僕がリナの伴侶として相応しいのかどうかが互いにわかります。

   双方が相応しいと納得している時点ならば、僕も彼女の求めに応じるでしょ

  う。

   ですから、今夜リナに求められてもお断りすると思います。」

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