ファーストコンタクト5

<<日本の周辺海域>>


惑星の北半球の一部領域で地球国家と未知の国家が接触する中が、南半球の大洋上では自衛隊の海洋観測艦と護衛艦が海洋調査のため広い大海原を航行していた。


たかなみ型護衛艦たかなみ


「にちなん、速度を落とします。間もなく予定ポイントでの観測が始まります。」


「本艦も速度を落とす。進路そのまま、6ノットまで減速。」


「進路そのまま!」


1隻の海洋観測艦を2隻の護衛艦が前後についてエスコートする陣形を維持したまま海洋観測艦が音響機器や各センサーで海域の調査を行うのが今回の任務だ。

海上自衛隊の調査が順調であれば順次海上保安庁の海洋調査船でも調査が行われる予定になっている。

この手の調査は未知の海故にどの国もまずは軍隊が先人をきっていた。

日本もそれは同様である。



海洋観測艦にちなん


「どうやらここは海盆のようですね、水深4500の深海です」


「更に東に行くと海嶺があるかもしれないな。」


「そうですね。概ねこの海域は潜水艦の航行に支障はないでしょう」


「それと・・・」


にちなんの艦内では調査データの議論が行われる。



むらさめ型護衛艦くまがわ


「ん?」


ソナー手が声を出す。


「これは...」


ソナー手は集中する。

少しして発言する。


「こちらソナー。方位177に微弱な音源を聴知」


「何だ?」


水雷長がソナー手に聞く。


「わかりません。微弱でノイズに紛れて音紋を識別できません。」


「・・・クジラ?」


水雷長は判断しかねる。

とりあえずとばかりに指示する。


「警戒を続けろ」


「了解」


艦隊は海洋調査を継続する。

音源の発見は続き、しばらくしてまた音がする。


「方位190に音源を聴知。先程と同様微弱です。」


「またか」


水雷長は判断した。


「曳航ソナーを下ろす」


くまがわから曳航ソナーが降ろされ対潜警戒を強める。

同様にたかなみも曳航ソナーを下ろし互いに守りを固める。


「音源は確認できるか?」


「いえ、確認できません。」


先程より耳が良くなったのに今度は音源が現れない。

しばらくしても全く反応がない。

途中、明らかにクジラと見られる音と鳴き声を側方から観測したりするが、後方からの微かな音は無かった。

そして観測終了時刻になる。


「観測終了につき、これより帰投する。速力12ノットに増速。針路288」


「増速、針路288」


艦隊は増速し日本に針路を向ける。


「結局あの音源は何だったんですかね?」


「さぁな、クジラや自然現象の類いだったんだろう。海域のデータが少ないから自然現象なのかは定かではないが」


しかしそれは増速して直ぐだった。


「方位181、後方下に音源を確認!今度は微弱ではありません。恐らくサーマルレイヤー付近に隠れていて増速のノイズで露見したと思われます。完全に本艦隊を追尾していたと思われます。」


