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 今年の夏の八月。

 例年よりもずっと暑かった夏休みのある日。

 平結衣が(日向明里と同じように)小瀬蓬に出会ったのは、本当に偶然だった。

「ちょっときて」

「え?」

 結衣はぼんやりと歩いていた蓬の手を取るとそのまま街の中を早足で歩き始める。

「あの、なに? ナンパ?」

「違うわよ。でも、ちょっとだけ私に付き合って」

 結衣はそう言って蓬と一緒に街の中を進み、やがて角を曲がって、それから「あそこでいいかな?」と言って、近くにあったビルの三階にあるファミリーレストランまで移動した。

 二人はそのお店の一番奥の席に座ると、それから結衣はやってきたウェイトレスさんに「アイスコーヒー一つ」と言ってから、「あなたは?」と蓬にそう問いかけた。

「えっと、じゃあアイスコーヒーをもう一つお願いします」

「はい。かしこまりました」

 蓬の注文を受けたウェイトレスさんはテーブルから離れてキッチンの中に移動した。

「ふー」

 そう言って結衣は深くかぶっていた帽子をとって自分の顔を蓬に見せた。

「急にごめんね。でも、どうしても急ぎの用があってさ」

 そう言って結衣は、悪びれることもなく、にっこりと蓬に笑いかける。

「その、ようってのは、いったいなんなの?」

 蓬は無表情のまま結衣に問いかける。

「あら? わからない?」

 結衣はにこにことしながらテーブルの上に両手をついて、その手の上に顔を乗せるようにして、蓬の顔をじっと見つめる。

 蓬はそんな結衣の顔に注目した。

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