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「ごめんなさい、山里さん。私、勘違いをしていたみたいです」と小春は言った。

「いいよ、別に。確かに私と優は、たまに恋人同士だって間違われることが、あるからさ」椛は言う。

「でも、安心して。優に高松さんっていう素敵な恋人ができた以上、もう今までみたいに、必要以上に優に優しくしたりはしないからさ」

「そんなこと……」

 そう言いかけた小春の言葉を遮って、椛はベンチから立ち上がった。

「じゃあ、話ってこれで終わり?」

「えっと、そうです。本当にすみませんでした」頭を下げて小春は言う。

「だから謝らなくていいってば」椛は言う。

「……えっと、それで実は私、今日はこのあとちょっと用事があってさ、まあ、そういうことだから、話が終わったんなら、もう私、いくね」

「はい」小春は言う。

「じゃあ、そういうことで。またね。高松さん」

「はい。また。山里さん」

 ベンチから立ち上がって、小春は椛にさよならをする。

 それから椛が公園からいなくなって、一人になった小春は、ベンチに座り直して考える。


 一週間前のあの日、小春は優と一緒にいる椛の姿を見て、二人が付き合っていると勘違いをして、この公園のベンチのあるところまで、一人で、恵を図書館において逃げ出してきてしまった。

 でも、小春がそれくらいにショックを受けたのには、理由があった。

 それは椛の顔だった。

 椛は「私は優とは付き合っていないよ。ただの友達」と言っていたけど、あのとき、優の隣でとても楽しそうに笑っていた椛の顔は、どう見ても、優に恋をしている顔だった。

 鈍感な小春でも、それくらいはちゃんとわかった。

 だから、小春はさっき椛から彼氏の歩の写真を見せられたとき、すごく混乱してしまった。

 椛にはちゃんとした恋人がいる。

 でも、じゃあどうしてあのとき、椛は優に恋をしている顔をしていたのだろう?

 それはただの私の勘違いなのだろうか?


 小春は思う。

 優のこと。

 それから、椛のことを。

 椛はなにも小春には言ってくれない。

 たぶん、一生、言ってくれないのだと、小春はもう見えなくなった椛の走っていく後ろ姿を思い出しながら、そう思った。


 椛 終わり

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