29 自分だけは助かる道

 

「え? どう言う事?」



 火憐が戸惑った表情をしながら、俺の顔を覗き込む。

 1万のステータスがスキルによるものだと言ったのだから、無理もないだろう。



 これが………。



―――――――――――――――――――――――

 ●能力ステータス

 ・Lv.1

 ・職業→『奴隷(スレイヴ)』


 ・魔攻→『10000』

 ・物攻→『10000』

 ・魔防→『10000』

 ・物防→『10000』

 ・知力→『10000』

 ↓↓↓↓↓ 

―――――――――――――――――――――――



 こうなった。



―――――――――――――――――――――――

 ●能力ステータス

 ・Lv.2

 ・職業→『奴隷(スレイヴ)』


 ・魔攻→『0』

 ・物攻→『0』

 ・魔防→『11』

 ・物防→『11』

 ・知力→『1』

  ↓↓↓↓↓

―――――――――――――――――――――――



 いや、こうなったと言うよりも「戻った」と言うべきだろうか。多少の上昇はあれど大して変わらない。

 俺は火憐に説明する為、ステータスの『スキル』の欄を見せた。



「火憐、これを見てくれ。」

「………………」



―――――――――――――――――――――――

 ・スキル【ALL CHANGEオール・チェンジ】:::ステータス上の数値を全て自由に振り分ける事が出来る。―――――――――――――――――――――――



 火憐は驚いていたよ。

 口をポカンと開けて何かを悟ったようだ。俺の無限HPとこのスキル、この二つがあれば化け物モンスターを倒した際の異常なステータスの説明もつく。

 もう大丈夫だろう……。

 俺は、沈黙した会話を再開させる為に固まっている彼女に話しかけた。



「……って事だ。戦闘時にはスキルを発動させる事は出来るけど、通常時は無理だってさ」

「なるほど……納得したわ。でもまさか、『スキル』があるなんてね」



「火憐は『スキル』がないのか?」

「うん。そんな項目、ステータス上になかったわよ」



「そうなのか……」



 スキルは必ずある能力ではないようだ。

 俺が顎に手をつけて考えていると急にドローミが動き出した。垂れていた鎖が手枷の中へと消えていく。



 ⦅ジャラララ!!! ジャキィン!!⦆



 最終的には鎖が全て無くなり、手枷だけになってしまった。こうやって見ると手枷も一種のアクセサリーのように見える。

 鎖を収納する事が出来るなんて便利なもんだなぁ。俺が関心しているとドローミが会話に入ってきた。



市谷いちがやよ。『アイテム』を回収しなくても良いのか?」

「え?」



化け物モンスターを倒しただろう、アイテムがドロップしているはずだ」

「はは。本当にゲームの世界だな……よしっ、確かめてみるか」



 俺は少し微笑むとゆっくりと歩き出したんだ。

 ゆっくり……ゆっくりと……。

 ゆらゆらと歩いていると火憐が近づいてきた。俺の肩を支えて、心配そうな顔をしている。

 もう心配しなくてもいいよ……俺はそんな表情をして彼女の行動に応えた。



「大丈夫なの? しばらく動かない方がいいんじゃない」

「確認したいんだ。すまない火憐、肩を貸してくれないか」

「う……うん……」




 俺は火憐の肩を借りながら、化け物がいた場所にたどり着いた。

 そこには……赤い液体の入っているフラスコがあったんだ。これは何なのかは大体予想はつくけどね。

 俺はそれを手にとってみた。



【ピコンッ! 『赤いポーション』を手に入れた】



 ポーションか。

 やっぱり……この世界はゲーム化しているんだ。

 手にとったポーションをジロジロと見ていると、説明文が空中に表示された。

 ステータスを相手に見せる時も思うけど、この演出は近未来的な感じがしてカッコいい。

 いや、今はそんな事より赤いポーションの効果をちゃんと見ないとな。



 ・赤いポーション……HPを全回復させる魔法薬。



 俺がマジマジと見つめていると火憐が横から覗いてくる。フラスコの中に入った綺麗な赤色の液体。まるでルビーのような輝きを放つ液体は、宝石の魅力を持つと言っても過言ではない。

