アルカディアンズ
@tas2r16
異世界へ
戦う人々
少し前、この大地に住む人々はそれぞれの故郷の星に暮らしていた。
しかしある時、天変地異が世界を襲い視界が眩い光に包まれ、気がつくと人々は自分達の住む世界とは全く違う世界にたたずんでいた。
そこは様々な種族や国が光に導かれ一つの星に押し込まれ混乱の極みにあった異世界だった。
これは不安定で戦争の絶えない異世界で新しい歴史を作る人々の物語。
<<サンテペル近郊上空高度300メートル>>
澄んだ青空の中にかすかに見えるとても大きな月と下に積雲や積乱雲が立ち込めその大きな合間には畑や牧草地を覗くことができる雲の多い天気だった。
長閑そうに見える風景だが唐突に飛行編隊が音を立てて通過する。
それは暗い色彩の迷彩を纏ったレシプロ戦闘機の一群だった。
排気筒が一列に並んだ水冷式レシプロ戦闘機であることが見て取れる。
「くそ、まるで迷路みたいな雲ね」
とある戦闘機のパイロットは焦るように発言する。
彼らはあるもの探しているようだった。
そのパイロットの容姿はヒトとは違っていた。
猫のような耳と尻尾を備えかなり小柄な体格をしている。
半数以上が女性だった。
「隊長、こうも雲が多いと少し迂回されただけで目標がどこにいるのさっぱりです」
赤茶色の髪色をした隊長機のパイロットは無言のまま眠そうな眼差しで周囲を見渡していた。
相変わらずの雲の多さに索敵は思うように進まない。
しかし雲の中にほんの僅かな黒点が通過するのを隊長は見逃さなかった。
「10時方向に敵機。全機変針して上昇」
飛行隊の戦闘機達は続々と旋回し、コックピット内ではパイロットたちがスパーチャージャー(過給器)を1速から2速に切り替える。
そして飛行隊はある程度の速度と上昇速度を維持して目標を向かっていく。
雲切れ間からチラチラと目標の飛行編隊が徐々に見えてくる。
だがそれと時を置かずに目標編隊の大型機の上部にいた小さな機影達がぐんぐん高度を上げ始め近づいてくる。
「護衛の戦闘機が来るぞ」
敵の戦闘機は少し曲がりくねったような胴体をした空冷式レシプロ戦闘機で単色塗装だった。
「全機散開!」
両陣営の戦闘機がごちゃまぜに飛び交い始めた。
こうして戦闘機同士のドッグファイトが始る。
レシプロ機特有の轟音が鳴り響き雲を引く機体が出てくる。
そして煙を吹く機体や引火爆発して四散する機体が続々と出てくる。
20mm機関砲と13mm機関銃から発射された弾丸は曳光弾が混じっているので肉眼視でき、機体に命中して主翼が思いっきりもげる。
戦闘機はその数を徐々に減っていく。
「5番機後ろに付かれるぞ!」
「カラクム隊、下の連中は左に回る気だ。抑えろ」
「よし、ケツに付いたぞ」
大勢は高度有利を少しつけていた攻撃側が優勢で上からのしかかるように護衛機に攻撃を加え後ろを取っていた。
特に隊長機は急降下攻撃で一機を落とした後数機を相手に格闘戦を挑む。
もちろん格闘で落とすのが目的ではなく敵を掻き回し味方に撃墜させる共闘戦術のためだった。
隊長機のハイテクニックな回避運動に翻弄された敵編隊は上や後ろから襲いかかった別の戦闘機に撃墜されていく。
エースパイロットである隊長は敵の注意を自分集め、味方の損害を減らしたかったのだ。
短時間で数を大きく減らした敵部隊は半ば壊走状態になり護衛対象を防衛できなくなってきた。
そして攻撃側の戦闘機が護衛対象の爆撃機に襲い掛かり始めた。
四発爆撃機の銃座が一同に旋回し敵機を捉え、爆撃機内の搭乗員達に怒号が飛び交う。
搭乗員達も攻撃側と同様に猫のような耳と尻尾を生やしていた。
「取り乱すな!弾幕を張って反乱軍を寄せ付けるんじゃない!」
爆撃機の機長が怒鳴って直ぐ爆撃編隊からの機銃掃射が始まった。
取り付いた攻撃側の戦闘機の一部がバレルロールしながら爆撃機の翼に機銃掃射する。
