Chapter 3

28 戦いで得たモノ

 

 〈戦闘を終了致します〉――



 響き渡る待望の機械音を、俺は歓喜の表情……ではなく無表情で迎え入れた。

 心の中ではもちろん嬉しいが喜んでいられる程の力は残っていない。まだ身体中は痛んでいるし、立っているのがやっとの状況なんだ。



 ⦅ドサッ……⦆



「蓮君! 大丈夫?」

「問題ない……」



 ほら、重力に逆らえずに地面に膝がついてしまったよ。意識はハッキリしてるけどね、それだけが唯一の救いだ。

 ボロボロの体で意識まで失われたら火憐に迷惑がかかっちまう。

 でもまぁ……。



 俺があの化け猫を倒したのは事実なんだ。

 そう思うと少しだけ笑えた。

 後は火憐の元へと向かうだけ、俺はもう一度立ち上がろうと膝に力を入れ直す。

 その時だ。



 〈ジジッ……〉



 戦闘が終了したはずなのに機械音の音がまた聞こえ出した。

 それは、俺と火憐の顔を歪ませるには十分な音量だ。

 二人して顔を見合わせたよ。



 ――戦闘は一生終了しないんじゃないか、ってさ。



 でも……そんな事は無かった。

 続く機械音の内容はむしろ、俺達にとってプラスだったんだから。



 〈プレイヤーの『蓮』『火憐』は経験値を取得した〉



【ピコンッ! 蓮の『Lv.』が2に上がった】

【ピコンッ! 火憐の『Lv.』が8に上がった】



 どうやらステータスの『Lv.』は、ハリボテじゃないようだ。

 化け物モンスターを倒せば経験値が入り『Lv.』が上がっていくって事かな?

 俺はこの世界がゲーム化している事を思い出すと、自分のステータスを見た。

 もしかしたら、ステータスの能力値も上がってるんじゃないかって。



 ―――――――――――――――――――――――

 ●基本ステータス

 ・名前…市谷蓮

 ・性別…男

 ・年齢…17歳


 ●能力ステータス

 ・Lv.1→・Lv.2

 ・職業→『奴隷(スレイヴ)』

 ・魔法攻撃『0』→・『0』

 ・物理攻撃『0』→・『0』

 ・魔法防御『10』→・『11』

 ・物理防御『10』→・『11』

 ・知力→『1』→・『1』

↓↓↓↓↓

―――――――――――――――――――――――



 全然上がってない……。

 いや、何となく分かってたけどさ。これはあまりにも酷すぎるんじゃないか。

 もしスキルが無ければレベルを上げようなんて思わないぞ。



 ステータスを確認している時は、終始顔が引きつっていたと思うんだ。

 なぜかって? それはドローミが声をかけてきたからだよ。



「市谷よ。気分がすぐれぬのか? 今にも死にそうな顔をしとるぞ」

「ははは……確かに気分はすぐれないよ。スキルが無かったら本当に俺ただの雑魚じゃんか……てか……あれ?」



 ドローミとの会話中に俺はある事に気がついた。

 そうだよ。俺のステータスってこんなに低くなかっただろ?

 あの化け物を倒した時の、能力値オール1万のステータスはどこにいったんだよ。



「どうした市谷。そんなに動揺して」

「あのさドローミ。俺のステータスってさ、スキルで能力値上げなかったっけ?」



「あぁ……スキルの効力は戦闘時だけだ。戦闘が終わるとスキルは自動的に解除される」

「え……」



 ドローミが教えてくれた無慈悲な現実に俺は打ちのめされたよ。

 スキルを発動し続けていれば、いくら奴隷スレイヴと言えどもバカにされる事は無いだろうって思ってたんだ。

 だから……スキルが戦闘時でしか発動できないって事は、高校の生活に戻っても俺の扱いは変わらないって事。



 俺は暗い顔をしながら地面を見つめていた。視界にはドローミの鎖がフラフラと宙を動いているのが確認できる。

 まるで……俺、みたいだな。

 フラフラと嫌な事から逃げて……勉強にも……運動にも……それに鮫島からも。



 そう思うとほんの少しだけ涙が出てきた。

 もし生きて帰っても、何も変わらない高校生活が待っているのかってさ。



「はぁ……やっぱり上手くいかないもんだな」



 ⦅トンッ……⦆



 そうやって俺が大きなため息をついた時、背中から温かい優しさが感じられたんだ。

 ゆっくりと振り向くと、俺の背中に優しく触れる火憐の姿があった。



「どうしたの蓮君?」

「…………」



「もしかして、泣いてた?」

「……い、いや泣いてなんかいないよ。はは」



 そう言えばそうだったな。

 俺は馬鹿にされたり、憐れんだりされるだけの人間じゃなかった。

 ちゃんと俺の事を信頼してくれる人が、ここにいるじゃないか。

 奴隷スレイヴの俺を信じて逃げずに一緒に戦ってくれた人が……。



「ちょっと蓮君? 何笑ってるのよ」

「笑ってないから。はは」



「やっぱり笑ってるじゃない!」

「ごめんごめん。ってかさ、火憐もレベル上がったか?」



「ふふふ。もちろんよ」



 彼女は小悪魔のような笑みを浮かべた後に、俺が「見せて」と言ってもいないのに自分から見せてきた。



 ―――――――――――――――――――――――

 ●基本ステータス

 ・名前…松尾(まつお)火憐(かれん)

 ・性別…女

 ・年齢…17歳


 ●能力ステータス

 ・Lv.1→・Lv.8

 ・職業→『魔道士(メイジ)』

 ・魔法攻撃『110』→・『200』

 ・物理攻撃『40』→・『70』

 ・魔法防御『150』→・『300』

 ・物理防御『80』→・『100』

 ・知力・『50』→・『100』

↓↓↓↓↓ ―――――――――――――――――――――――



 やっぱり……。

 ステータスが上がってる……。

 彼女はステータスを見せた後も腕を組み、得意げな顔のまま尋ねてきた。

 質問内容はもちろんレベルUPについてだ。



「そう言えば蓮君もレベル上がったの?」

「…………」



「…………」

「…………」



「蓮君?」

「あ……上がってない」



 俺は火憐から目をそらし、そして口をつぐんでから嘘をついてしまった。

 だってしょうがないだろ。この流れだと俺もステータスを見せる事になる。

 多分、今の火憐なら単純に馬鹿にすると言うより「ププッ……何それ」って小馬鹿にするか、「あぁ……」って気を使われるだけだ。



 もちろん、どちらの反応を取られても俺は嬉しくない。

 はぁ……何で火憐はこんな質問するんだよ。俺のステータスがクソ雑魚って事くらい分かってるだろ……。

 俺が挙動不審の反応をしていると、火憐の方から話しかけてきた。

 どうやら彼女は嫌がらせで、この発言をしたのではないようだ。



「なんで誤魔化すのよ……1万のステータスになってたじゃない……」



 不思議そうな表情で俺の顔を覗く火憐。

 そういう事か……俺は誤解を解くために彼女の目をしっかり捉え、そして……。



「実はあれ、スキルなんだ」

「え? どういう事?」


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