 特に女性にとっては魅力的に映るのだろう。それを見る火憐の目もキラキラと輝いているからだ。



「へぇ。赤いポーション……こんなのもあるんだね」

「あぁビックリだ。まさかここまでゲームの世界と類似してるなんてな」



「それ。飲んでみたら?」

「え?」



 火憐の突然の提案に、俺は驚いてしまった。

 これは中に何が入ってるか分からない液体だぞ。いや、確かにこれを飲めば俺のボロボロの体を癒せるかもしれないけども……。



「う〜ん」



 俺はしばらく考えた後結論を出した。肯定的な結論を。

 まぁ……飲んでみるか。アイテムの表記が偽装だとは考えにくいからな。

 説明文が嘘なんてゲームは、どこの世界を探してもないだろう。



「分かった。飲んでみるよ」



 俺は火憐にそう言うとフラスコのコルクの栓を外して、自分の口元へと運んだ。

 そして……。



 ⦅ゴクゴクゴク⦆



 赤い液体が俺の体内へと入ってくる。

 それには味が無く温度もぬるい。

 当然かもしれないが体に害はなさそうだ。ゲームにある回復薬ってこんな感じなのかな?

 そう思うと、なぜか不思議な気分になった。

 もしかしたら自分はゲームの世界の住人で、画面の向こう側のに操作されているんじゃないかって。



【『蓮』は、赤いポーションを消費してHPを全回復した!】



 気がつくと俺は全てを飲み干していた。馬鹿な事を考えていないで、次の事を考えなきゃならないな。

 赤いポーションを飲んだおかげか体の痛みも収まったし、手足の感覚も戻ってきている。

 今なら、自分一人で歩いて行けるんだ。



 だけど……。



 俺一人でダンジョンの奥深くへ進んでいったらどうなる?

 火憐は? 火憐を一人で帰らせるつもりなのか?

 もし、さっきの化け物モンスターに遭遇すれば彼女は間違いなく死ぬだろう。

「要するに一人で帰れ」と提案するのは、「死ね」と言っているのと同じだ。

 正直、氷華がどうなっているかが気が気でない。今すぐにでもダンジョンのさらに奥へ探しに行きたい。



 でもそれは、火憐を死なして良い理由にはならないよな。

 彼女をダンジョンの外にだしてから、俺一人でまた氷華を探せば良いだけだ。



「なぁ、火憐」



 俺は精一杯の笑顔を無理やり作って火憐の方向を見た。

 その彼女はなぜか俺の笑顔を見ても変な顔をしている。

 作り笑顔だって事がバレたのだろうか? 火憐は勘が鋭いみたいだ。なら、俺がこの後に言う言葉を彼女は予測していただろう。



「ダンジョンから一緒に出よう」



 俺は火憐に右手を差し出した。

 この手を握ればダンジョンから生きて出られるだろう、チートスキルを持った奴隷スレイヴに守られながら安全に帰途につくだろう。

 しかし……。



 ――彼女はそれを選ばなかった。



 ⦅パシッ⦆



 火憐は俺の右手を握るのではなく払ったのだ。自分だけは必ず助かる道を捨てたのだ。

 驚きを隠せない俺に向かって、彼女は笑いながらこう言ったよ。



「はは。無理してるのバレバレだよ、幼馴染を探したいんでしょ?」

「う……うん」



「こんなんじゃ償いにならないと思うけど、蓮君には酷い事してきたから……せめて邪魔にはなりたくないの!」

「…………」



 どうやら火憐は、俺を虐めてきた事に引け目を感じているらしい。正直彼女には酷い事をされていないから、特に恨んでないんだけどな。

 火憐じゃなくて鮫島に反省してもらいたい。まぁ、根が真面目な人ほど責任感を感じると言う事なんだろう。

 酷い事をする人間は、それだけ責任感が欠如していると言う事だ。鮫島みたいにな。



 俺が黙って鮫島の事を思い出していると、火憐は胸に手を置いてまた顔を覗いてきた。

 それは俺にとって願ってもないような提案だったんだ。彼女が、本当に俺の事を信頼してるんだなって感じるような発言だったよ。



「私も手伝うわ。でも一つ聞いておきたい事があるの……また、化け物モンスターが現れたら私の事……守ってくれる?……」



 ってさ。

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