エンジンが火を吹いて姿勢を崩すと爆撃機は高度を落としていく。
別の機体は後方の銃塔を集中攻撃され機銃手が死んでしまったのか沈黙したところを後ろから近づかれエンジンを正確に撃たれ、煙が吹き出し速度と高度を落としていく。
他にも一度爆撃機の機銃掃射をやり過ごすためかすめるように通り過ぎる戦闘機もいる。
しかし機銃掃射でエンジンを被弾し火を吹いて落ちていく戦闘機も出て、爆撃機もまたその数を減らしていく。
「隊長、サンテペル兵工廠まで後8マイルです!」
雲の切れ間からサンテペル市街が迫っているのが見える。
爆撃編隊は爆撃コースに入り始めていた。
何としても阻止しなければならないが敵機を落としきれずにいる中、爆撃機の爆弾槽が開き始めた。
隊長機は匠にロールして爆撃機に接近するとの腹に攻撃を加えると大爆発が起こり機体が四散する。
他の戦闘機も果敢に攻撃するが倒しきれず焦って迂闊に近づいて反撃を受け撃墜される戦闘機が出る。
まだ残っている護衛機の妨害も熾烈を極め、迎撃は失敗に終わるかに思われた。
そこへ援軍が現れる。
兵工廠の野戦飛行場に配備された飛行中隊だ。
旧式で極度に寸詰まりな形態の空冷式レシプロ戦闘機ではあったものの十機ほどの加勢は戦局を変えるのに十分だった。
「こちら守備隊です。状況を教えてください」
「こちら第17飛行隊フニャン中佐、敵爆撃機は今爆弾の投下体制に入っている。こっちは残弾が心もとない機体が多く戦力不足で決定打を与えられずにいた。貴官らは爆撃機への攻撃に専念してほしい。護衛機の始末と援護はこちらで行う」
「了解」
迎撃に上がった旧式機は速度が少し遅いものの20mm機関砲を2門詰んでいて火力は申し分なかった。
手負いが多かったため新手の迎撃機の20mm榴弾に悲鳴をあげるように次々と爆撃機達が高度を落として落ちていく。
第17飛行隊の戦闘機は残り少ない護衛機の殲滅にかかる。
「もらった」
後ろを取った戦闘機が最後の一機を撃墜する。
その頃隊長機は味方を援護するため爆撃機の弾幕をくぐり抜け敵の注意をひきつけつつ残弾で最後の一撃を加えていた。
尾翼が吹き飛び爆撃機はバランスを崩して錐揉みを始める。
そして爆撃が始まるすんでのところで爆撃機は全機撃墜された。
「帰投する」
隊長の一声に飛行隊の戦闘機達が方向を変え、兵工廠守備隊と別れるように飛んでいく。
パイロットたちの間に少しだけ歓声が上がる。
こうして長く続く戦いが一つが終わった。
<<ミャウシア暫定政府軍セニャム飛行場>>
ここは猫のような耳と尻尾を持つアッテリア人の国、ミャウシア社会主義共和国連邦。
現在は地球諸国が支援する暫定政府とクーデター政権で内戦中であり、ここは暫定政府軍の数少ない航空基地だ。
そこへ先程爆撃機部隊を迎撃した戦闘機部隊が基地としている飛行場に戻って来た。
戦闘機は徐々に高度を落とすと着陸フラップを展開し始めた。
少ししてランディングギアを下ろし、ランディングして着陸する。
ギュルン、ガタッ、ガガガガ
続々と戦闘機がランディングする。
駐機場までたどり着くと整備員などが近づいてきて整備や移動を始める。
パイロットたちはキャノピーを開けると続々下りていく。
「三機も撃墜しちゃった。先日の一機も入れて後一機でエースパイロットの仲間入りだよ!」
興奮するパイロットが周りに言いふらす。
同調するように他のパイロットも加わる。
「あたしも一機落としたよ。撃墜は初めてなんだよね」
「こう連勝続きだと来月には10機は落とせそうな気がするんだよな」
話に花が咲いている中、悲しんでいるパイロットもいた。
つい数時間前まで一緒に戦っていた仲間が撃墜され脱出しなかったのだ。
少し泣きそうな顔をして頭を上げ下げしながら懐にあった整列写真を見入る。
隊長も喜んだ様子は見せない。
いつもの眠そうな顔で宿舎に戻って士官室に入るとロッキングチェアに座ってパイロットスーツのまま疲れた様子で目を瞑った。
