第5話 納車までの長い夜に

 納車日を楽しみにまずどこを走ろうかと地図とにらめっこする日々である。

 これだけでもだいぶ楽しいのですが、なんで楽しいのか考えてみると行動範囲が広がるからかなと思い至った。

 とゆーのも、子供の頃の行動範囲の広がり方を思い出してみると、まずは自宅付近をじょじょに広げていき、隣の通り、公園まで、近くの商店街、駅前と言った風に円を広げるように大きくなっていった記憶がある。

 そして自転車に乗れるようになると一気に遠くまで、大きな公園や隣町、河原、などなど目的地を決めて一心不乱にペダルをこいで線を伸ばすように行動範囲を広げていた。

 そして公共交通機関、バスや電車を使うようになると今度の目的地は場所になる。

 それは電車にのって何駅、乗り換えて着いた場所。

 バスに乗って向かう先。

 夜の高速で旅に。

 時には飛行機に。

 どれも自分の脚を使わずに行動範囲というよりも、街や場所を連続しない点で記憶するようになる。

 連続しない場所の記憶はどこかフワフワとして、方向感覚さえ定かではなくなってくる。

 しかしクロスバイクを購入すると決めてから地図の見方が変わった。

 最初は自転車で行けるカフェや景色の良い場所などを調べていたが、次第に道そのものに注目するようになった。

 それは緩やかな坂が続く幹線道路だったり、自転車乗りの間では有名な峠だったり、走りやすそうなサイクリングロードだったり。

 その道を行くことが目的になっている。

 この行動範囲の広がり方は自転車を乗れるようなった時と同じ線のようだ。

 そしてこの線の先にあるのは公共交通機関を使うようになってから訪れた場所や街だった。

 連続していなかった点の記憶が線で結ばれ連続した確かな記憶になる。

 これが面白くないわけがない。

 いままで電車で通り過ぎるだけだった山の中に有名な峠がある。

 バスで通ったあの道の隣にはヒルクライムの練習に最適な坂がある。

 あの川の土手のサイクリングロードは空港まで続いている。

 クロスバイクを知る前までは想像だにしなかった行動範囲の広がり方を見せる。

 輪行を駆使すればさらに広がり、フェリーで離島まで行きそこでサイクリングもできる。

 今までただの通行路でしかなかった道ががぜん魅力を帯びて見えてきた。

 車の免許を取った時には感じられなかったこの感覚。

 たぶん自分の力のみで行動範囲を広げることに魅力を感じるのだろう。

 週末には納車だ。

 さあ、どこまで行けるか?

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