「出たか、何かわかるか?」


「わかりません。全く聞いたことがない音です。これはスクリュー音やモーターやタービン音の周波数とも違います。どの音紋とも符合しません」


「何だと?」


「音源は周期的に変音しています。およそ1秒間隔です。」


「ひ、ヒレで水をかいている、のか?」


「だとしたら速すぎます。クジラはこんな速度は出せません」


全く未知の存在だと認識する。

そして未知の存在は行動を開始する。


「音源1は増速して艦隊の真下に着こうとしています。隠れるのを辞めたもようです。」


水雷長が受話器を取る。


「艦長、先程の音源を再発見しました。目標は何かを始めようといているもようです。」


「わかった」


「総員戦闘配置につけ!」


「総員戦闘配置!」


艦隊から警報音が鳴り響く。


「艦長、目標は間近です。先に仕掛けたほうが?」


副長が意見する。


「いや、それは専守防衛に反する。司令部も同意見だろう」


艦長は副長をなだめる。



艦内指揮所


「アクティブソナー打て」


乗員がアクティブソナーのボタンを押す。


ピコーン。


曳航ソナーを使ってもいまいち掴めななった目標の所在が判明する。


「目標、方位195、距離2000m、深度750m」


「距離2000mで深度750mだと?そんな至近の深深度だったのか」


「そのようです。信じられないほど静かなやつです。この距離と角度だからサーマルレイヤーの遮蔽が切れて聞こえるんだと思います。」


アクティブソナーに反応して目標が慌ただしく動く。


「目標が艦隊の真下に入りました・・・も、目標、急速浮上!接触まで50秒!」


「急速浮上しています!」


「デコイ発射!」


「取り舵いっぱああい!」


目標は急速上昇しくまがわ目がけて突っ込んでいく。

デコイを出したがお構いなしに追尾していた。

遂に接触する。


ゴカアアアン


鈍い金属の衝突音と軋み音が轟く。

艦内の一部で浸水が始まる。



艦橋


「状況を報告!」


「第2区画で浸水!全員退避後浸水区画を封鎖しました。侵入水量は軽度です。機関室異常なし」


「よし」


「こちら艦長、正当防衛につき反撃を行う。攻撃を許可する」



指揮所


「了解。ソナー、目標はどこへ行った?」


「左舷前方に向かい潜行を続けています。間もなく攻撃可能範囲です」


「わかった。左舷の魚雷発射用意!目標は左舷の敵性物体」


水雷長が指示する。


「魚雷発射用意!」


くまがわの左舷の魚雷発射管を人が操作しながら発射体制に入る。


「魚雷発射!」


シャコーン


くまがわからMk46短魚雷が発射された。

魚雷は着水すると高速で目標を追いかける。


「着弾まで40秒」


すると目標が奇妙な音を発した。


「目標、クジラのような特異な音を発しています。断続的に発音!」


「目標、増速します」


「魚雷に気づいたのか。魚雷は振り切られるか?」


「いえ、射程外までには命中すると思われます」


魚雷は目標を捉え続け徐々に距離を詰め、着弾時間になる。


「まもなく着弾します」


魚雷が目標に命中すると暗い海中に閃光が現れ、巨大な気泡が発生する。

海中を衝撃波が伝わる。

海面に衝撃波が到達しその後気泡が上がってくるとそこまで高くない水しぶきが吹き出す。


「魚雷、爆発しました。効果を確認中」


戦闘中に離陸したSH-60Jは爆発直後の現場に到達しHQS-103ディッピングソナーを下ろす。

対潜哨戒ヘリのソナー手がバブル音を識別しながら目標の音を探す。


「目標を確認できません。圧壊音や航行音もありません」


対潜哨戒ヘリは目標を発見できなかった。

しかししばらくすると海面に赤い帯が発生するのを確認した。

そこでたかなみが現場付近に駆けつけあることをする。


「アクティブソナー打て」


ピコーン


たかなみがアクティブソナーで周囲を捜索する。

すると反応をキャッチする。


「水深400に目標を確認、停進しています。」


一同は状況を把握した。

目標は死んだのだと。



たかなみ艦橋


「各国の報告でモンスターのことは知っているつもりだったがこんな海洋モンスターまで存在するとは」


「はい、私も驚きばかりです」


「とりあえず帰投しよう。司令部に報告を頼む。日本到達まで周囲の警戒は厳とする」


「了解」


この報告によりまた一つ未知のモンスターがデータベースにのった。

しかし情報共有が不十分だったため2日後、アメリカ海軍のフリーダム級が同様の襲撃を受け機関室を浸水させ航行不能に陥れられて曳航する事態になった。

このときフリーダム級はモンスターに攻撃されるまで気づかなかったことから自衛隊のような高い対潜警戒能力の必要性を認識することになった。


くまがわが殺傷したモンスターは5日後、洋上に浮いているのが確認され回収された。

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