第50話 執事兼ボディーガード

 取り敢えず、領収書を渡し、残りは一括いっかつで振り込んでくれる様に交渉したが、まるでゆずらない。

 結局押し切られ、毎日、入金に来る事になった。


 気持ち悪いと言っていた二人も、慣れて、いや、望んでいた姿なのだが。

 どこか、引っかかるものの、三人とも結構いい友達的感じでお話をしている。


 「それでね、ドロシーがあんな事やそんな事をするから、もう大変なんだ。」

 「まあー、おしとやかそうですのに、その様に激しい方だったとは。」

 「ちっ、違うの、ルイーズのばかーーーっ。」


 「あの~、二人共、もう、そろそろお昼だし、ご飯食べて下見に行かないと。」

 「ゆたか、作って。」

 「え~、昨日も僕が作ったよ。」

 「私手伝う。」

 「じゃ、テーブルを元に戻すから、手伝って。」

 「は~い。」「むう~。」


 「何食べたい、冷蔵庫に無い物はダメだよ。」

 ドロシーが来たので、二人でテーブルと椅子を戻す、今日のラヴさんは、害は無さそうだ。

 「ラヴさんも食べますか。」


 「えっ、良いの、食べる、こほん、頂きますわ。」

 「私、食パンのピザが良い、サラミとチーズいっぱい。」

 「ドロシーは。」

 「私はペペロンチーノとサラダ。」


 「ラヴさんは何かありますか。」

 取り敢えず僕もドロシーも座り直す。

 「そう、ですねぇ~。」

 「今日のラヴさんなら何でもいいですよ。」

 「「ううぅっ。」」


 「ではぁ、そのもう一人、お呼びしても、よろしいかしら。」

 「えーっと、誰ですか。」

 「お話に夢中で、失念しつねんしておりましたわ、下に執事を待たせておりましたの。」

 「執事ですか。」


 「ええ、まあ、わたくしのボディーガードも兼ねておりますの、お父様の言いつけで、わたくしに粗暴そぼうな殿方の影が無いか、見てまいる様にと、申しつけられたらしいのですわ。」


 「ゆたか。」

 「ゆたかってば。」

 「お父様ですか、何、二人共。」

 「奥様の言いつけでもあります。」

 いきなり背後から女性の声がした。


 「あっ、びっ、びっくりしあー。」

 チキンなのに、心臓止まるかと思った。

 「「ゆたか。」」

 「格好悪いい。」

 「私の時より驚いてる。」


 体をねじってキッチン側を見ると、真後ろに若い女性が立っていた。

 シャツにブレザー、パンツ(下着ではなく、紛らわしい)、カラフルな靴下、整った顔立ち、赤毛に茶色い瞳、170cmぐらい、明らかに外人さんだ。


 女性らしい曲線のラインなのに、ドロシーやルイーズ、ラヴさんとは明らかに異なり、対峙たいじする人間に威圧いあつ感を与えてくる。


 「マリィ、気配を消し勝手に上がり込んではいけません、お謝りなさい。」

 「申し訳ありません、お嬢様。」

 「マリィ、お座りなさい、謝る相手が違ってよ。」


 「お嬢様、それは。」

 「早くなさい。」「ひゃい。」


 「ゆたか様、マリィの方へ向き直って下さいまし。」

 「はぁ、こうですか。」

 僕は“マリィ”と呼ばれ、未だ立ったままの女性の方へ向き直る。


 「マリィ。」

 「おっ、お嬢様、おゆる。」

 「我が家の執事たる者が、無礼ぶれいをなす事は許しません。」

 「ふえ。」


 彼女は僕達の目の前に来る、渋々しぶしぶ正座すると、深々とこうべをたれ、何故か三つ指をついて。

 「だんなさまぁ、すえぇながく、そい、とげっ、とうっ、ございまぁすぅ。」

 まさしく、あやまってくれた、どうしてうそ教えるんだよ。


 そうして、そそくさと立ち上がると、ラヴさんの方へ向かった。

 ぽかん。「あいたぁ~。」

 え~っと、執事さんは、ラヴさんの横に陣取った。


 「旦那様も、奥様も、遠慮えんりょする事無くひつける様にと、もうかっております。」

 「わたくしは帰りません、ここにいるのぉ~。」

 はあ~ぁ。と執事さんは拳をあげた。「きゃん。」


 「申し遅れました、私はお嬢様の執事兼ボディーガードを務めます、マリオン(Marion)・アームストロング(Armstrong)と申します。」

 彼女は僕達に名刺を手渡した。


 「私は、お嬢様をお屋敷にお連れしなくてはなりません。」

 「お引越しですか、学校を変わられるんですか。」

 「いいえ、学業は続けます、只、お嬢様には許嫁いいなずけの殿方とのご婚礼が有るのです。」


 「依頼は、・・・キャンセルですか。」

 「いえ、できれば心残りが無い様に完遂して頂ければと思います。」

 「「いまどき。」」

 「それはおめでとう御座います。」


 「いぃーやっ、私は嫌なの。」

 「お嬢様は真法まのり家本家の跡取あととりとなるお子を、一刻も早くさねばなりません。」

 「嫌っ。」また変な話になって来た。

 「ならば、奥様はこうも仰せです、『もし、おおしたいする殿方がいるのなら、お連れしなさい、会って差し上げます。』と。」


 「マリィ~、このお家のあるじに失礼です、座り直しなさい。」

 マリオンさんはラヴさんの横に、ラヴさんに向かって座っている。

 「お嬢様、それには応じかねます。」

 「早くなさい、失礼ですよ。」


 「嫌です。」

 「早くなさい。」

 「いやぁーーーっ。」

 「きゃっ。」

 マリオンさんは、壁とラヴさんの間に無理やり入り込み、一気にラヴさんを抱えると、自身の膝に乗せ、自分はそこに座り込んだ。

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