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「小島真由子さん」
柳田先生は真由子の名前を初めて呼んだ。
「はい」
「僕はあなたとお付き合いをすることはできません」それから柳田先生ははっきりと真由子に向かってそういった。
「それは私が柳田先生の生徒だからですか?」真由子は質問する。
「違います」
「では、私が子供だから、ですか?」
「違います」
「……では、どうしてですか?」
真由子は言う。
真由子はいつの間にか、泣いていた。
多分、私はこうして柳田先生に振られるのだろうと、真由子は心のどこかで告白をする前から思っていた。だから、覚悟はしていたつもりだった。
先生には涙を見せないって。
ちゃんと笑顔でさよならをするんだって、そう決めていたのに……。
「僕にはほかに好きな人がいるんです」
柳田先生は言う。
「え?」
その言葉に真由子は本当に驚いた。
「その人と、僕は将来を誓い合った仲で、近いうちに結婚をするつもりです」
そうなんだ、と真由子は思った。
真由子は柳田先生に好きな人がいることや、その人とお付き合いをしていることや、近い将来に結婚することなど、なに一つ、知らなかった。
真由子は柳田先生のことをなにも知らないのだ。
柳田先生が真由子のことを、なにも知らないように。
「だから小島さんとお付き合いをすることは僕にはできません。ごめんなさい」と柳田先生は言った。
「……わかりました」真由子は言った。
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