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「初めまして。僕は蓬って言います。小瀬蓬です」

 ……小瀬、蓬くん。

 明里はその名前をしっかりと、絶対に忘れないように頭の奥のほうに記憶する。そのずっと知りたかった彼の名前は、初めて聞く名前のはずなのに、なんだか明里は以前から、それはもう本当にずっと前から、その名前を知っていたようなそんな不思議な気持ちになった。

「初めまして。私は日向明里って言います」

 明里は頭を下げて自己紹介をする。

「日向、……明里さん」

「はい。日向明里です」

 にっこりと笑って明里は言う。

 その明里の笑顔を見て、蓬もにっこりと笑った。

 その笑顔に、なんだか明里は見とれてしまって、また頭がくらくらとしてしまった。

 蓬はそっと横を向いて、今度は小さな池の水面に目を向けた。

 明里もなんとなくそちらを見る。

 水面は暗く、また波のような動きもなく、鏡のようであり、でも、そこは真っ暗なだけで、なにも写りこんではいなかった。

「この橋の伝説。日向さんは知っていますか?」と蓬は言った。

「伝説って、恋人同士でくると願いが叶うとか、……誰かを探している人がこの橋にやってくると、その人と出会えるとか、……そういうやつですよね?」少し照れながら明里は言う。

「そういう噂もあるけど、僕が言っているのは、もっと昔の話です。それらの噂の元になった、この地に伝わる本当の伝説のお話」

「……伝説のお話」

 明里は蓬の言葉を繰り返す。

 それから蓬は明里に、この赤い橋の伝説の話をしてくれた。

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