ギコギコ少しだけ揺らしつつ何か思い返しているようだった。
戦争では戦えば必ず誰かが死ぬことは避けられないことだけにそれを重く受け止める者は少なかったが上に立つ指揮官で部下思いの者は味方の犠牲をできる限り減らしつつ死んでいった者たちを忘れたりはしなかった。
そこへドアのノック音がする。
「入ります」
士官室に元気そうで幼い顔つきの男性が入ってくる。
フニャン中佐は片目を開けて見やる。
「迎撃お疲れ様です。またやりましたね、これで当分クーデター軍もサンテペルに手を出すのを躊躇うはずです。」
「うん。でもぎりぎりの勝ちだった。次はないかもしれない」
フニャンは答え、男性は少し間をおいて言う。
「はい、それとゥーニャ書記からの手紙が入っていますがいかがですか?」
「読み上げてウー」
ウーは読み上げる。
「親愛なる同志フニャン中佐。いい知らせがある。機密だったので作戦開始直前の情報開示になるが本日15時にヨーロッパ連合はミャウシアクーデター政府に対し宣戦布告を行うことを正式に発表する。16時には連合軍がミャウシアクーデター政府施政域全域を飛行禁止空域に指定し大規模な空爆が実施され、その後本格的な地上軍が投入される手筈になっている。すでに輸送船や貨物船に物資と装備をありったけ積み込んでいる段階だ。」
その頃、地球人諸国の港ではM1エイブラムス戦車が港の駐車場に何百両も砲塔を後ろ向きにして仮止めされていたり、T-72戦車が大量に列車に積まれ移動していたり、迷彩柄のチャレンジャー2戦車がRO-RO船のランプの上を走っていた。
この時フニャンは少し驚いた様子でウーを見ていた。
ウーもマジかと言いたげな表情だったが音読を続ける。
「我々はターニングポイントに到達したのだと私は思う。これからミャウシアの戦火は一気に拡大するだろう。ミャウシア元首だった私が国の惨状を希望を添えて言うのはおかしいかもしれないけれど貴方が私に教えてくれたように私にできることをやっていくつもりだ。これからとにかく忙しくなるので今回は手短にこれにて。同志ゥーニャより」
二人はポカンとしていた。
しばらくしてフニャンは言う。
「ついに始まるのね」
「そのようですね」
フニャンはハッとして時計の方を見る。
時刻は2時50分を指していた。
もしやと思いフニャンはウーに言って司令官やパイロットなどをある部屋に集めた。
そこには第二次世界大戦くらいの文明レベルの彼らには不釣り合いな液晶テレビが2台置いてあった。
そのテレビの端にはL○とSON○の会社ロゴが入っていて、今回は大型のSON○の液晶テレビを使った。
フニャンはリモコンでテレビを付けるとヨーロッパの衛星放送チャンネルに合わせた。
チャンネルではLIVEの文字が映りNATO軍最高司令官が壇上に立って話始めようとするところだった。
フニャンはテレビの近くに座って話されている英語をミャウシア語にリアルタイムで翻訳する。
「皆さんこんにちは。私はえー、北大洋..NATO軍司令官のトッド大将。これから重要なことを皆さんにお話する。先日からミャウシアのクーデター、えー政府?政権に対して通告していた要求について一切の回答を拒否されたため、NATO加盟国は本日イギリス時間16時をもってクーデター政権に対し戦闘力?を行使することを全会一致で取りまとめた」
「我々はクーデター政権の非道を非難し、それらの悪巧みする心、あ、野心を破壊する意思があります。そのためのあらゆる用意を行使します。願わくばこれによってミャウシアが良い方向へと向かうことを望みます」
NATO軍司令官の話は続く。
フニャンの訳は文法表現がたどたどしく誤訳しかけたりしたが内容をほぼ正しく翻訳できていた。
だいたいの内容がわかってフニャンが翻訳をやめると部屋はとてもざわめいていた。
