115

 二人が付き合い始めたことはすぐに南高で噂になった。

 二人は朝一緒に通学してきたし、休憩時間には、二人は一緒にいたし、お昼には「鈴。飯食おうぜ」と言って律がやってきて、その誘いに「うん」と言って鈴は乗ったし、なによりも二人が周囲の問いかけに自分たちの関係を隠さなかったからだった。

 その日、鈴は朝から桜と一言も口を聞いていなかった。

 二人は戦争状態にあった。

 あれから、家に帰って桜の思いと行動に感謝をして、わんわんと泣いていた鈴だけど、一晩ぐっすりと寝て、朝、改めて桜の行動を考えてみるとなんだか無性に腹が立ってきたのだ。

 そりゃ、いろいろと悪いところが私にあったことは認める。

 私は自分の思いを隠して、律を桜に譲ろうとした。でもそれは桜が恋の告白を律にしていない、あるいはできないと思っていたからで、まあ、それは桜の恋の爆発力を私が見誤っていたからなのだけど、それはともかくとして、そのことを桜は私にずっと、二年間も隠し続けていた。

 律の返事に私への内容が含まれていたとはいえ、そのことを、たとえば律の思いを私に隠してでもいいから、律に告白をしたことを桜が前もって私に言ってくれれば、二人でもっと冷静に話し合いをして、律と私たち二人の関係を、(それが、たとえば鈴と律ではなくて、桜と律が付き合うという結果になったとしても)もっとうまく前に進ませることができたのではないかと思うようになったのだ。

 ううん。それだけではない。

 なんだか今回の一件は、私が桜にいいように操られていたような、そんな気がして、それもなんだか気に入らなかった。律に恋の告白を綴った手紙を書いた、だけど怖くて手紙が渡せないから代わりに渡してきてほしい、なんて嘘を言わずに、もっと正面からぶつかってきてほしかった。

 そんな思いが募って池田鈴はちょっと怒っていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る