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「そう。だけど、それがすごく難しい」三田さんは言う。
それは確かにその通りだ、と葵は思った。
二人は大学の中の小道を歩き始めた。その道は、通称、哲学の道と呼ばれる道だった。
「三田さんと木野さんはずっと昔からの友達なんですよね?」葵は言う。
「うん。木野とは中学からの友達だよ。中高とも男子校。まあ、すごく楽しかったけど、恋愛には、無頓着だったね」葵を見て、三田さんは言う。
「三田さんも、木野さんもすごくかっこいいのに、もったいないですね」葵は言う。
「そんなことを言ってくれるのは、立花さんだけだよ」三田さんは笑って言う。
「……水川さんは、大学院からの知り合いなんですか?」葵は言う。
「杏? いや、杏とは大学で知り合ったんだよ。大学のサークル。木野は嫌がっていたんだけど、僕が連れて行ったんだ。そこで初めて杏に出会った。それからの仲だよ」と三田さんは言う。
「そこで杏は木野に会って、あいつに一目惚れしたんだ」
「え?」
葵は三田さんを見る。
「そのことが聞きたかったんでしょ?」三田さんは言う。
葵はなにも言わない。その沈黙は、つまり正解だということだった。
「立花さんには悪いことしたなって思っているだよ」三田さんは言う。
「悪いこと? 三田さんが私にですか?」
「そう。だって木野にこんな素敵な年下の恋人がいるなんて、まったく知らなかったからさ。木野に少しでも元気になってもらいたくて、いろんなところに木野を引っ張り出してたんだよ。僕はね。その過程で、木野は杏と出会った。……そして、杏は木野のことが好きになった」
二人は哲学の道を抜ける。
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