「遂に地球軍が本格的に参戦するのか」
「これで勝ち目のある戦争になる」
「いやどうせまた小手先の攻撃に終始するかもしれない」
皆の意見は完全にバラバラだった。
「フニャン中佐はどうお考えですか?」
その言葉に一同がフニャンを見る。
最近ミャウシア暫定政府軍内で英雄視されつつあるフニャンの言動にみんなが注目するようになっていた。
フニャンは困った顔をする。
「えーっとその」
フニャンは少しテンパってしまった。
「とりあえず司令部の指示を待とう。ンニャーリア司令もそうですよね?」
基地司令官は回答を投げられ慌てて言う。
「そ、そうだな」
基地内はどんどん騒がしくなるが、この時はたくさんの国のどこでも騒がしくなったのは共通していた。
<<イギリス連邦 レイクンヒース空軍基地>>
16:40をまわり夕方が美しく見えるイギリス空軍基地では多数の戦闘機が滑走路に侵入して離陸体制に入ろうとしていた。
このレイクンヒース空軍基地には爆装したアメリカ空軍のF-16戦闘機やF-15E戦闘攻撃機、護衛が主任務のF-15Cが飛び立とうとしていた。
基地のハンガー付近には日の丸と海上自衛隊の文字が書かれた対潜哨戒機P-3Cオライオンが一回り大きくてより赤い太陽を背にプロペラを回転させて音を立てていた。
そしてその上空をフランス空軍のラファール戦闘機の編隊が轟音とともに通過していく。
合図とばかりにアメリカ空軍機もエンジンを吹かせてランディングを始め、機体が浮くと直ぐ急速に上昇していく。
レシプロ戦闘機にはとても真似できない上昇速度だった。
<<ミャウシア連邦沿岸>>
おびただしい数の艦艇が港を出向していた。
大艦隊の先陣を切るように20隻近くの超弩級戦艦が煙をあげて突き進んでいく。
<<戦艦ソミューニャの艦橋>>
満排水量6万トンを越し大和型戦艦に迫るほどのソミューニャ級超大型戦艦の一番艦ソミューニャ。
「本当にやるんですね、勝てると思いますか?」
「できるかじゃない、やるんだよ。やらなかったら粛清されるだけだ」
「批判はまずいですよ」
「大丈夫だ、盗聴器も人選も問題ない」
「はい...」
艦橋内ではそんなやるせなさそうな会話がされていた。
<<北半球の名もない大洋上>>
天気が不安定なのか薄暗い雲が夕方と相まって暗くどんよりと立ち込めてきていた。
そんな中に20隻程度の艦隊が直進して進んでいた。
中央に巨大な航空母艦が3隻たたずみ2隻でF/A-18ホーネットが、もう1隻でF-35Bが慌ただしく発艦準備をしていた。
アメリカ海軍のニミッツ級航空母艦とイギリス海軍のクイーンエリザベス級航空母艦である。
そして周辺海域の海中には潜水艦が多数うろつく。
海上自衛隊の潜水艦もその1隻だ。
<<おやしお型潜水艦たかしお>>
大変薄暗く狭い艦内では艦長達が会話をしていた。
「前方10kmにロサンゼルス級潜水艦2隻と212A型潜水艦1隻を聴知しました。先行する潜水艦隊と思われます」
「いよいよですね、艦長」
「我々は情報収集が主任務だ。戦意を高揚させてないか?」
「確かに。ですがそもそも霞が関の御偉方の安全保障音痴は目に余るものがあるからです。戦闘に参加しないことを条件にした派兵ですが地球側は常に戦力不足です。ここは一致団結すべきときなのに...」
「そうかりかりするな。言いたいことはわかる。だがいつかいい方向に向かうさ。それより任務に集中しよう」
「はい」
「こちらソナー、爆音を聴知しました。魚雷の炸裂音です!」
少し間を置いて艦長が発言する。
「始まったな」
こうして異世界において過去最大規模の地球諸国の軍事作戦が始まったのである。
この戦争に至った経緯は遡ること1年くらい前に起きた異世界転移事件がすべての始まりであった。
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