アラフォーオタクがクロスバイクを始めました
あざらく
第1話 クロスバイクの存在に気付く
脈拍が早い。
あんなに軽いと思ったペダルはひたすら重く、車体はふらつきながらなんとか足を回している。
追い越していく車に恐怖を感じる余裕すらなく。
ただ足りない酸素を吸いこもうと口を開けるが満足に吸うこともできず、つばを飲み込もうにもえづくだけ。
まだ早かったんだと後悔だけが頭をぐるぐる回る。
しかし意地でも足はつくものかと歯を食いしばりペダルを回す。
すでに寒い季節だというの全身に汗がかき、吸汗性を考慮していないインナーが肌にべったりと引っ付き、体力を奪っていく。
ぜぇぜぇと自分の息を音を聞きながらそれでも必死にペダルを回す俺の横を、ママチャリに乗った若い……高校生だろうか? 若い男が抜いていった。
気のせいか、半笑いで、俺を励ますとも嘲笑するともわからない表情をしていた。
そこで、心が折れた。
軽くブレーキをかけると俺は足をついた。
高いサドルに足をよたつかせながら、俺はペダルをこぐのをやめた。
こうして俺の初めてのヒルクライムは失敗に終わった……
というのは全て妄想です。
1 現実の話
そもそもは、そもそもはだ。
転職した関係で通勤に自転車が欲しいと思ったのが始まりだった。
転職先の会社は坂道の上にあり、最寄り駅から歩いて四十分、きつめの坂の上だ。
面接に行った段階からやれ車だバイクだ自転車だ、いや電動じゃないときつい等と言われていた。
バスで向かえば良いと気楽に構えていたのだが、調べてみると始業時間に間に合うバスは無い、ならば自転車を使うか、でも電動はなんかいやだ。
坂を楽に上がれて電動じゃない自転車はないものかと探して行きついたのがクロスバイクであった。
かるーく調べるとネットで二~三万で買えるものがあるらしい。
これを駅前に置いて通勤で使えばいいかーと思っていた。
だがさらに調べを進めると初心者はネット通販に手を出してはいけないらしい。
組み立てとか必要だし。
まずは専門店で店員にアドバイスを受けながら買うのが良いと。
今まで抵抗を続けてきたが、四十を手前にして俺もおっさんと呼ばれる域に差し掛かってきた。
おっさんは安物買いの銭失いをしたくないのだ。
そんなことは若い時にさんざんやった。
最初からちゃんとしたものを買う。
若さとトレードして得たおっさんの知識はそれが正解だと言っている。
専門店で買おうと値段を調べると、入門クラスで最低五万円台。
そこから必要なアクセサリ(空気入れ、ヘルメット、サイドスタンドetc)を買うと+一万くらい。
当初予算の倍である。
そんな高価なものを駅前に置いていたら盗まれるのではないか?
調べれば自転車として高価なクロスバイクもスポーツバイクとしては安い、わざわざ盗むことも少ないらしいのだが、かと言って駅前に置いておけるかと言ったら小心者のおっさんの答えはノーだった。
通勤で買う自転車を通勤で使えない。
人はこれを本末転倒という。
幸い、会社の人の好意もあり通勤問題はクリアしたのだが、おっさんの心の中にクロスバイクはしっかりとした痕跡を残していったのである。
2 クロスバイクのみりき
調べる過程で得られた知識はクロスバイクはスポーツバイクの入門として位置づけられており、日常使いの買い物から週末に遠出まで幅広く使えるライフスタイルツールだという。
こじゃれた横文字に心躍らされるおっさんではないが、数字やギミックには弱い。
この時調べていたのはgiantというメーカーのescapeR3というモデル。
重量10,7㎏、軽量アルミフレーム、24段変速ギア搭載。
漕ぎ出しから違いが分かる、エントリーモデルのベストセラー。
こういうのに弱い。
しかしおっさんはカタログを信用しなくなる。
「ほほーん、じゃあ実際の評判はどうなんだい?」
実際にググればわかる評判の良さ。
いろんな人のブログを見て、
その中でも特に心惹かれたのがロングライド、そしてヒルクライムだった。
20キロや40キロは序の口、初心者でもがんばれば100キロのロングライドが出来る。
峠を攻めるヒルクライムは苦しいが登り切った時の達成感と見晴らしのいい景色は格別だという。
しかもこれは面倒な手続きやはいらず、クロスバイクを買い、知識と経験をつめば誰にでもできるスポーツだという。
タイムを競うレースではなく、ゆっくりと自分の体力に合った目標を設定。
出かけた先で景色を見たり、美味しいものを食べたり、温泉に入ったり。
たぶん気持ちいいのだろう。
思えば子供のころはよく自転車にのってあちこちに行っていた。
小さい頃に上級生が乗っていた変速ギア搭載の自転車にあこがれ、大きくなってからは当時はやっていたマウンテンバイクを買ってもらいあちこちに乗り回した。
急な坂を無理に下ってすっころんだ事もあった。
暗くなるまで走って道が分からなくなったこともあった。
しかし、楽しかった記憶しかない。
ここは童心に戻り、そしておっさんになった知識と財力で再び自転車を乗るのも面白いかもしれない。
出てきた腹も引っ込めたいし。
幸い、嫁の許可も得た。
そうなるとどれを買うかの問題だ。
実店舗に赴き実物を見て店員に話を聞いて試乗してカタログを貰い読み込む。
こっちはスタンダート、こっちはタイヤが太く悪路に強い、こっちはもっと軽い。
並行してどこを走るかどこに向かうか何が楽しいか。
目的地を設定してはルート検索をし、距離を調べてここなら行けそうだのここは遠すぎるだのニヤニヤしてみる。
さらには必要なオプションパーツは何か?
ライトやロックは必須にしてヘルメットは欲しいし泥除けも必要?
サイクルコンピューターも欲しい、そうだどんな格好で乗るんだ?
考えることは山ほどある。
ああ、楽しい。
そんなこんなで現在悩んでいるのはgiantのescapeR3を買うかGRAVIERを買うか。
目下はそこが楽しくてカタログ見たり購入者のブログを読んだりしているうちに時間があっとゆうまに過ぎていく日々だった。
そしてせっかくなら新たに始まりそうな自転車趣味の記録を日記代わりに書いて上げていこうと思ったである。
いまの調子だと文章書くの忘れそうだし。
飽きるまでやります、たぶん。
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