可愛い、魔女?

第3話 僕の背後から

 段々薄暗くなっていく公園、その中にあって、この辺は街灯が無い。

 僕はのっぺらぼー、目玉、耳、唇、鼻に囲まれて動けないでいた。

 「ほらね、ゆたか、こんな感じ。」「こんな感じって。」

 「だから、案山子かかしがいて、ブリキマンがいて、ライオンさんがいて、トトもいるでしょう。」

 「そして、可愛い女の子がその中にいたら、・・・私、ドロシー?、よね。」

 そう言う事、消去法か。

 案山子かかし、ブリキ、ライオン、犬、残っているのはドロシー、と言う事。


 ん、じゃ、本当の自分の事が分からないのか、記憶喪失、なのか。

 「じゃ、ドロシーは、本当は自分が誰なのか、思いだせないの。」

 「ドロシーは、ドロシーさあ、俺達がいるんだからな。」

 「さあ、ドロシー先に進もう、魔法使がいる、秋葉あきはシティーに。」

 あーあっ、とうとう魔法使いのいる処になっちゃったのか。


 「でも、ご飯も食べさせてくれるって言っているし、お泊まりさせてくれるって言っているし、疲れたし、お風呂にも入りたいし。」

 「ドロシー、お泊まりのお礼をするって、『何を』してあげるつもり。」

 ドロシーの顔が真っ赤になって、もじもじし始める。


 「ふーん、ブリキ、ドロシーのて。」ブリキマンももじもじしている。

 「ぼっ、僕はドロシーが良いなら、天井の壁紙の柄を数えとくよ。」

 築31年の賃貸で、壁紙は白だ、シミも柄は一つもないよ。


 「何を言っている、ブリキ、なあ、ライオン。」

 「何つやつやして、尖らせているんだよ、まあ、その方がライオンぽく見えるけど。」


 「わん。」「お前は良いよ、だってよ、ちゃんとお礼をするから泊めてくれ。」

 のっぺらぼーのとこを除けば、声も、仕草も可愛いし、かっ、から、他に変わったところはなさそうだし、いいかなぁ~。


 ちょっと待て、こいつ等も来るのか。

 「なあ、ドロシー、こいつ等も来るの。」

 「だめなの、この子達がいないと私困るの。」

 「御免ね、僕の家ペット禁止なんだ。」

 「誰がペットだ、魔法使いの弟子のくせに。」


 「案山子かかしのくせに、言ってはならん事を、僕だって好きで弟子になっているわけじゃないんだ。」

 「やっぱり弟子だったのか。」くそー、誘導されたー。


 「なら丁度いいだろ、魔法使いの処に行く前に、弟子の処に泊まってけ。」

 「ドロシー、是非泊まっていけってさ。」くそー、また誘導されたー。


 「案山子かかしいい加減にしなよ、ドロシーが決めたんだから、素直にはむはむしてもらいなよ。」

 耳が真っ赤になった。


 「おおおっ、お前には心が無いのか。」

 「無いよ、ブリキだし、口よりもの言う目玉だし。」

 「じっ、じゃ、お泊まり決まったし、皆もど。」


 「あーーーーーっ、ドロシー、やっと見つけた、その靴を渡しなさーーーいっ。」

 「ほら、案山子かかしがもたもたしているから、見つかったじゃないか。」

 「俺はドロシーを心配してんだ、俺の所為せいにすんな。」


 僕の背後から、・・・僕は自分の知覚ちかくを疑い始めていた。

 しかし、これに疑問を持つと、僕自身の存在自体を疑問視する気がする。

 背後は背後だが、頭の上の方から、声がするんだ。

 のっぺらぼーの次は何だ、あー、でも声はドロシー同様、とっても可愛い。


 そして振り返り、上を見上げる。

 手綱たづなを握って、何か四角い物にまたがる女の子がいた。

 地表はもう薄暗いが、彼女がいるのは3mほど上空、木と同じ高さぐらいだ。


 そこはまだわずかに光があって、彼女がブロンドの長い髪をした、碧眼の少女である事が判った。

 服装がこれまた特徴的で、フィギュアスケートの衣装の様な服を着ている。


 少なくとも見た目は、ドロシーと同じぐらいの年に見える。

 「もう見つかっちゃった。」

 「グリンダに貰ったその靴を私に頂戴。」


 あっ、降りて来た。

 「ねえ、ドロシー、その靴、あげたら、そしたら誤解だって分かると思うんだ。」

 「でもそれじゃ私が履く靴がなくなっちゃう。」

 「なら、あいつ、西の悪い魔女が履いているのと、交換すればいいじゃん。」

 あー、2wayのリュックにまたがってたのか。

 肩で背負う処にそれぞれ足を入れて、ショルダーに使うひも手綱たづなにしてたわけね。


 おーっ、スカート丈みっじか、ちょっとでも動いたら、パンツ見えそう。

 いや、見える、見えるぞ、僕にも見える、何かプリンされてる。

 「うわっ、誰だ、視界を塞ぐのは。」「見ちゃダメ。」ん、ドロシー。

 「ドロシー、無駄だぞー、西の悪い魔女が来て、雄がいたら。」

 「そうだよ、ドロシー、いつもの展開だよ、止められないよ。」


 「でぇ~もう~。」視界が開けた。

 「もう、ママ、この服小さいよぉ~。」

 空から降りて来た、少女は丈の短いスカートを両手で引っ張り隠そうとしている。

 けど、それは無理、短すぎ。

 「その靴があれば、私、魅了の魔法が制御出来る様なるの、よこしなさい。」

 何か、亀さんが元気になってきた。

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